現代ドライバー移籍事情 なぜ可夢偉は鈴鹿で3位になってもシートを確保できないのか?
▽注目を集める移籍市場
さて今年はいつになくドライバーの移籍が注目を集めている。
その口火を切ったのは9月のハミルトンの移籍発表であろう。長年走ってきたトップチームから誰がどう見てもそれより落ちるメルセデスへ移籍するのであるから、これは驚きだった。
そしてほぼ同時に発表されたペレスのマクラーレン移籍。これにも驚かされた。マクラーレンがハミルトンの移籍にすぐさま反応したからだ。正直に言うとペレスクラスのドライバーであれば、シーズン終了後に契約しても問題なかった。ペレスに興味があるのは、ザウバーくらいだったからだ。
そしてマッサの続投も決まる。彼に関して言えば、マッサを走らせたい人たちと、他のドライバーに変えたい人たちがチーム内にいて、いろいろと駆け引きが繰り広げられていたようだ。最終的に他のトップドライバーと話がまとまらなかったことや、マッサが土壇場の日本GPで2位表彰台に登ったこともあり、続投が決まった。
そしてヒュルケンベルグのザウバー入りが発表される。これは彼をマッサの代役として考えていたフェラーリが代替案としてザウバーへ押し込んだと考えていいだろう。フェラーリはザウバーにエンジンを供給しており、その使用代金の大幅減額か無償供与を提案すれば、お金のないザウバーに選択の余地はない。
そして残るは我らの小林可夢偉である。
彼の来年のシートは現時点(11月7日時点)では確定していない。
これだけ活躍しているのに何でザウバーに残れないのかと疑問に思う方も多いだろう。
だがF1において自分の能力だけでシートを得られるのはほんの一握りである。
それ以外の中堅ドライバー達はスポンサーやエンジン供給、それらを含めた総合的なマネージメント力でシートを確保する。
例えばマッサのマネージャーはニコラス・トッドという小柄なフランス人である。彼はその名字から推測できるように元フェラーリのチーム代表であり、現FIA
会長ジャン・トッドの息子である。不幸なハンガリーGP以降、思うような結果を残せていないマッサがフェラーリのシートを得られているのは彼の力が大きい。結果だけを見ればマッサは交代させられても、誰も不思議には思わないだろう。
またマーク・ウェバーもマネージメント力でのし上がってきた1人である。彼のマネージャーは、フラビオ・ブリアトーレだった。彼の力で複数のチームを渡り歩いてきた彼が最後に掴んだシートが、最速レッドブルだったというわけだ。彼もそれまでにシートを失っていても誰も気にしなかっただろう。
そして中嶋悟や佐藤琢磨がホンダのエンジン供給と密接な関係があったことはご存じだろう。
▽可夢偉が表彰台にのっても契約できない理由
ここまで可夢偉の去就が決まらないには、理由がある。それは世界的な経済成長の停滞である。これによりスポンサーが少なくなり、スポンサーがいても金額が少なくなっている。2008年のリーマンショック以降、最近の欧州債務危機の煽りを受けてスポンサーが激減している。その為、少数のチームを除いてどのチームも台所は火の車である。
お金の心配がいらないのはレッドブル、フェラーリ、マクラーレン、メルセデスの4チームで、それ以外は多かれ少なかれお金に困っている。だから少しでもお金の持ってこられる、スポンサーがいるドライバーを求めている。
今年、シーズン開幕前に不可解な出来事があった。2012年シーズンを走ることになっていたツゥルーリが下ろされ、ペトロフが契約した。これもペトロフのロシアマネーのお陰である。最もペトロフはロシアマネーを失うと同時に、シートを失う事も確定的なのだが。
今の時点で残ったシートはほぼペイドライバーと呼ばれる人たちの可能性が高い。
つまり可夢偉自身が認めているように、彼の去就はお金次第と言うことである。
とはいえザウバーを責めるのも酷である。彼らは巨額の債務を抱えている。BMWからチームを引き取ったはいいものの、スポンサー不足の彼らはBMWからの違約金を使い果たし、今ではすっかり赤字である。だからお金が欲しい。そもそもお金がなければチームは存続できない。だからチームは可夢偉の力を認めていても、この時点で彼と契約することはできない。全ては来年の予算次第である。
先ほどのトップ4以外はどこも巨額の赤字に苦しんでいる。つまり資金調達に失敗すれば破綻することもあり得るのだ。であるならドライバーの選択基準はお金の比重が重くなる。お金はあるけど能力の劣るドライバーを走らせれば、結果的にコンストラクターズランキングが下がり、分配金が少なくなるというは理性的かつ論理的な結論だが、倒産寸前の会社を経営していれば、将来のことは考えられなくなる。未来のお金より今のお金が必要になる。
もっとも私はペイドライバーを否定的にとらえているわけではない。あのミハエル・シューマッハーだって最初にジョーダンからデビューした時は、メルセデスからお金を出してもらった。あのニキ・ラウダだって自分でお金を払って
F1デビューを飾っている。問題はお金を出して乗るか乗らないかではなく、そのドライバーが優れているか優れていないかである。
もちろん今の時代がドライバーに厳しい時代なのは間違いがない。ワークスチームが独占していた2008年以前であれば、実力があればシートには困らなかったであろう。でも時代は変わった。そうであれば文句を言っても始まらない。残りのレースを頑張り結果を残しつつ、スポンサーを探すしかない。可夢偉が来年シートを得られる可能性は日に日に少なくなるが、それでも可能性があるなら、それに向かって全力を尽くすしかない。
そしてそれがダメなら次の方策を考えて、行動するしかない。それがリザーブドライバーになるのか、他のカテゴリーになるのか、留年になるのかはわからない。
来年、可夢偉の姿がF1シーンで見られることを願うのみである。
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