先週の70周年記念GPで今年初の敗北を喫したメルセデス。スペインGPでもフェルスタッペンの脅威にさらされましたが、それでもハミルトンは優勝しました。先週と今週は何がどう違っていたのでしょうか。
▽フェルスタッペンのペースだった金曜日
実は金曜日の時点ではフェルスタッペンのロングランペースはかなり良かったのです。メルセデスの二台よりも良かったくらいです。フェルスタッペンのミディアムでのロングランは0.3秒ほどもハミルトンより早かったのです。もちろん金曜日に速かったからと言って日曜日のレースに勝てるわけではありませんが、先週初優勝したフェルスタッペンに流れが来ているかと思われました。
金曜日にハミルトンやメルセデスが、フェルスタッペンが脅威だと言っていたのは外交辞令ではなく、実際に彼らはフェルスタッペンを脅威に感じていました。
なので金曜日の時点では、フェルスタッペンの2連勝もあり得ると思っていました。ところがです、レースではハミルトンの圧勝となりました。ではどこでストーリーは書き換えられたのでしょうか。
▽フェルスタッペン理想的展開からの完敗
まずいつのレースでも超重要なスタートです。蹴り出し自体はハミルトンもボッタスも同じくらい良かったのですが、その後の加速でボッタスはやや多くアクセルを踏み込んでしまい、ホイールスピンをしてしまいます。そのため加速の鈍ったボッタスは、フェルスタッペンがハミルトンのスリップを使ったこともあり抜かれて、さらにはレーシングポイントのストロールにインから、フェルスタッペンからはアウトからかぶされて行き場をなくし4位に落ちます。
これでフェルスタッペンが2位になり理想的展開かと思われたのですが、そうではありませんでした。先週と先々週にシルバーストーンはスタートからメルセデスが二台とも1-2だったので、フェルスタッペンがスタートで2位になれたのはいいと思われるかもしれませんが、この2日に限ってはそうではありませんでした。
理由は、過去2週のレースではフェルスタッペンの前を走るメルセデスの二台が激しくタイムの競い合いタイヤを消耗していました。特に最初のイギリスGPはそうでした。そして最後に二台のタイヤがパンクしたのはご存じの通りです。
ところが今回はハミルトンの次にフェルスタッペンが来たので、メルセデス同士の競い合いでタイヤを消耗することがありませんでした。しかも金曜日にロングランでペースの良かったフェルスタッペンでしたが、日曜日にはハミルトンの方がペースが良くなっていました。そのためハミルトンは余裕を持ってレースを走れました。
それでもハミルトンはタイヤが心配だったので、10周目まではペースを落としていました。しかしタイヤが大丈夫なことを確認するとペースを上げていきます。ところがフェルスタッペンはそのペースについていくことができません。逆にフェルスタッペンの方が先にタイヤ交換することになってしまいました。
ではフェルスタッペンはボッタスをとっと先に行かせてハミルトンを追わせれば良かったかというと、それもまた違いました。そうすれば確かにメルセデスのタイヤは消耗するかもしれませんが、このレースでは先週よりもタイヤが楽だったので、その場合フェルスタッペンは3位になる可能性があり、実際そうなったことでしょう。
▽タイヤセット変更の影響
さらにタイヤセットが先週よりワンランク固くなったことで、ハミルトンはタイヤの消耗を過度に気にする必要はありませんでした。実際に第一スティントで走ったハミルトンのソフトタイヤをチームが調べたら、何の問題もないことがわかりました。だからチームはハミルトン最後のスティントでソフトをつけさせようとしました。それでも十分に最後まで持つと確信していたからです。実際はハミルトンがミディアムがいいとその指示を覆したのですが、実際問題としてどちらのタイヤを履いても大勢には大きな影響を与えませんでした。
正直、この一番硬いタイヤセットはスペインには硬すぎたようです。金曜日の時点で、ドライバー達は口々にハードは硬すぎて使えないと話していました。つまりハードは捨てタイヤになってしまったんですね。実際、レースでもハードタイヤを履いたのはアルボンただ一人だけでした。
さらにタイヤが硬くなったことにより、ピレリは先週より空気圧の指定を低くしました。空気圧が低いとトレッド面はより平面に近づき、タイヤの熱はトレッド面に平均的分散する傾向になりブリスターが発生しにくくなります。先週、ハミルトンがフェルスタッペンはずるをして空気圧を下げているんじゃないかと話していたのは、これが理由です。この指定空気圧の低下もメルセデスにとっては有利に働きました。
タイヤに問題がなければ、最速のマシンが勝つのは当たり前の話で、今年最速のメルセデスのハミルトンが勝つのはこれまた当たり前の話だったのです。
こうしてスペインGPはまたもハミルトンの圧勝となりました。先週の逆転劇はピレリがお茶目にタイヤセットをワンランク軟らかくしたので発生した1回だけのファンサービスだったのかもしれません。
そんな中でもフェルスタッペンがチームから無線で、ハミルトンに近づいているぞと伝えられたときに、そんなのわかってるよ、ハミルトンはゆっくり走っているじゃんと冷静で返していたのには感心しましたね。普通ドライビング中は心拍数も上がっていて冷静な判断ができないことも多いのですが、レース中のこの冷静さは過去の偉大なチャンピオン達に通じるものを感じました。
それだけに早くフェルスタッペンにメルセデスと戦えるマシンを提供して欲しいですよね。かなり難しいのはわかっていますが。それではやっと1週休みが入り8月末のベルギーGPでお目にかかりましょう。