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メルセデス DASの秘密

 
 

まずはじめに、新型コロナウィルスの大流行で病院等の最前線で感染拡大を防ごうと昼夜を問わず、医療業務に携わっていただいている医療従事者の方に敬意を表すると同時に、感謝を申し上げます。
また、新型コロナウィルスに罹患された方とそのご家族、関係者の皆様にお見舞い申し上げます。
 
新型コロナウィルスの影響でまさかの3月開幕直前のキャンセルから、いまだにいつ開幕するかもわからないF1です。
もっとも今の状況はスポーツを開催する以前の問題で、命を守ることが最優先なのも事実です。
 
とはいえ長い歴史を誇る英国AUTOSPORT誌がF1開幕まで休刊したり、またいくつかのF1チームは経営的に危ないなど言われています。そもそもF1が開幕もしていないので、今年はまだ一度もブログを更新していなかったのですが、いくつか気になった点を掲載させていただきます。
 
■メルセデス DASの秘密
メルセデスが新たに開発したDAS(デュアル・アクシス・ステアリング/2軸ステアリング)。
これはいかなるシステムなのでしょうか。
 
クルマにはF1に限らずトー角度がついています。
トーインとはクルマを上から見たときに、フロントタイヤの左右タイヤの先端の距離が縮まった状態です。
当然ながら左右タイヤの後端の距離は広がります。
逆に先端の距離が離れていればトーアウトと呼ばれます。
 
基本的にトーインにすると直進安定性が増します。
なので市販車は普通トーインになっています。
普通の人が運転するクルマは直進安定性がないと危険ですからね。
 
でもレーシングカーはトーアウトが多い。
なぜならトーアウトにすると運動性が上がる、すなわちクルマの向きを変えやすくなります。
ただ直進安定性は犠牲になるので、レーシングカーのように運転の上手い人が乗るのには問題がありません。
 
ではメルセデスは何をしているのでしょうか。
メルセデスは直線に来るとドライバーがハンドルを手前に引いています。
こうすることによりトー角度を変更しているんですね。
 
トーアウトをニュートラルにしていると思われます。
そうするとどういうメリットがあるのでしょうか。
 

ひとつめに考えられるのは、左右のタイヤを平行することにより直線でのタイヤの抵抗を少なくできます。
タイヤの向きが進行方向に対して角度がついていると、当然タイヤの摩擦が増えるので抵抗も増えます。
それを低減する為に、トー角度を減らしていると思われます。
 
そしてもうひとつが、左右のタイヤを平行にすることで空気抵抗を低減させることもできます。
これも先ほどと同じでタイヤに角度がついていれば、正面から見たときにタイヤの面積が増えるので、空気抵抗も増えます。
 
メルセデスは主にこの二つ目の効果を狙っていると思います。
300Kmで走っているとタイヤの抵抗よりも空気抵抗の方が明らかに大きいですからね。
 
これによりどの程度抵抗が削減できるかはデータがないので不明です。
ただメルセデスが工数をかけて開発していること、本来軽くしたいはずのフロントの最前端に複雑な構造のDASシステムを組み込んだことを考えると、それなりのメリットがあると考えられます。
 
今のF1はひとつのデバイスやギミックでいきなり速くなることはなくて、ほんの少しのマージンを取り、それを積み重ねながらライバルに対して優位を築いていくというやり方が主です。
 
なのでメルセデスがDASを導入したから他社に対していきなり速くなることはないと思いますが、少なからず優位性を持つことになりでしょう。
 
またトー角度を変更できることにより、通常のトー角度を多めにつけることも可能になります。
そうするとマシンの挙動を素早くすることもできますし、セーフティカーが導入された時にトーアウト角度が大きいことにより抵抗が大きくなりフロントタイヤを温めやすくすることもできます。
 
直線でトー角度をゼロにできると抵抗が少なくなり、タイヤの発熱を抑えることにより、タイヤの持ちをよくする効果も考えられます。
 
どちらかというとメルセデスはこのタイヤの効果をメインで考えているかもしれないですね。今のピレリタイヤは動作温度領域を外すとグリップしないですからね。
 
来年も今年と同じマシンで競争することが合意されたF1ですが、メルセデスはこのDASを2021年から禁止することに同意しています。つまりメルセデスもこのDASをライバルがコピー可能だと考えていて、そのアドバンテージは今年だけと考えているんでしょうね。
 
ちなみにレッドブルはこのDASをコピーするのが難しいと言われています。このDASはタイヤの向きを変えるトラックロッドを利用してトー角度を変更していると言われていますが、レッドブルは今年からこのトラックロッドの位置を後方に移動させているのでDASシステムを内蔵するのが難しいと見られています。実際メルセデスのフロント部分の最先端にこのシステムは装備されているように見えます。
 
ただでさえ今年からレッドブルは昨年までの太いノーズから狭いノーズへ変更しているので、追加の装置を導入するスペースを見つけるのは容易ではありません。
 
あのメルセデスでさえDASシステムを考案して実装するまでに数年の年月を要しているのですからね。
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