F1 ニュース&コラム Passion

今年のレッドブルは遅いのか速いのか?

コロナウィルス大流行の影響でイレギュラーなスケジュールで開幕した2020年シーズン。7月に開幕して以来メルセデスの独走が続いています。一方今年こそはタイトルに挑戦すると意気込んでいたレッドブル・ホンダですが、まったく競争になっていません。

サーキットによっては予選でピンクメルセデス(レーシングポイント)にも負ける有り様です。確かに70周年記念GPでは勝利しましたが、これは以前の観戦記にも書きましたが、ピレリが連戦のシルバーストーンに軟らかいタイヤセットを持ち込んだ故に起こったアクシデントみたいなものでした。

70周年記念GP観戦記
奇跡ではないレッドブルの勝利
最後まで戦ったメルセデス

ではレッドブルの今年のマシンは遅いのでしょうか。

私はレッドブル・ホンダのポテンシャルは高いと思っています。ただ前後のダウンフォースのバランスが悪いのとバランスが変化してしまうのが問題だと思っています。

彼らは今年、空力コンセプトを変更してきました。フロントノーズの太さを昨年より狭くしました。これはメルセデスに近い考え方です。フェラーリは昨年同様、フロントノーズが太いままのコンセプトです。なのでレッドブル自身がまだこの新しいこのコンセプトになれておらず、試行錯誤を繰り返しているのだと思います。

今年型のフロントノーズ。昨年型と比較すると細くなっています
昨年型のフロントノーズ。今年型より太いのがよくわかります

この問題をバルセロナテストの時からチームもわかってはいて、開幕戦のオーストリアGPでアップデートしたフロントノーズを投入してきましたが、問題は解決されませんでした。コーナーリング中に前後のバランスが変わってくるとドライバーにとっては、運転のしにくいマシンになります。常に修正をする必要があります。実際、開幕戦でもそれ以降でもフェルスタッペンやアルボンがスピンする場面がよく見られました。

関係者の話を聞くと、レッドブルのマシンはコーナー入口ではアンダーステアになり、出口ではオーバーステアになるといいます。これを聞くだけでも運転しにくそうと感じますよね。コーナー入口でアンダーステアが出て曲がらないと、ステアリングを更に切れ込んでタイヤの角度が変わります。そうするとタイヤの角度が大きくなり、後方への空気の流れに変化を与えるので、それが後方のデヒューザーに影響を与えて、リアのダウンフォースを減らし、出口でオーバーステアになっていると言われてます。

これではドライバーは思い切ってコーナーに飛び込めませんし、立ち上がりでも思い切ってアクセルを踏めません。コーナーリング中は常に修正しているような状況で速く走れるわけがありません。メルセデスの車載カメラとか見ていて、ハミルトンがほとんど修正していないのとは大きな違いで、これでは勝負になりません。

今年、アルボンがフェルスタッペンに大きく後れを取っているのは、これが大きな原因だと思います。フェルスタッペンは超絶な反射神経とテクニックで、こんな運転しにくいマシンでもなんとか抑え込めていますが、アルボンは明らかに余裕を持たせて走っているのが車載カメラからは一目瞭然です。クリスチャン・ホーナーがフェルスタッペンのチームメイトは世界一難しいと述べているのはこのことです。

実は昨年もレッドブルは前後の空力バランスに問題があり、7月のオーストリアGPで新しいフロントノーズを投入して、後方への気流を改善したことにより、ホンダ復帰後の初優勝をしました。だから昨年ガスリーが前半戦に結果が残せなかったのもこれが大きな原因です。

F1ドライバーには大きく分けて、ふたつのタイプがあり、ひとつは乗りにくいマシンでも無理矢理タイムを出せるフェルスタッペンやアロンソのようなタイプと、自分のスタイルに合わないと踏み込めないタイプがあると思っています。これはどちらがいいかという問題ではなく個性の違いです。

では今年レッドブルはこの問題を解決できるのでしょうか。私は解決できると思います。ただいつまでの解決できるのかが問題です。シーズン終了後に解決しても意味はないですからね。

昨年も3月に開幕し、彼らが問題を解決したのは7月のオーストリアGPでした。つまり4ヶ月かかっています。もし今年も修正するのに同じ期間が必要だとすると11月までかかることになります。まだシーズン全体が何レースあって、いつ終わるのかがハッキリしていませんが、シーズン終盤になっていること間違いありません。

実際、レッドブルも対策をしており、以前ほど簡単にスピンする場面は減ってきました。ただ全面的に解決はできていないようです。

それにレッドブルが問題を解決したとしても、メルセデスに勝てるかどうかはまた別問題です。彼らも常に開発をしていて進化し続けています。それに今年のメルセデスは異次元の速さを見せていて、さすがのレッドブルとフェルスタッペンも苦戦しています。

つまり今年のレッドブルはポテンシャルはあるが、それを解決するには時間がかかり、そしてメルセデスに勝つのは特殊な条件がなければ難しいでしょう。それくらい今年のメルセデスは速いです。

Tagged on: