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2009 Rd.15 日本GP観戦記

▽神の手が作ったサーキット 素晴らしい才能と素晴らしいマシンが組み合わさった美しい勝利だった。 難攻不落の鈴鹿サーキットを、実質鈴鹿初体験のベッテルが制した。 優れた才能を持つドライバーには経験はあまり関係ない。 彼らは数周も走るとまるでベテランドライバーのように、躊躇なくコースを攻めていく。 実際、今回表彰台にのぼった3人のうち2人は、鈴鹿初体験だった。 鈴鹿はマシンに多くを求めるサーキットである。 長い直線に低速、中速、高速コーナーを含む全長約6Kmのコースはマシンの総合戦闘能力を如実に表す。 マシンの基本性能が低ければ、どんなセットアップをしても成果は少ない。 だが、同時に鈴鹿は本物のドライバーズサーキットでもある。 ベッテル曰く、「神の手が作ったサーキット」。 多少マシンの性能が劣っていてもドライバーの力である程度はタイムが出せるサーキットでもある。 ▽ハミルトンの輝き ハミルトンの結果は、まさにそれだった。 マクラーレンのマシンは、ここ鈴鹿で戦闘力があるとは思えなかった。 マシンの性能としてはコバライネンあたりの順位が順当だったと思う。 それをハミルトンは荒れた予選で3位を獲得。 最初のスティントでソフトタイヤを履いたこともよかった。 保守的な選択であれば、東コースが再舗装されタイヤに厳しくなり、気温も上がったのでハード-ハード-ソフトと繋ぐのがセオリーだった。 スタートでは、路面がきれいな奇数列スタートをいかし、ソフトタイヤのグリップでスタートダッシュを決めKERSの加速で、トップにたつという攻撃的な作戦だった。 結果的にベッテルをかわすことはできなかったが、2位に浮上。 もし、スタートでハミルトンがベッテルをかわしていれば、レースはもっと面白い展開になっただろう。 ハミルトンは、最初のピットストップまで2位をキープする。 ところが、第二スティントではロングランになることからハードタイヤを選択。 同じタイヤを履いた状態ではトヨタの方が速く、苦しくなってしまった。 結果的に3位になったハミルトンであるが、これは彼にしかできない成績。 最終的にトヨタに抜かれたが、それも紙一重で、今週末はトヨタのパフォーマンスの方が明らかに優れていたので、健闘したと讃えたい。 ▽トヨタ 実力の2位 この週末のトヨタのパフォーマンスは素晴らしかった。 シンガポールで前倒しで投入された鈴鹿スペシャルのマシンは、リアサスペンションのロアアームの取り付け位置を上に移動した。 さらにブレーキダクトにフィンをつけて、空気の流れを改良。 抵抗を増やさずに、ダウンフォースを増やすことに成功した。 この成果は、低速のシンガポールよりも中高速コーナーの多い鈴鹿で顕著に表れた。 決勝での2位は正真正銘の実力であり、シンガポールGPで勝ち取った2位よりも何倍も価値がある8ポイントである。 まずスタートでは予想通りハミルトンに前に出られ、トヨタにとっては最悪の展開。 1分33秒台前半のベッテルは、2位のハミルトンと3位のツゥルーリを徐々に引き離す。 ツゥルーリは単独で走ればハミルトンより速いはずなのだが、鈴鹿では抜くのが難しい。 そこでツゥルーリは燃料をセーブする走りに変えた。 コーナーでハミルトンより余裕のあるツゥルーリは、燃費を稼いでもハミルトンについていくことが可能だった。 ここで最初のストップをハミルトンより1周遅らせたことが決定的なポイントとなった。 スタート時にはほぼ同じ燃料搭載量だったこの2台だったが、ツゥルーリは燃料をセーブして、ハミルトンより1周遅くピットへ向かう。 前の週にハミルトンの燃料搭載量を確認したトヨタは、次のピットインのタイミングをハミルトンより2周遅らせることに成功。 この2回目ストップ直前の2ラップの間にツゥルーリはそれまでの1分33秒台半ばから、33秒台前半に急激にペースを上げる。 そして、最後のピットストップ作業も完璧に済ませたトヨタは、ツゥルーリをハミルトンの前で送り出すことに成功。 その瞬間鈴鹿が揺れた。 本当に見事なトヨタの戦術とそれに応えたツゥルーリの走りだった。 今シーズンの走りを見ている限り、ツゥルーリがスタートでハミルトンの前に出られると、苦しいだろうと予想していた。 ライコネンに抜かれる可能性もあると考えていた。 ところが、この日のツゥルーリはスタートで3位になっても慌てる素振りも見せずに、ハミルトンを追い続ける。 全く諦めることを見せない走りは、見事。 S字で見ている限りツゥルーリには余裕さえ感じられる走りだった。 第一スティントで燃料をセーブし、二度目のピットインで、前走車をかわす。 これまでブラウンGPやマクラーレンに何回もされてきた戦術を今回は、トヨタがやり返した格好だ。 なによりトヨタが攻撃的な作戦で、2位を獲得したことの意味は大きい。 このようなレースを1年間続けることができれば、初優勝も夢ではない。 マシン的にはトヨタはレッドブルとほぼ同等の戦闘力があったように見えた。 だが、トヨタの初優勝は1人の若いドイツ人によって阻まれた。 ▽光るベッテルの才能 トヨタの前に立ちふさがったのは、セバスチャン・ベッテルだった。 鈴鹿のコースは、レッドブルには合っている。 中高速コーナーが中心のコース設定は、レッドブルのために用意されたコースといってもよかった。 東コースが再舗装されてフラットになったのも、レッドブルにとっては有利な材料だ。 問題は西コースだった。 路面がスムースな東に比べて、旧舗装の西は路面が凸凹している。 しかも130Rで大きなダウンフォースがかかるので、車高を下げすぎると底付きしてしまう。 第一セクターでタイムを稼ぐのであれば、車高は低くしたい。 だが、西コースを考えると車高を下げられない。 そのバランスが非常に難しい。 しかも今回、金曜日は終日雨でドライ用のセットアップはできなかった。 残るは金曜日午前中 1時間のフリー走行のみ。 ここでセットアップの確認とロングランでのタイヤテスト。 燃料を減らして予選のタイムアタックの準備。 やらなければならない事が満載の1時間。 こういう状況ではやはり、経験に優るビッグチームは有利である。 だがレッドブルとベッテルは、この難しい状況を見事にマネージメントし、中断が相次ぐ難しい予選を制してポール・ポジションを獲得。 もし、ポール・ポジションが取れていなければ、トヨタが初優勝してもおかしくない状況だった。 しかも、レッドブルはツゥルーリとハミルトンより燃料搭載量が多い状態でのポール・ポジション。 ライバルの予選タイムを正確に予想し、自分達の予想タイムからポール・ポジションを取れるだけのスピードがある燃料を搭載。 レッドブルの戦術もまた見事だった。 スタートでトップを守ったベッテルは、後はひたすら前を向いて走るだけだった。 二度目のピットストップの2周後には、自身のベストラップを記録。 クリスチャン・ホーナーに、「あまりにも速いので、燃料を入れ忘れたかと思った」と軽口をただかせるほど見事なベッテルの走りだった。 SCが入っても慎重に再スタートを決めて、トップを守り瞬く間に2位のツゥルーリに差をつけて、鈴鹿初優勝を決めた。 レッドブルは確かにダウンフォースが大きく、速いマシンであるが、とてもドライビングしにくいマシンでもある。 風や車高の変化に敏感で、ダウンフォース量の変化が大きい。 その為、非常にドライビングが難しい。 実際、鈴鹿ではベッテルを除く、同じマシンに乗るレッドブルとトロ・ロッソのドライバーはコースアウトが多かった。 だから、マシンが良かったからベッテルが勝てたというのは、一面では正解であるが、それが全てではない。 優れた能力を持つベッテルがいたからこそ、勝つことができたのである。 どんなに優れたマシンも、それを引き出す素晴らしいドライバーがいなければ、実力を出し切ることは難しいのだ。 優れたマシンと優れたドライバー、そして優れたチーム戦術がかみあわさった見事な勝利だった。 今回、7位と8位に終わったブラウンGPの二人との差はバトンと16ポイント、バリチェロとは2ポイント差。 バトンとの16ポイント差を考えると、シンガポールのペナルティで失った3ポイントは余りにも痛かった。 もし2レースを残して13ポイント差となるとバトンへ掛かるプレッシャーは、かなり大きかったのだが。 どちらにせよベッテルは勝ち続けるしかなく、その前に立ちふさがるのはブラウンGPではなく、エンジン問題であろう。 8基のエンジンを全て使用しているレッドブルに、エンジンの余裕はない。 このままエンジン交換せずにシーズン終了までいくか、エンジン交換するのか。 エンジン交換しないのであれば最終戦の最終ラップまで、気が抜けないレースが続く。 ▽苦戦するライコネン さすがにライコネンの力を持ってしても開発を打ち切ったフェラーリでは、4位になるのが精一杯だった。 普通のドライバーであれば開発を打ち切ったマシンであれば8位くらいでも素晴らしい結果といえるだろう。 だからこの4位はライコネンのドライバーとしての能力の高さを見せてくれる結果となった。 もちろんライコネンは、この結果に満足はしていない。 彼の目標は勝利のみ。 彼は勝てるマシンがなければ、走らないと言っている。 来シーズン、ライコネンがどこのチームにいくかはわからないが、どこかのチームで彼の才能を見せてくれることを望みたい。

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