Formula Passion

ホーナー失脚、フェルスタッペン離脱の兆候:崩壊したレッドブル王朝最後の15ヶ月を徹底検証する

2021年から続いたレッドブルの黄金時代は、2024年を境に急激に陰りを見せ始めた。クリスチャン・ホーナーを巡るスキャンダルを皮切りに、技術の要であったエイドリアン・ニューウェイや主要スタッフの離脱、ドライバーラインナップの迷走、そして2025年には王者マックス・フェルスタッペンの離脱説までが現実味を帯びる。

レッドブルがF1の頂点から滑り落ちるまでの15ヶ月――F1界を最も賑わせているこの問題を、時系列で詳しく振り返る。

■ 2024年2月:ホーナーに不適切行為の告発が浮上

2024年プレシーズン、レッドブルの女性スタッフがチーム代表クリスチャン・ホーナーによる不適切行為を内部告発。チームは即座に独立調査を実施し、ホーナーは潔白とされたものの、完全な終息には至らなかった。

調査結果が出た翌日には、匿名のメールから“証拠”とされる文書がF1関係者約100人に送信され、パドック全体を混乱に陥れた。チーム内外には不信感が漂い、メディアの注目はマシンではなくホーナーの進退に集まり始める。

■ 2024年4月:エイドリアン・ニューウェイがレッドブル離脱を発表

騒動から数週間後、レッドブルの技術部門を長年支えてきたエイドリアン・ニューウェイが、突如としてチームからの離脱を発表。
ニューウェイは2006年にマクラーレンから加入し、F1界随一の空力設計者として、レッドブルを8度のドライバーズタイトル、6度のコンストラクターズタイトルに導いた技術の象徴だった。

彼の退職は、単なるエンジニアの離脱ではなかった。チームの哲学と設計思想そのものが変化を迫られることを意味していた。加えて、スポーティングディレクターのジョナサン・ウィートリーも退職し、現在はザウバー/アウディで新体制を築き始めている。

ニューウェイは現在、アストンマーティンへ加入し、2026年からの新レギュレーション導入に向けた準備を進めている。

■ 2024年5月:マクラーレンが差を詰め、レッドブルの優位性が崩れる

サーキット上でも異変は起きていた。開幕5戦中4勝と順調にシーズンをスタートしたレッドブルだったが、マイアミGPで事態は一変する。マクラーレンがMCL38に大規模なアップグレードを導入し、ランド・ノリスがその初戦で優勝。アップグレードが機能することを証明してみせた。

以降、ノリスとチームメイトのピアストリが安定して上位に入り、サマーブレイク明けのアゼルバイジャンでは1-2フィニッシュを決め、ついにコンストラクターズランキングで首位に立つ。
一方のレッドブルは、RB20の進化が止まり、特にセカンドドライバーの不振がチーム全体の足を引っ張っていた。

■ 2024年6月:セルジオ・ペレスが崩れ、チームは失速

フェルスタッペンが変わらず勝利を重ねる中で、もう1台のマシン――ペレスのRB20はパフォーマンスを維持できなかった。

開幕5戦で4度の表彰台に登ったペレスは上々の滑り出しを見せたが、マシンへの理解が深まるにつれライバルチームが追い上げてくると、彼の成績は一気に失速。モナコとカナダでは連続リタイア、さらにその後も下位ポイント圏でのフィニッシュが続き、貢献度は激減した。

6月には契約延長が発表されたが、効果は皆無。サマーブレイク以降の10戦で獲得したポイントはわずか21点に対し、フェルスタッペンは160点を積み上げていた。

シーズン終了後、レッドブルはペレスとの契約を1年早く終了させ、ジュニアドライバーのリアム・ローソンを2025年のセカンドシートに起用することを決断する。

■ 2024年12月:レッドブル、コンストラクターズタイトルを失う

ペレスの不振が決定打となり、マクラーレンとフェラーリが着実に差を縮めていく。アゼルバイジャンで首位に立ったマクラーレンに続き、フェラーリもランキングでレッドブルを逆転。チームは一気に3位まで転落した。

2年連続でコンストラクターズタイトルを圧倒的な形で制した王者が、最終的には2位フェラーリに60点以上の差をつけられるという、信じがたい結末だった。

フェルスタッペンは個人としてタイトルを守り切り、4連覇を達成したが、「チームとしての勝利の方程式」はすでに崩れ始めていた。

■ 2025年3月:リアム・ローソン、期待の昇格からわずか2戦で降格

2024年シーズン後半、レーシングブルズで数戦のスポット参戦を果たしたリアム・ローソンは、堅実なレース運びとミスの少ないドライビングで評価を高め、レッドブル本隊のセカンドシート昇格を勝ち取った。ペレスの不振を受けての起用であり、チーム内外では「ついにフェルスタッペンと戦える才能が現れた」と期待が高まっていた。

しかし、バーレーンでのプレシーズンテストではタイムシートの中団に沈み、開幕戦のオーストラリアGPではクラッシュによりリタイア。第2戦の中国GPでもペースを掴みきれず、12位とノーポイントに終わる。マシンの難しさはあったにせよ、トップチームのレベルには程遠いパフォーマンスだった。

その結果、ローソンはわずか2戦で降格という厳しい決断を下され、レーシングブルズに復帰。代わって昇格したのは、チームのジュニアプログラムで育った角田裕毅だった。

■ 角田裕毅、6人目の“セカンドドライバー”としての試練

フェルスタッペンが2016年に昇格して以来、彼のチームメイトとなったドライバーはローソンで5人目だった。角田は6人目の“挑戦者”として期待を背負って昇格。日本GPからレッドブルのマシンに乗り込み、2戦目のバーレーンでは見事にポイントを獲得して序盤の評価は上々だった。

だが、マシンとの相性の難しさは明白だった。RB21は非常にピーキーな挙動を見せるマシンであり、適切なバランスを見出せるセットアップの“ウィンドウ”が極端に狭い。
角田はその微妙な調整を掴みきれず、以降は5戦連続でノーポイント。昇格後の総獲得ポイントは7点に留まり、チームのコンストラクターズ争いにはまったく貢献できていない。

■ 2025年6月:レッドブル、コンストラクターズランキング4位へ転落

角田の不振だけではない。マシン自体の競争力不足が、チーム全体の成績を大きく引き下げた。
2025年のスペインGP終了時点で、レッドブルはメルセデス、フェラーリ、マクラーレンの後塵を拝し、ランキング4位にまで転落。これは2020年以来の出来事であり、レッドブルの黄金時代に明確な終わりが訪れたことを示す。

RB21は、適切なセットアップが決まれば依然として速さを見せる。しかし、そこにたどり着くまでのプロセスが極めてシビアで、コンディションや路面温度、風の影響すらも致命的に作用する。

それでもフェルスタッペンはすでに2勝を挙げており、彼のドライビング能力が“マシンの限界”を一部カバーしていることは明白だ。だが、シルバーストンでは5位に終わり、「彼でさえ魔法は使えない」との見方が強まっている。

■ アップグレードと苦戦 ― レッドブルの“追う側”への転落

シーズン中盤にかけて、チームはスパ・フランコルシャンでアップグレード投入を予定している。すでに一部の新パーツは他の欧州ラウンドで実戦テストを行っているが、現時点での改善幅は限定的。マシンの構造自体に問題があるとすれば、今季中の劇的な復活は極めて困難だ。

これまで“追われる側”だったレッドブルが、2025年は“追う側”に回っている。その現実が、チームにもドライバーにも重くのしかかっている。

■ フェルスタッペン離脱説 ― ついに現実味を帯びる

フェルスタッペンは現在、2028年末までレッドブルとの契約を結んでいる。だが、この契約には“成績による解約条項”があるとされ、チームの競争力が一定水準を下回れば、契約を一方的に破棄できる可能性があるという。

その噂が再燃したのが、2025年オーストリアGPでのリタイア。彼の5連覇は大きく遠のき、チームの不安定さにフラストレーションを募らせているとの情報もある。

シルバーストンGPの前、彼は将来の去就について問われたものの、何も答えなかった。この沈黙が逆に、「レッドブル離脱」が現実味を帯びてきた証左と捉える向きも多い。

■ ホーナー解任は“犠牲”か、“清算”か

そして、あらゆる混乱の原点となったのが、2024年2月に浮上したホーナーによる女性スタッフへの不適切行為の疑惑だった。レッドブルは独自に調査を行い、「不正行為はなかった」と発表したものの、その後に“内部文書”と称される資料が匿名でF1関係者へばら撒かれ、メディアも沈静化には至らなかった。

さらに同時期に、技術部門の重鎮エイドリアン・ニューウェイが突然の退団を発表。スポーティングディレクターのジョナサン・ウィートリーもチームを去り、組織の空洞化は急速に進んでいった。

ホーナーの電撃解任は、フェルスタッペンを慰留するための“生贄”だったのか、それともチームとして新しいフェーズに進むための“必然”だったのか――真相は依然として霧の中だ。

■ 王者の復活はあるのか

2025年シーズン後半、レッドブルはスパでのアップグレードを頼みに再起を目指す。しかし周囲のライバルたちはすでに進化を遂げ、フェラーリ、マクラーレン、メルセデスが新時代の覇権争いを始めている。

王者の座を維持するには、単なるアップグレードでは不十分だ。チーム体制、開発方針、そして何より「フェルスタッペンを軸に据えた再構築」が不可欠となる。

レッドブルがこの難局をどう乗り越えるのか。そして、フェルスタッペンはこのチームに未来を託すのか――F1界は今、その動向に注視している。