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2012 Rd5 スペインGP観戦記

▽マルドナド まさかの初優勝!
今年のレースは大混戦である。特に予選はそうである。今年の予選は何でもあり。だからハミルトンのペナルティがあったにせよ、マルドナドがポールポジションを獲得したことには、大きな驚きはなかった。だが彼が勝つとは予想できなかった。実際、ウィリアムズのエンジニアもレースペースが悪いことから、優勝を現実的な目標にはしていなかった。
だがマルドナドは二度のワールドチャンピオン フェルナンド・アロンソを下して初優勝を飾った。二人の走りに差はなかった。二人とも速いペースを維持し、ミスもほとんどなかった。

では何が二人の運命を分けたのであろうか。スタートから振り返って見よう。

スタートの蹴り出しは2人とも良かった。だがアロンソを意識したマルドナドはイン側に寄せていく。タイヤを切ったことでそれが抵抗となり、加速の伸びが若干落ちたマルドナドは、アロンソに先行を許してしまう。蹴り出しは悪くなかったのだから、そのまま真っ直ぐいけばトップの可能性もあったと思うのだが、これが経験不足と言うことなのか。ただこれまでのマルドナドであれば、これで勝負あったという感じなのだが、この日の彼は違った。第一スティントの序盤こそアロンソに引き離されるも、徐々に挽回し差を縮めてくる。そして、決定的な瞬間は二回目のピットストップで起こった。
マルドナドは、この直前まで一時は6秒ほどに開いていたアロンソとの差を1.5秒にまで縮めていた。そこで先に動いたのはマルドナドであった。アロンソは ステイアウトを選択。この時のフェラーリ陣営としては、ここで入ると最終スティントの終盤にタイヤの崖を迎えてタイムが極端に落ちることが不安だったのだ ろう。2周ステイアウトしたアロンソは、ここでマルドナドにトップを譲る。

この後も2人の差は大きくなったり、小さくなったり、一進一退を繰り返す。最後の三回目のストップが終わっても二人の順位は変わらない。そして最終スティ ントは二人のドライバーの一騎打ちとなる。徐々にマルドナドに近づくアロンソだが、このサーキットは追い抜きがかなり難しいサーキットである。前を走るド ライバーが最終コーナー立ち上がりでミスをしない限りKERSとDRSを使っても抜くのは容易ではない。
落ち着いていたマルドナドは、決して最終コーナーでミスをしない。彼は冷静にも自分のタイヤを持たせるために、ペースをコントロールしていたのだ。まるで フェルナンドの様である。そして最後の三周になりアロンソにはマイナートラブルが発生し、ペースが落ち始める。こうなるとアロンソにとって、できることは もうなかった。

第二スティントでウィリアムズがマルドナドを先にピットに入れた時、チームは最後までタイヤが持つかどうかは自信がなかったと思う。だが、あそこで勝負に いかなければ優勝することはできないと判断したのだ。トップに立てればクリーンなエアの中を走れるので、タイヤを温存できるという考えももちろんあっただ ろう。そして路面の状況が改善されるとの予想もあった。この予想の部分は本当に難しい。だが名門チームには素晴らしいスタッフがいた。本当に素晴らしい決 断であった。

この時、フェラーリが反応してアロンソを1周遅れでピットインしても、トップを維持することは難しかっただろう。彼らがトップを維持するには同時ピットイ ンしかなかったのだが、フェラーリはマルドナドのピットインのタイミングを読めなかった。そして、この決断が勝負を分けるポイントとなった。

▽勝てるチームと勝てないチームの違い
この日のウィリアムズを見ていると、思わずザウバーの事を思い出さずにはいられない。ザウバーはマレーシアGPで勝てるチャンスがあったにも関わらず、常 にアロンソの後でタイヤ交換することで、トップを奪う機会を逃した。これはあきらかに2位という順位を失うことを恐れたのだ。過去に何度も話しているが、 マシンが良くてドライバーが良いだけでは、レースには勝てない。チームがレースに勝つという強い意志がなければ勝つことはできないのだ。つまりウィリアム ズにはそれがあり、ザウバーにはそれがない。
詰まるところは、そういうことである。
名門チームは長い低迷期間中にも、勝利への意欲を失ってはいなかった。だから今後もザウバーが勝つことはないだろう。次に勝つのであれば勝利を目指した経験のあるロータスだろう。
それが可夢偉にとっての悲しい現実である。

▽ハミルトン 予選タイム剥奪の顛末
ハミルトンは予選Q3でダントツのタイム(2位に0.5秒の大差をつけて)でポールポジションを獲得した、かに見えた。だが彼は予選修了後、タイムを取り 消され最後尾スタートとなる。これは彼がQ3終了後、燃料が足りなくなりコースサイドにマシンを止めた事が理由である。レギュレーションでは予選終了後は 自力でピットに戻り、車検用の燃料サンプル1リットルを残すことが義務づけられている。マクラーレンは、これを満たすことができなかった。ではなぜ彼らが そんなことをしたかというと、燃料をぎりぎりまで少なくして、マシンを軽くしたかったからだ。特にこのサーキットはフューエルエフェクトが大きいので、軽 いと言うことはそれだけ速いということである。

だがハミルトンのタイムは2位に0.5秒の大差をつけている。この程度の燃料を積んでも順位にはまったく影響はなかった。それにも関わらずにマクラーレン がここまで燃料を削ったと言うことは、ルイスのタイムが彼らのシミュレーションをも上回っていたと言うことだ。恐るべし、ハミルトン。

また裁定が厳しかったのは、マクラーレンが過去に何度も同様の事を行っていたからである。一番に記憶に残っているのは2010年のカナダGP。この時は1 万ドルの罰金を科されている。だからマクラーレンのスタッフは今回も、厳しい処置は下されないと考えていたのだろう。だが今のF1は燃料をコンピュータで 管理して噴射している。だから燃料の消費量を間違えることはまずない。だからFIAはこのマクラーレンの行動を意図的と判断。過去の彼らの事例を踏まえて 悪質と判断して、厳しい裁定を下した。

それにしてもハミルトンは素晴らしい走りを見せた。今年の厳しい競争環境の中で2位に0.5秒もの大差を付けることはあり得ない。しかも彼は今年二回もこれを達成している。それだけに彼がポールポジションからスタートしていたらどうだったのかは、興味深い。

▽可夢偉 5位入賞
今年のザウバーのマシンは本当にいい。最初の大きなアップデートが施されたヨーロッパラウンド開幕のスペインGPでも、オーバーテイク・キングの呼び名に ふさわしいレースを見せてくれた。特にバトンをターン5で、ロズベルグをターン10で抜いたのは圧巻だった。普通は抜けないコーナーで抜いていく可夢偉の ブレーキングテクニックは素晴らしい。普通、抜く方がブレーキをロックさせることが多いのだが、可夢偉の場合は、抜かれる方がブレーキをロックさせる。こ のブレーキングのフィーリングはF1ドライバーの中でも屈指である。

だが予選でQ3進出を決めたもののオイルプレッシャーが落ちてしまい、Q2終了直後にストップ。Q3では一度もアタックできなかった。これで新しいタイヤを温存できた面があるのだが、Q3で新しいタイヤでアタックしたらどの程度のタイムが出ていたかは非常に興味深い。
だがザウバーにいる限り、マイナートラブルは避けて通れないだろう。可夢偉にとっては何とも歯がゆいばかりである。

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