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誰の為にもならなかった接触 ブラジルGP観戦記

なんとも後味の悪いブラジルGPだった。途中まではフェルスタッペンの素晴らしい走りでフェラーリとメルセデスの4台をコース上で追い抜き首位を独走。あとはタイヤを労わりながら最後まで走るだけという状況だった。
 
40周目、そこにタイヤ交換を終えたオコンが後ろから追いかけてきた。オコンはタイヤ交換で一番軟らかい新品のスーパーソフトを履いていた。フェルスタッペンは35周目に履き替えたソフトタイヤを労わるためにペースを落としていた。だからオコンはフェルスタッペンより速いペースがあった。
 
オコンがオーバーテイクを仕掛ける前にチームは無線でオコンに抜いてもいいよと伝えている。確かにルール上では周回遅れのマシンがトップのマシンを追い抜いてもいいことになっている。だがこれにはひとつの条件がある。安全かつバトルなしで抜くことである。だからもしオコンがストレートの終わりまでにフェルスタッペンを完全に抜いていれば問題はなかった。
 
だがトップを走るフェルスタッペンは抜かせる気は全くなかった。ストレートの動きもイン側を抑えている。だからここで引くのはオコンの方だった。だから彼は10秒ストップのペナルティを受けた。だがこれはフェルスタッペンが失ったものからすれば、少ないくらいで即失格で次戦出場停止くらいでもいいくらいである。
 
でもフェルスタッペンが哀しい被害者かというとそうでもない。彼はオコンを先にいかしても何も失うものはなかった。もちろん前を別のマシンが走ると乱流の中を走らなければいけないから、タイヤも消耗するから困ることは困る。だが接触してレースを失うくらいなら、そんなことは何でもない。
 
これまでも何回も書いてきたが、フェルスタッペンはバトルの仕方を変えないとチャンピオンになれない。日本GPでもライコネンとベッテルと接触しながらも表彰台に乗れたのは単なる幸運でしかなかった。
 
そしてブラジルGPのように幸運でない時はこうなるのである。もっとも2位になれたのだから幸運だったのかもしれないが。だが2位から3位になるのと1位から2位になるのでは失うものは後者の方が余りにも大きい。
 
ハミルトンはレース後にフェルスタッペンに何で彼を先に行かせなかったの?その接触で誰が失うものが多かったの?と問いかけている。それはもちろんフェルスタッペンである。
 
 
ハミルトンはアメリカGPでフェルスタッペンに仕掛ける時でも絶対に接触しないよう細心の注意を払っていた。彼は順位をひとつあげるよりベッテルより上位でフィニッシュすることの方が重要だと理解していた。
 
ただしオコンには不運もあった。彼のタイヤ交換は4秒以上かかっており、この余分なロスタイムがなければ彼はフェルスタッペンの前に出ていて、そのまま何事もなくフェルスタッペンを引き離していただろう。
 
誰にとっても得にならないアクシデントであった。ハミルトンを除いては。
 
▽接触までは会心の走りだったフェルスタッペン
 
ではレース自体を振り返ってみよう。金曜日の時点で各チームはこのレースはタイヤに厳しくワンストップはかなり難しいと判断していた。
 
だから予選Q2(Q3進出したドライバーはここで最速タイムを記録したタイヤでスタートする)でメルセデスもレッドブルもソフトタイヤでアタックしたかった。ところがQ2で雨がパラパラ降り始めて、今後どういうコンディションになるのか、わからなくなった。
 
だからレッドブルとメルセデスは雨が強く降り始めた時に備え、ギャンブルを避けてスーパーソフトでアタックした。だがフェラーリは日本GP同様にギャンブルして、ここでは雨が本格的にならず彼らはソフトタイムスタートになり、決勝レースでは有利になるかと思われた。その後レッドブルは2回目をソフトタイムでアタックするもスーパーソフトのタイムは更新できず、彼らはスーパーソフトでスタートすることなる。この時点ではフェラーリが有利と思われたのだが、このタイヤ選択がレースで大きな影響を与えることになる。
 
 
予選の順位はハミルトン、ベッテル、ボッタス、ライコネン、フェルスタッペン。リカルドはペナルティで後方からのスタートになる。
 
スタートでは奇数グリッド、タイヤラバーののってる側からスタートしたボッタスがベッテルをかわしメルセデスの1-2。これでメルセデス有利のレースになるかと思われた。
 
だがこの日の主役はフェラーリでもメルセデスでもなくフェルスタッペンとレッドブルだった。彼らは金曜日の時点でタイヤが厳しいと理解し、レース中心のセットアップに変更した。そのためフェルスタッペンは予選でハミルトンより0.5秒以上遅かった。
 
だがこのお陰でフェルスタッペンはスーパーソフトを履きながらも最初のタイヤ交換を35周目まで引っ張ることに成功した。しかもレース前半でグリップに苦しむフェラーリ2台とボッタスを追い抜きハミルトンに迫る。
 
19周目にタイヤが厳しくなった事とフェルスタッペンのアンダーカットから守るためにハミルトンは新品のミディアムに交換。これで最後まで走りきる作戦だ。
 
だがフェルスタッペンのタイムはタイヤ交換したハミルトンよりもよくもう少しでタイヤ交換後にハミルトンの前に戻れるほどのタイムを稼ぐがさすがに30周を超えたあたりからタイムが逆転し、35周目にフェルスタッペンは新品のソフトに交換。ハミルトンの2秒後方でコースに戻る。
 
だが新品のソフトを履くフェルスタッペンと既に16周走ったミディアムのハミルトンでは勝負にならず、コース上でフェルスタッペンはあっさりとハミルトンを抜く。見事な作戦勝ちのフェルスタッペンとレッドブルであったが、この後でオコンとフェルスタッペンの接触があったのは前述の通りである。
 
だがその後もすんなりはいかなかった。接触でフロアを痛めたフェルスタッペンだったが、それでもハミルトンを追いかける。そしてそのハミルトンも排気温度が上昇するトラブルに見舞われて、リタイヤ一歩手前まで行っていた。
 
そうレースは最後までわからなかったのである。レース後にハミルトンがメルセデスのチームクルーと歓喜した理由であった。
 
 
▽完敗のトロロッソ ホンダ
ペナルティなしのスペック3のパワーユニットに、アップデートパーツとブラジルGPのトロロッソには期待に満ちあふれていた。
 
予選ではガスリーが日本GP以来のQ3進出。だがレースでは入賞できず、ハートレーが11位だったが10位のペレスとは50秒以上と絶望的な差があった。
 
ガスリーはスーパーソフトでスタートし、ミディアムに交換するオーソドックスな作戦。ハートレーはその逆でミディアムスタートで第1スティントを引っ張り前走車がタイヤ交換する間に順位を上げようとした。
 
ガスリーは得意のスタートを決めて8位にまで上がるが、その後はペースが上がらずリカルド、マグヌッセン、ペレスに抜かれる。ミディアムに交換してもペースは上がらず13位フィニッシュが精一杯。
 
ハートレーは作戦通り第1スティントを長く走り順位を上げる事には成功したが、スーパーソフトにタイヤ交換後に距離を走ったミディアムを履くガスリーに行く手を阻まれ、こちらもペースが上がらない。チームからはガスリーにハートレーを先行かせるように指示が出たがガスリーはこれを無視。ただこれがなくてもハートレーの入賞は難しかった。
 
敗因はレースペースの遅さであることは間違いない。ホンダのPUがフェラーリやメルセデスに負けているのは間違いないが、シャシー側も競争力がなく、何よりこの状況の原因が理解できていないことが一番痛い。これでは改善のしようがない。これが中小チームの競争力の現実である。
来年PUを供給するレッドブルがシーズン終盤に競争力を取り戻しているのが唯一の希望である。