2009 Rd.13 イタリアGP観戦記 Part2 ハミルトンに賭けたマクラーレン
▽作戦を誤ったマクラーレン
軽い燃料でスタートしたハミルトンは、序盤快調にラップを重ねるが、ペースが思ったほど上がらない。
1回多いピットタイムを稼げるほど、ブラウンGPの二台との差を広げられない。
ここはピットロードが長く、ロスタイムが18秒+静止時間。
これは2ストップ組には、大きな負担だ。
今回、ハミルトンはKERSがあるのだから、無理矢理ポールを取る必要はなかった。
だから、ある程度の燃料を積んだ状態でも、良かったと思うのだが、マクラーレンはハミルトンのスピードに自信があったのだろう。
ポールからスタートして、主導権を握ることを選択した。
決勝レースでのブラウンGPのペースは、マクラーレンが予想していたよりも速かった。
ブラウンGPはシーズン序盤に見せつけたように、タイヤに優しい特性を活かして、燃料が少なくなるとタイムを向上させて、1ストップのハミルトンとの差を広げさせない。
コバライネンが早々にかわされたのは、マクラーレンにとって大きな誤算だった。
すくなくとも第一スティントは持ちこたえると、チームは期待していた。
それは、KERSがあれば十分に可能である。
私自身はハミルトンとコバライネンのコンビは、いいと思うのだが、この日の結果は来年の契約に影響を及ぼすかもしれない。
▽ハミルトンの才能に賭けたマクラーレン
最後にクラッシュした、ハミルトンだが彼の第三スティントの走りは凄かった。
ハミルトンは終盤、予選アタック並のドライビングを披露。
バトンとの差を縮めていくが、バトンとバリチェロも負けてはいない。
ハミルトンと同程度のタイムを記録して、なかなか差を詰めさせない。
極端に燃料を少なくしてポール・ポジションを獲得したのは、ハミルトンのスピードに自信があったのだろう。
彼らもKERSがあるのだから、燃料を積んでアタックするという考えはあったはずだ。
軽い燃料でポール・ポジションを取り逃げ切る作戦は、バレンシアでもバリチェロに破れている。
逆に、ある程度重い燃料を積んだハンガリーでは勝てた。
マシン自体のポテンシャルは、マクラーレンよりブラウンの方が少し上だろう。
タイヤさえ温まれば今でもブラウンGPのマシンは戦闘能力がある。
マシンで劣るマクラーレンは、ハミルトンのスピードに頼るしかなく、それが最終ラップでのクラッシュにつながっている。
だが、勝利を目指すならば、これくらいのリスクは犯さなければならない。
もはやチャンピオンシップを望めないマクラーレンとハミルトンにとって目指すのは、勝利のみ。
リスクを冒せないチームやドライバーに勝利は得られない。
今回は、1ストップというリスクを冒したブラウンが勝利した。
ハミルトンは自分のスピードに賭けて敗れたが、見事な勝負だったと思う。
彼の存在がなければ、今のマクラーレンではここまでは望めない。
▽エンジンに悩むレッドブル
トヨタエンジンのトヨタとウィリアムズ、ルノーエンジンのルノーとレッドブルに取っては厳しいレースとなった。
このコースはとにかく、エンジンパワーがなければドライバーは為す術がない。
これほどのメルセデス・ベンツのパフォーマンスを見せつけられると、レッドブルもメルセデス・ベンツ・エンジンが欲しくなるだろう。
ブラウンGPを追うレッドブルは、ウェバーがオープンニング・ラップでクビサを接触して、クラッシュ。
痛いリタイヤ、ノーポイントに終わる。
チームメイトのベッテルもペースがなかなか上がらず、ノーポイントに終わりそうだったのだが、ハミルトンのリタイヤにより、8位入賞。
1ポイントを獲得した。
貴重な1ポイントに違いはないのだが、残り4レースで、バトンとの差が26ポイント差。
数字上、可能性は残っているが、バトンの驚異的な完走率を見ると、これは事実上の戦いの終わりだろう。
唯一の可能性は、2007年のハミルトンのように、バトンが自滅することだ。
これが初めてのチャンピオン争いになる、バトンには経験がない。
どんなに偉大なドライバーでも最初のチャンピオン争いでは、緊張しミスをする。
決して若くはないバトンであるが、チャンピオン争いは独特の雰囲気がある。
バトンにとって幸いなのは、最大のライバルがチームメイトであることである。
バトンのマシンがコースや気温にあわないときは、バリチェロもそうである可能性が高い。
であれば、彼は常にバリチェロの後ろでフィニッシュできればそれで、チャンピオンだ。
2007年のハミルトンはチームメイトだったアロンソに勝つことを意識するあまり、自滅した。
果たしてバトンは、チャンピオンになるために、勝つことを諦めることができるのかが、今後のポイントだ。
そして、バトンはそれができると思う。
というのは、チームにはロス・ブラウンがいるからだ。
彼はミハエル・シューマッハーと共に何度もチャンピオンを獲得した経験がある。
私はロス・ブラウンがバトンに味方するとは思わないが、彼の経験を伝えることはするだろう。
冷静さを保てればバトンが逃げ切る可能性は大きい。
- 2009 Round13 イタリアGP観戦記part1 勝利を呼ぶブラウンGPの決断
- 2009 Rd.13 イタリアGP観戦記 Part3 エンジンパワーに悩むルノーとトヨタ