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2012 Rd7 カナダGP観戦記<BR>7人目のウィナー誕生 ハミルトン

▽7人目のウィナー ハミルトン
ついにハミルトンが勝った。
これで今シーズン7人目の勝者が誕生した。
彼の場合、これまで3勝くらいしていてもおかしくなかったのだが、チーム側や彼自身のミスで歯車がかみ合わずに勝てなかった。昨年までであれば多少のミスはマシンやドライバーの力で取り返すことが可能だったが、今年は全てのピースが揃わないと勝てない。それくらい今年の競争は厳しい。

今回、勝負の分かれ目になったのが最後のタイヤ交換を巡る判断の違いだった。
ハミルトンは50周目に2回目のストップでソフトへ交換。これはほぼ予定通り。残り20周での交換は、タイヤのライフ的には全く問題がない。1周か2周後にはトップのアロンソもタイヤ交換すると思われたが、彼はそのままステイアウト。2位のベッテルも同じくステイアウトした。

彼らは優勝するためにギャンブルに出た。
アロンソはハミルトンの次の周にタイヤ交換していれば、トップで戻ることが可能な差があった。だが1回目のストップでも見られたように、先にタイヤ交換す るとタイヤがワーキングレンジに入るのに1周か2周かかるので、その間にタイムロスして順位が落ちるが、後からタイヤ交換したドライバーも同じくタイヤが 暖まらず、アウトラップでトラクションが悪くバックストレートで簡単に抜かれてしまう。だから優勝を狙うアロンソはタイヤ交換しないでゴールすることを選 択した。

 ところがこのアロンソとフェラーリの目論見は早々に崩れてしまう。
アロンソは51周目と52周目こそ1分17秒台を出せたが、その次からは18秒台へ落ちる。タイヤにスイッチの入ったハミルトンとは1秒以上の差があっ た。この時点でフィニッシュまでは17周あり、2人の差はこの時点で13秒ほどあった。単純計算すれば最後にはハミルトンが追いつくのは明らかであった。

これがモナコやバルセロナであれば問題はない、多少遅くても抜かれることはないからだ。ところがモントリオールは比較的追い抜きができるコースである。し かもタイヤのグリップがなくなり、トラクションがかからなくなると簡単に抜かれてしまう。アロンソが置かれた状況はこうだった。

しかも、アロンソのタイヤの状況は悪くなることはあれど、良くなることはない。つまりハミルトンとアロンソのラップタイムは広がることが予想された。であ ればこの時点でタイヤ交換をすべきだった。そうすればアロンソは2位を確保できたし、ハミルトンにコース上で挑戦することも可能であった。例え一時的にグ ロージャンに2位を奪われても、状態のいいオプションタイヤで走れば、抜くのはそれほど難しくはなかった。グロージャンも1ストップでタイヤの状況は良 かったが、タイヤ交換直後のアロンソを抑え込むのは難しかっただろう。

ところが結局、最後までタイヤ交換しなかったアロンソは5位でフィニッシュ。最後の3周は1分20秒台にまで落ち、これはライバルに比べて5秒も遅いタイムだった。遅ればせながら63周目にタイヤ交換したベッテルは、4位を確保した。

アロンソが51周目にタイヤ交換して、ハミルトンの前でコースに復帰してもアロンソが勝つことはなかっただろう。それくらいハミルトンはこのコースで光り輝いていた。温まったタイヤを履くハミルトンはVTRを見るように1回目と同じくアロンソを抜いて優勝していただろう。

だがもう少し軌道修正を早くで来てればアロンソは2位を確保できた。
そしてそれはベッテルも同じである。
追い抜きが可能であるというコース特性を考えると、それが正解であった。

もちろん、一度決定したことを短時間で決断し修正することは、簡単なことではない。特にレース中であればなおさらである。アロンソも「後から批判すること は簡単だ」と述べている。だがこれはレース中でも容易に判断がついた。ギャンブルしたのは理解できるが、作戦に柔軟性を欠いていると考えるのは私だけであ ろうか。

▽ワンストップを成功させたグロージャン
ではワンストップを成功させたグロージャンと成功しなかったアロンソの差はどこにあったのだろう。それは最初から1ストップを計画していたグロージャンと 途中で戦術を変えてきたアロンソの差であろう。アロンソの1回目のストップは19周目。これはハミルトンより2周遅かった。残りは51周。ピレリの予想で はプライムの寿命は新品で45周であった。もっとも路面状況は劇的に改善するので6周寿命が延びると予想しても間違いではない。

オプションスタートのグロージャンは21周目。このタイヤは驚くことに予選で二回アタックし7周走ったタイヤだった。グロージャンはアロンソと1周遅れでタイヤ交換して、1ストップを成功させているのでアロンソの判断が無謀という訳ではないのがわかっていただけるだろう。
だがこの2人はマシンも違うし走っている状況も違う。
グロージャンは最初から1ストップを計画しており、アロンソはそうではなかった。その差は走りに表れるし、それはタイヤの寿命に影響を与える。

だから1ストップを選択したこと自体は間違いではないのだが、ハミルトンに逆転されるとわかった時点で、戦術を変更しても良かった。そうすれば2位は確実だったし、ランキングトップも維持できた。

実際、ピレリタイヤを予測するのは難しい。路面温度がもう2~3度低ければアロンソのギャンブルは成功していたかもしれない。
バトンは今回、優勝したハミルトンと同じマシンに乗りながらタイヤをうまく使えずに、全く競争力がなかった。気温は高かったにも関わらずだ。

ベッテルは予選で2位のハミルトンに0.3秒の差をつけた。これでもベッテルはミスをしているので、それがなければ0.5秒以上の差があっただろう。だが レースでは序盤を除いてハミルトンが速かった。これは今シーズン何度も見られている現象で、逆にハミルトンが予選で速い時に逆の現象が現れることもあっ た。

▽9位入賞 可夢偉
チームメイトのペレスが2回目の表彰台に乗る中、可夢偉は9位入賞。複雑な感情の入り交じる結果となった。可夢偉もペレスと同じ1ストップを選択。タイヤ の選択はペレスとは逆で最初にオプションで次にプライムだった。不運にもタイヤ交換後にタイムの伸びないディ・レスタに引っかかった。最高速は可夢偉も速 かったのだが、ディ・レスタもトップスピードは高く、18周に渡って抑え込まれてしまった。ディレスタを抜いた後は1秒タイムアップしている。5位のアロ ンソと可夢偉の差が11秒しかないことを考えるとこれは致命的であった。

今シーズン、ペレスが2回目の表彰台を獲得する中、可夢偉はまだ表彰台がない。この世界は結果が全てである。結果が可夢偉の今後を決める。長いシーズン、 必ず一度はチャンスが来る。そのチャンスを獲得できるか否かで、彼の将来は決まる。厳しい世界ではあるが、優秀なドライバーは数少ないチャンスを必ず獲得 してきた。彼にはその能力があると信じてはいるが、その能力を結果という形で表さなければ生き残れないのがF1という世界である。

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