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2026年F1タイヤ開発の難題:ピレリの挑戦と未来図

F1の2026年シーズンに向けた開発が本格化する中、ピレリは小型化された新タイヤのテストを進めている。先日、バルセロナで行われたテストでは、フェラーリとマクラーレンが特定のコンパウンドを試しながら、新たな時代に向けた準備を進めた。しかし、技術規則の大幅な変更を控えたピレリは、未だかつてない挑戦に直面している。

©PIRELLI

ピレリの挑戦:未知のマシンでのテスト

2026年のF1は、空力特性が大きく変更される。ダウンフォースの発生量は従来より少なくなり、ウイングやディフューザーによる空力依存が抑えられることになる。当初、ダウンフォースの削減率は40%とされていたが、パフォーマンス低下への懸念から約15%に調整された。しかし、それでも現在のマシンとは大きく異なる挙動を示すことになる。

この変化の中で、ピレリにとって最大の課題は、新型タイヤを試せる適切なマシンが存在しないことだ。2026年向けの「ミュールカー」と呼ばれるテストマシンは、現在のレギュレーションのマシンを改造したものであり、完全な再現性には限界がある。そのため、ピレリはシミュレーションと実走データを組み合わせ、開発を進めざるを得ない。

ピレリのモータースポーツ責任者であるマリオ・イゾラは、「ミュールカーのデータだけに頼るのは不十分だ。だからこそ、チームからのシミュレーションデータを積極的に活用し、実走テストと統合していく」と語る。彼らはチームに対して、シミュレーターで使用可能な仮想タイヤモデルを提供し、それを基にしたフィードバックを受け取ることで、より精度の高い開発を目指している。

タイヤの小型化とその影響

新しいレギュレーションに伴い、タイヤのサイズも変更される。現在のタイヤはフロントが720mm、リアが720mmだが、2026年にはフロントが705mm、リアが710mmへと縮小される。また、トレッド幅も狭まり、フロントは25mm、リアは30mm小さくなる。この変更により、タイヤにかかる荷重の特性が変わり、特に高速域での安定性やグリップに影響を与える可能性がある。

ピレリはこれに対応するため、タイヤの内部構造を最適化する必要がある。コンパウンドの変更による対応も考慮しているが、基本的には荷重の分布を適切に調整することが最も重要な課題となる。「荷重のメカニズムが変わるため、単純な進化では対応できない。我々はゼロから設計を見直す必要がある」とイゾラは強調する。

新たな変数「Xモード」と「Zモード」

2026年のF1では、アクティブエアロシステムが導入される。「Xモード」と呼ばれるこの新システムでは、DRSのようにストレートではフロントウイングとリアウイングの角度を調整し、最高速を向上させる仕組みが採用される。一方、通常のエアロモードは「Zモード」と呼ばれ、より安定したダウンフォースを確保する設計となる。

この変化は、タイヤの性能にも大きな影響を与える。特に、Xモード使用時には空力負荷が変化し、タイヤにかかる圧力や摩耗特性も変わるため、ピレリにとっては新たな試練となる。「XモードやZモードを完全に再現することは難しい。そのため、テスト条件の最適化が鍵になる」とイゾラは語る。

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2026年の開発は2017年や2022年と似ているのか?

F1の歴史の中で、大規模なレギュレーション変更に対応することは決して新しい課題ではない。2017年にはワイドタイヤが導入され、ダウンフォースが大幅に増加した。この際、ピレリはミュールカーの限界に直面し、実際のマシン性能を正確に予測できなかった。同様に、2022年にはグラウンドエフェクトカーが導入され、タイヤの挙動が大きく変わった。

しかし、イゾラは2026年の開発は2017年や2022年よりはやや容易かもしれないと指摘する。「当時はラップタイムが5〜6秒速くなると言われており、ミュールカーではその変化を再現できなかった。しかし、2026年の変更は、荷重の発生メカニズムが大きく異なるだけで、パフォーマンスレベルは大きく変わらないと予想されている」

このことから、ピレリは2026年のタイヤ開発を、これまでの経験を活かしながら進めている。特に、チームからのシミュレーションデータの活用が鍵となり、これを適切に統合することで、よりスムーズな移行を実現しようとしている。

ピレリの未来図:2026年へ向けた戦略

F1は常に進化し続けるスポーツであり、ピレリもまた変化に対応する必要がある。特に、2026年の新レギュレーションでは、タイヤ開発の難易度が高まり、シミュレーションと実走テストの統合が不可欠となる。

ピレリは、レギュレーション変更後にチームが急速にパフォーマンスを向上させることを予測し、それに対応できる余裕を持たせたタイヤ設計を進めている。「現在の段階では最適な解決策を見つけるのが難しいが、チームとの密接な連携が最終的な成功の鍵になる」とイゾラは語る。

新時代のF1に向けて、ピレリは慎重に、しかし確実に歩みを進めている。その先には、よりスリリングでダイナミックなレースが待っているに違いない。