まず構造を変える。構造を変えるということは、全く新しいタイヤになるということだ。とはいえあと一ヶ月もないカナダGPまでに全く新しい構造のタイヤを開発できるわけもないので、結局昨年の構造に今年のタイヤコンパウンドを使用することになるようだ。
ということはタイヤのプロファイル、外形が変わるということであり、またダウンフォースがかかった場合のタイヤの変形量が変わることになる。これは各マシンのエアロダイナミクスに大きな影響を与える。各チームの空力担当者は頭を抱えているだろう。というのも来年からレギュレーションが大きく変更されるので、各チームは例年以上に早く開発のリソースを来年のマシンに振り向けたいのが本音である。そこにこれだけ大きな変更があるのだからたまったものではない。さらにサスペンションの仕様も変更しなくてはならず、その作業量は大きい。
またこの変更によりチャンピオン争いにも影響を与えることになる。これまでもピレリはタイヤの変更でタイトル争いに影響を与えたくないと発言し、これまでは変更してもコンパウンドを変更するにとどめていた。
で はなぜ彼らはこの時期にこれほどまでの大掛かりな変更をするのか。彼らがタイヤを変更する大きな理由は、スペインGPでほとんどのマシンが4ストップだっ たことをあげている。だがスペインGPはタイヤに最もタイヤに厳しいサーキットの一つであり、例外的である。恐らく現行のスペックでも4ストップはシル バーストーンと鈴鹿、スパ位であろう。ではなぜ彼らはタイヤを変更するのか?
それはスペインGPで見られたタイヤトレッドの剥離であろ う。今シーズンからピレリはタイヤの構造を柔らかくしてきた。ところが5レースを経過して、どうやらこの構造ではタイヤが持たないことが明らかになってき た。特にタイヤに負荷のかかるサーキットで顕著に表れた。これに危機感を持ったピレリはタイヤの構造を実績のある昨年仕様に戻す決断をしたと見るのが妥当 だろう。
とはいえ、ピレリを責めるのも酷な話だ。なぜなら実走テストができないのだから。確かにコンピュータによるシミュレーションはで きるし、二月のバルセロナテストもある。しかしシミュレーションは所詮バーチャルなものだし、入力する数値次第で出力されるデータは大きく変わる。また シーズン前のテストは二月。五月とは気温コンディションが違いすぎる。よって実際に走らせたなら、予想したよりマシンが進化していてタイヤが持たなかった というのが真相だろう。
これで今年のタイヤに最適化したロータスやフェラーリのアドバンテージは相対的に少なくなり、レッドブルやメルセデスの弱点は目立たなくなる。しかしフェラーリやロータスの強みが全くなくなると思えない。ただ今の微妙な勢力図に変化が表れるのは間違いない。
技術陣の皆さんは大忙しの日々を過ごさなければならないのだろうが、我々はこのタイヤの変更を楽しもうではないか。これでまた新しいチャンピオンシップが始まるということである。