フェラーリの組織改革を巡るフレッド・バスールの取り組みは、今シーズンのチームの復調を支える重要な要因となっている。かつて巨大なタンカーのように動きが鈍重だったフェラーリが、わずか数ヶ月で勢いを取り戻し、再びタイトル争いに名を連ねる姿を見せ始めた。この変化の背後には、バスールのリーダーシップと彼が推進した文化的な改革がある。
フェラーリを率いることは容易な仕事ではない。それは、F1界において最も過酷な役割のひとつとされている。歴史と伝統、情熱的なファンであるティフォシの期待が重圧となり、チーム内には失敗を恐れ、リスクを取らない文化が根強く存在していた。かつてのフェラーリは、失敗した者を左遷したり、辞職に追い込んだりすることが多々あった。しかしそれでは、誰も失敗の可能性のあるチャレンジをしなくなるし、実際そうなった。しかしバスールは、それを変えようとしている。過去のフェラーリは、ミスをすれば即座に責任を問われる環境にあり、それが創造性を阻害し、結果的にさらなる失敗を招く悪循環に陥っていた。
しかし、バスールはその状況を変えることに成功しつつある。彼はスタッフに対して、積極的にリスクを冒し、ミスを恐れずに挑戦する姿勢を求めている。バスールは、失敗を許容し、それを糧に次の日にはより良い成果を目指すという考え方を強調する。これは単なる方針ではなく、文化としてチームに根付かせることを目指しているのだ。
バスールが特に注力したのは、スタッフの士気を高め、自信を持って仕事に取り組む環境を整えることだ。彼はミスを犯しても、その責任を追及するのではなく、学びの機会と捉えるようチームに働きかけている。彼自身も批判の矢面に立ち、スタッフを守る姿勢を示すことで、チーム内に信頼関係を築いた。これにより、フェラーリはリスクを取り、攻めの姿勢を持つ組織へと変貌を遂げつつある。
その結果、フェラーリは今シーズン終盤、オースティンとメキシコでの勝利を含む5レース中3勝を挙げ、再びトップチームとしての存在感を示している。特に、スペインGPでの失敗から立ち直り、新しいフロアとシンガポールでの新しいフロントウイングの導入によって車の性能を改善し、チームは再び競争力を取り戻した。シャルル・ルクレールとカルロス・サインツが安定して高得点を挙げていることも、チーム全体の成長を物語っている。
バスールは、リスクを取ることの重要性を繰り返し強調する。「リスクを取る能力とリスク管理を評価する能力は、この業界では極めて重要だ」と彼は言う。フェラーリが過去に陥っていた、ミスを恐れるあまり挑戦を避ける姿勢を改め、積極的に限界に挑むことでチーム全体が成長するプロセスに入っているのだ。
もちろん、この変革は一朝一夕で成し遂げられるものではない。バスール自身も「終わりのないプロセス」だと述べており、絶え間ない努力が必要であることを強調している。彼はチャンピオンシップについて語ることを避け、次のレース、次のセッションでのパフォーマンスに集中することをチームに求めている。このような冷静な姿勢が、チームに過度なプレッシャーを与えず、今シーズンの好調を維持する要因となっている。
フェラーリの復活は、ティフォシにとってここ数年で最も明るいニュースだ。過去10年間で、フェラーリが1-2フィニッシュを達成したのはわずか3回であり、そのうちの2回が今シーズンのものだ。これは、チームが正しい方向に進んでいることを示している。バスールが推し進める文化的な変革が続き、過去の悪い習慣に戻らずに進化を続けることができれば、フェラーリが16年ぶりにタイトルを手にする日も遠くないかもしれない。
しかし、バスールはあくまで現実的だ。「我々はただ、より良い仕事をしようとしているだけだ」と彼は語る。その姿勢が、チーム全体に浸透し、フェラーリを再びタイトル争いに戻す原動力となっているのだ。ティフォシにとって、この変革の先にある未来は、これまで以上に期待を抱かせるものとなっているに違いない。