アルピーヌがフランコ・コラピントと契約した理由は、単なる将来のドライバー候補を確保するためではなく、より明確な意図を含んでいると考えられる。その中で重要なのは、コラピントとそのマネージャー陣が、ウィリアムズよりもアルピーヌの方が近い将来にレースシートを確保できる可能性が高いと確信している点である。この契約には、明らかにアルピーヌの長期的な計画が色濃く反映されており、特に2025年から2026年にかけてのドライバーシートに関連する動きが鍵となる。

ウィリアムズのジェームズ・ヴォウルズが語ったように、「このアルピーヌとの契約がフランコにとって2025年または2026年にレースシートを確保する最良のチャンスだ」という発言は、単なる希望的観測にとどまらず、契約内容そのものに基づく確信を表している。この発言からも、コラピントがウィリアムズからアルピーヌに移籍した理由の一つが、より早期にレースシートを得るためであったことが伺える。
ドゥーハンに対するプレッシャー
一方で、この契約はジャック・ドゥーハンにとって大きなプレッシャーを生む結果となった。現在、ドゥーハンはアルピーヌのレギュラードライバー候補として位置づけられているが、その座は少なくとも2025年シーズンの最初の6戦までしか保証されていないと見られている。さらに、コラピントが2025年途中、または2026年までにドライバーシートを獲得する可能性が高いため、ドゥーハンにとっては一層厳しい状況である。
コラピントはすでにその速さを証明しており、ドゥーハンのポジションを脅かしている。アルピーヌがどのタイミングで彼をF1デビューさせるかは不明だが、2026年にはレギュラードライバーとして起用される可能性が高いと見られている。このため、ドゥーハンは結果を出すことで自身の価値を証明し続けるしかない。
コラピントの移籍とウィリアムズの戦略
コラピントのアルピーヌへの移籍には、ウィリアムズがどこかで手を引いたような印象を与える箇所がある。ヴォウルズの発言内容によると、ウィリアムズはコラピントがアルピーヌでレースシートを確保するチャンスを高く評価していたことがわかる。契約の詳細は不明であるが、コラピントがアルピーヌに譲渡された際、ウィリアムズ側は違約金と同時に、将来的なレースシートの獲得を保証する形で合意した可能性が高い。これにより、コラピントがアルピーヌのレースシートを手にする時期が、ドゥーハンにとって大きな懸念材料となっている。

ドゥーハンの立場と課題
ジャック・ドゥーハンが直面している状況は非常に厳しいものだ。アルピーヌからは、2025年の序盤にレースシートを確保するためのプレッシャーがかかり、コラピントの台頭によってそのポジションはますます不安定になりつつある。ドゥーハンはその実力を証明するために、今後のレースで優れたパフォーマンスを発揮する必要があるが、もし結果が出なければ、2025年シーズンの途中でコラピントに取って代わられる可能性がある。
しかし、ドゥーハンの評価はすでに昨年のアブダビGPから始まっているとも考えられる。通常、レギュラードライバーであるオコンが最終戦を前にチームを離れるというのは、どう考えても、正常な状態ではない。つまり、オコンの離脱とドゥーハンの最終戦出走は、ドゥーハンの才能を測るための意図的な行動だった可能性がある。そして、アブダビGPでの走行は、ドゥーハンにとって自身の能力を示す重要な機会であったが、目立った活躍を見せたとは言い難い状況だった。
このパフォーマンスが、チーム内での評価にどのような影響を与えているかは不明だが、アルピーヌ幹部が選手に一貫した基準を設けているのは確かである。その中で、ドゥーハンがレギュラードライバーとして生き残るには、他のライバルたちを上回るパフォーマンスを見せなければならない。
ドゥーハンにとって簡単な状況ではない。彼は2024年をサイドラインで過ごしており、レース感覚が少し鈍っているに違いない。2021年にWECとダカールを終えてF1グリッドに戻ったフェルナンド・アロンソですら、同じチームでスピードを取り戻すのに数レースを要した。しかし、ドゥーハンはそれほど時間をかけている余裕がない。また、彼にはF1について学ぶべきことがたくさんある。

状況はかなり複雑だ。すでにチームからのドゥーハンに対する期待は、昨年契約した際よりも下がっているように見える。でなければ、チームがコラピントと契約することはなかっただろう。そして、コラピントのような若く有望なドライバーがチームに加わることで、既存のドライバーにとってはプレッシャーが増すのは避けられない。しかし、アルピーヌのようなチームが最適なパフォーマンスを引き出すために競争を激化させるのは、理にかなった選択であるとも言える。
ブリアトーレは次のように語っている。「私たちはピエール(ガスリー)とジャック(ドゥーハン)でシーズンをスタートする。これは保証する。あとはシーズン中に見ていくことになる。私はチームが結果を出せるようにしなければならない。そして、ドライバーはそのために1,000人近くの人々の仕事を結果として出さなければならない」。
「みんなはただ2人のために働いている。もし1人のドライバーが進歩していない、結果を出していないなら、私は彼を替える。F1では感情を持ち込むことはできない」。
コラピントの価値とアルピーヌの狙い
ブリアトーレがコラピントをレースシートに昇格させることの商業的利益に惹かれている可能性を指摘する者もいる。コラピントのF1デビューの影響は大きかった。アルゼンチン国内でもF1でも、彼の故郷の企業のロゴがウィリアムズの車だけでなく、コラピントが参加したレースを開催したサーキットの看板にも登場した。ブリアトーレなら、これらのスポンサーマネーでコラピント獲得の違約金の一部か全額を回収することを考えていても不思議ではない。
最終的にアルピーヌが目指すのは、コラピントを中心に据えた長期的なチーム作りである。彼を成長させることでチーム全体の競争力を高め、レースでの勝利、さらにはチャンピオンシップ制覇を目指している。この戦略には、かつてミハエル・シューマッハやフェルナンド・アロンソとともに頂点を極めたブリアトーレのビジョンが反映されているといえる。
一方、チーム内の激しい競争は、ドゥーハンにとってさらなる試練となる。アルピーヌが全ドライバーに平等な挑戦の機会を提供している一方で、生き残るには結果が求められる厳しい世界である。F1マシンのシートを得た以上、ドゥーハンはこのプレッシャーを受け入れ、自身の価値を証明していかなければならない。