2024年シーズンの前半を圧倒的な強さで支配したレッドブル。しかし、シーズン後半に入るとパフォーマンスは徐々に陰りを見せ、ついには深刻な問題を抱えることとなった。その背景には、長年チームの技術的支柱であったエイドリアン・ニューウェイの決断があった。なぜ彼はチームを去り、レッドブルはどのように迷走してしまったのか。コメントを紐解きながら、昨年のレッドブルの不振に陥った原因を探る。

ニューウェイの決断:レッドブル離脱の理由
2023年4月、エイドリアン・ニューウェイはレッドブルとのパートナーシップに終止符を打つことを決断した。彼の決断の背景には、単なるキャリアの転換ではなく、チーム内の権力闘争が影を落としていた。
「12カ月前に誰かに『レッドブルを離れて、新たにスタートすることになる』と言われたら、『いや、そんなバカな』と答えただろうね」とニューウェイは語る。「でも、さまざまな理由で、レッドブルに残れば自分に嘘をつくことになると感じたんだ」。
ニューウェイはまた、クリスチャン・ホーナーの発言にも不満を持っていた。ホーナーは2023年末に「ニューウェイの下でピエール・ワシェ率いるテクニカルチームは素晴らしい仕事をしている。彼らはもはやエイドリアンに依存していない」と語っていた。
この言葉は、彼が長年築き上げてきたレッドブルの技術体制が軽視されたと感じさせるものであり、ニューウェイの決断を後押しする要因となった可能性が高い。

アップグレードの迷走:CFDと実走行の乖離
ニューウェイの離脱が正式に発表された2024年5月以降、レッドブルのパフォーマンスは明らかに下降線をたどった。その要因の一つとして挙げられるのが、CFD(数値流体力学シミュレーション)やシミュレーターのデータと実際のトラック上での挙動のズレだった。
「23年シーズン終盤の時点で、すでにマシンは扱いにくくなり始めていた」とニューウェイは振り返
「もちろん、それはマックスにとって問題ではなかった。彼は対処できるからね。気に入っていたわけではないだろうけど、うまく乗りこなしていた。でも、チェコ(ペレス)には難しかった」。
この言葉通り、シーズン後半になるとペレスの成績は急激に低迷し、マイアミGP以降トップ5圏内にすら入れなくなった。フェルスタッペンも序盤の圧倒的な勝利ペースを維持できず、19戦でわずか5勝という結果に終わった。
テクニカルディレクターのピエール・ワシェも「問題を認識してはいたが、マシンが依然として速かったため、大幅な変更を加える決断ができなかった」と語っている。
「ヨーロッパラウンドに戻り、マクラーレンにチャレンジされるようになって初めて、それが我々にとって最も大きな課題の一つであることが明確になった。」
つまり、レッドブルの技術陣は問題を理解しながらも、短期的な速さに固執し、大胆な方向転換ができなかったのだ。

ニューウェイ不在の影響:経験不足の技術チーム
ニューウェイが去った後、レッドブルの技術陣はこれまでの開発アプローチを踏襲する形で作業を続けた。しかし、ニューウェイが指摘するように、その方向性自体が誤っていた可能性がある。
「僕が懸念し始めていたこの問題を、チーム内で気にしている人はほとんどいなかった。そして、外部から見ている限りだけど、僕の推測では…レッドブルのエンジニアたちは、経験不足もあって、同じ方向性を突き進んでしまったんじゃないかと思う。その結果、問題はどんどん深刻化し、ついにはマックスでさえ扱いにくいと感じるほどになった」。
技術陣の経験不足が露呈したのは、特に2024年シーズン中盤以降のレースで明確になった。ライバルチームが着実にパフォーマンスを向上させる中、レッドブルは前年と同じ開発思想を維持し続け、結果として対応が遅れた。

レッドブルは復活できるのか
ニューウェイの離脱は、レッドブルにとって技術的な損失であるだけでなく、チームの開発哲学そのものを揺るがす出来事だった。彼の「同じ方向に進み続けた」という指摘は、まさに2024年後半からのパフォーマンス低下を象徴している。
今後、レッドブルがどのように開発方針を見直し、新たな競争環境に適応するのかが問われることになる。2025年シーズンが、彼らにとって新たな転換点となるのか、それともさらなる混迷に陥るのか——その答えは、新しいマシンとその結果が示すことになるだろう。