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この日のヒーローはハミルトンでなかった ハンガリーGP観戦記2

 
この日のドラマはレース前に始まっていました。この日はレース前に雨が降りました。ところがスタート前には上がり、路面状態はちょい濡れのいわゆるダンプ状態です。
 
その路面でレコノサンスラップを走るフェルスタッペンがブレーキをロックさせて、そのままコースアウトして壁に接触。彼のレースは終わったと誰もが思いました。それほど速いスピードではなかったので大きなダメージはなかったのですが、左のフロントサスペンションが破損しているのは明らかでした。
 
マシンにダメージがある事を察したフェルスタッペンは、無線でピットに戻ることを伝えます。だがエンジニアからフェルスタッペンに、ピットではなくグリッドに来るように伝えられます。フェルスタッペンは真っ直ぐ走らないマシンを直すのは難しいと感じ、ピットインしようとしたのですがエンジニアの考えは違っていました。
 
フェルスタッペンがクラッシュしたのが48分で2分後の50分にはピットレーンが封鎖され、そうするとフェルスタッペンのピットレーンスタートは決定してしまいます。追い抜きが難しいハンガロリンクで最後尾からピットレーンスタートすることは、勝負を諦めると言うことです。そこでエンジニアはとにかくグリッド上でギリギリまで修理して、それでもダメならフォーメーションラップがスタートした後でピットに戻せばいいと思いました。
 
これを書くとすごく簡単に聞こえるし、なるほどと納得できるのですが、あの瞬間にこの判断ができることが素晴らしい。普通レコノサンスラップでクラッシュするなんて考えないし、経験もない。それだけにこの判断はその後のメカニックの奮闘により規定のスタート5分前までに通常なら1時間以上かかる作業を20分で終わらせたことと同じくらいに価値のある判断でした。
 
でも普通、サスペンションを組み上げてもセッティングまで正確にするのは難しいので、フェルスタッペンは速く走れないと思ったのですが、私の予想は完全に外れました。レッドブルのメカニックはマシンを元の状態にもどしてフェルスタッペンをグリッドに戻したのです。すごいとしか言いようがありません。
 
フェルスタッペンにはいくつかの幸運も味方しました。スタートではボッタスが出遅れて、他のドライバーも抜かれないようにイン側を抑えにいったので、フェルスタッペンが走るアウト側は誰もいなくなりました。しかもコースは画面上を見る限りアウト側の方が乾いていてグリップが良く、フェルスタッペンは7位からいきなり3位に上がることができました。
 

 
コース上はほぼドライだったので、全てのマシンが続々とドライタイヤに交換すべく2周目や3周目にピットに戻ります。フェルスタッペンの前を走るハミルトンとストロールも3周目にタイヤ交換しています。
 
この時フェルスタッペンはタイヤ交換を1周遅らせて、前に誰もいなくなったクリーンな空気の中で猛プッシュ。1周前ににタイヤ交換したストロールをオーバーカットしこの時点で2位。この日のハンガロリンクは気温が低かったので、温まったインターミディエイトの方が、温まりにくいドライタイヤより条件が良かったことで、この逆転劇は成功。この判断も素晴らしかったですね。
 
ところがこのあとはハミルトンには追いつけません。速さがあまりにも違いすぎて前述のように30周をすぎてタイヤが厳しくなったフェルスタッペンを見ながらハミルトンは1秒も速いタイムを記録していました。これでは勝負になりません。
 
このあとボッタスに迫られたフェルスタッペンでしたが、このハンガロリンクでは前を走るマシンが絶対的に有利です。うしろを走るマシンは乱れた空気の中で1秒以内にはなかなか入れません。フェルスタッペンは2位をキープしてメルセデスの1-2は阻止することができました。
 
レーススタート前はエンジニアとメカニックが、レーススタート後はフェルスタッペンが素晴らしい仕事をして2位を獲得しました。この日のヒーローは彼らでした。しかしながらメルセデスとの差はまだまだ大きく、ボッタスがスタートで失敗しなければフェルスタッペンは3位だったのもまた間違いありません。
 
次は1週間空いてイギリスGPです。そこまでにレッドブルはどこまでカムバックできるのでしょうか。