レッドブルが長年使用してきたベッドフォード風洞は、60年以上前に建設された施設だ。その相関性の問題が2024年型RB20の開発に影響を及ぼし、チームは限界に直面している。新風洞の完成を待つ間、レッドブルはこの老朽化した設備の課題にどのように向き合っているのか。

風洞の「3つの時計問題」
2024年シーズンの中盤以降、レッドブルのRB20は予想外の苦戦を強いられた。その一因が、トラックデータ、CFD(数値流体力学)データ、風洞データの間で一貫性が取れなかったことだ。チーム代表のクリスチャン・ホーナーはこの状況を次のように表現している。
「これらが一致しないと、まるで3つの時計がそれぞれ違う時間を示しているようなものだ。どれを信じるべきか?結局のところ、トラック上のストップウォッチを信じるしかない。あれは嘘をつかないからね」。
イタリアGP以降、レッドブルはこの「3つの時計」の同期を取ることに注力した。その中でも最も不確実な要素が、古いベッドフォード風洞のデータだった。

ベッドフォード風洞の限界
この風洞は1947年に王立航空研究所の一部として建設され、航空機の離着陸特性のテストに使用されていた。その後、2004年にジャガーF1チームがアロウズから購入し、レッドブルが買収。以降、モータースポーツ向けに改修が施されてきた。
しかし、風洞自体の老朽化は避けられず、特に以下のような問題が開発の障害となっている。
- 外気温の影響を受けやすい: 建物の断熱性が低いため、気温が5°C未満では使用できず、25°Cを超えるとデータの信頼性が低下する。
- 精度と再現性の低下: 同じ車両を同じ条件でテストしても、寒い日と暑い日で異なる結果が出る。
- 温度変化による空気の性質の変動: ピエール・ワシェ(レッドブルのテクニカルディレクター)によると、わずかな温度差でも空気の分子挙動が変わり、信頼性のあるデータを得るのが難しくなる。
ワシェはこう語る。「新しいコンセプトを試す際には、この風洞はまだ役立つ。しかし、開発曲線が平坦になり、細部の微調整が求められる段階では、この施設の限界が問題となる。我々の風洞はイギリスの気温に大きく依存しており、開発の妨げになっているのは確かだ。」

新風洞への期待と遅れた決断
レッドブルは数年前から新しい風洞の必要性を認識していたものの、建設計画は遅れた。その背景には、FIA(国際自動車連盟)による風洞禁止の検討や、CFDが風洞を代替できる可能性に関する議論があった。
ホーナーは当時の状況を振り返る。「株主たちは2年前に新しい風洞の建設を承認した。しかし、当時は風洞が将来的に禁止される可能性もあり、エイドリアン(・ニューウェイ)は積極的に推進することを控えていた。しかし、アストンマーティンが新風洞を導入し、FIAがスタンスを変更したことで、状況が一変した」。
現在、ミルトンキーンズでは新風洞の建設が進んでおり、2027年シーズンの車両開発に活用される予定だ。それまでの間、レッドブルは現行の風洞の特性をより深く理解し、データの精度を高める努力を続けている。

レーシング・ブルズも直面する課題
レッドブルの姉妹チームである「レーシング・ブルズ」も、この風洞の影響を受けている。テクニカルディレクターのジョディ・エギントンは、風洞の扱いの難しさを次のように説明している。
「非常に寒い日や非常に暑い日は、この風洞は扱いが難しいツールになる。基準線を知らず知らずのうちに見失わないよう、常に注意を払わなければならない。我々はそのことを承知している。でも、それは古い家のようなものだ。ただ注意深く見守り続けるしかない。」
この状況が続く限り、レッドブルの開発競争におけるハンデは小さくない。特に2024年のようにコンペティションが激化し、マージンが極めて小さいシーズンでは、その影響はより顕著に表れる。

レッドブルの今後の展望
ベッドフォード風洞は、これまでのレッドブルの成功を支えてきた一方で、その老朽化により現在の開発競争において足かせとなっている。新風洞の完成までの数年間、レッドブルはこの制約の中で最適解を模索しながら戦わなければならない。
それでも、風洞データの不確実性に直面しながらも、レッドブルは依然としてトップチームの一角を担っている。今後、新風洞の導入が開発プロセスにどのような影響をもたらすのか。2027年以降のレッドブルの進化に注目が集まる。