F1 ニュース&コラム Passion

MGU-Kのトラブルはマックス圧勝に影響したのか? アブダビGP観戦記

メルセデスを寄せ付けず最終戦を圧勝したフェルスタッペン

劇的なレースが続いて迎えた最終戦、アブダビGP。今年、他を圧倒してきたアブダビで突然メルセデスが失速し、レッドブル・ホンダが彼らを寄せ付けずに完勝しました。予選、決勝でなぜレッドブル・ホンダは今シーズンを独占していたメルセデスを圧倒できたのでしょうか。それはメルセデスのトラブルだけが原因ではありませんでした。

▽逆転ポールのフェルスタッペン
予選Q2ではメルセデスに0.2秒負けていたフェルスタッペンですが、Q3で逆転ポールを獲得しました。これはフェルスタッペンが良かったと言うよりもメルセデスが実力を出し切れなかったといった方が適切かもしれません。メルセデスは最も軟らかいタイヤC5を適切な温度領域に入れることに苦労しており、Q3では適切なタイヤ温度にすることができませんでした。Q2ではメルセデスの二台もフェルスタッペンもミディアムでのアタックだったので、そのメルセデスの弱点が表れることはありませんでしたが、Q3では三台ともソフトタイヤでのアタックになったので、メルセデスは自分達のすべてをタイムに換算させることができませんでした。実際、メルセデスは昨年のポールタイムより0.5秒も遅かったことから、それがよくわかります。

ヤスマリーナサーキットは追い抜きが難しいことで有名なので、このポール獲得はフェルスタッペンにとって勝利への大きな一歩になりました。実際、過去5年の優勝者はすべてポールポジションからスタートしています。

オープニングラップからメルセデスを引き離すフェルスタッペン

▽メルセデスを寄せ付けないフェルスタッペン
最近、スタートでは失敗の多かったボッタスが順調に加速し、上位三台の順位に変化はありませんでした。それでもフェルスタッペンのペースは速くバックストレートに行く頃には2位のボッタスを引き離して、オープニングラップが終わる頃にはDRS圏外の1.4秒もの差をつけていました。

このアブダビはとにかく追い抜きが難しいサーキットで有名です。DRSが導入されてからは多少改善されましたが、それでもオーバーテイクが難しいことにかわりはありません。となると、どのタイミングでタイヤ交換をするのかが勝敗を左右します。しかもいつものようにフェルスタッペンは1台だけなのに、メルセデスは二台います。タイヤ交換のタイミングに変化をつけることにより、フェルスタッペンに揺さぶりをかけることも可能です。ところがです。そんなメルセデスには痛い出来事がありました。ペレスが9周目にPUのトラブルでマシンをコースサイドの止めます。これにによりセーフティカーが登場したのです。

じつはこのサーキットは比較的タイヤには優しくて、ハードコンパウンドはほぼレース距離を走れるくらいの耐久性がありました。つまりこの時点でワンストップのタイヤ交換のウィンドウがあいていたのです。ですのでフェルスタッペンは迷うことなくピットに向かいます。そしてメルセデスも二台ともタイヤ交換しました。この時、メルセデスのどちらか1台をステイアウトさせていれば、確かにレースをリードできました。

ただミディアムは最後まで走れるほどの耐久性はなかったので、30周前後でタイヤ交換のタイミングが来たと思われます。その時、レーシングスピードで走っていれば、タイムロスは大きくなり、この日いい走りを見せていたアルボンに抜かれていた可能性もありました。実際、この時ステイアウトしたフェラーリの2台はレース後半で順位を失うことになります。だからこの時点でメルセデスも二台ともタイヤ交換しなければいけなくなり、これはフェルスタッペンには有利に働きました。

完敗を認めたボッタス

▽MGU-Kのトラブルは影響したか?
メルセデス製のMGU-Kにトラブルの兆候があったのですべてのメルセデス製PUを利用しているチームはMGU-Kの性能を落として走っていました。ただその影響は約5馬力ほどであり、ドライバーにも感じることが難しいほど僅かでした。実際レース後のインタビューでハミルトンとボッタスはMGU-Kの性能を落として走ったことを知らされておらず、インタビュアーからそれを聞かされたくらいでした。

ペレスのリタイヤはそれが原因でしたし(バーレーンGPでのトラブルもこれが原因でした)、ラッセルのMGU-Kにも同じ兆候が現れていました。ただし予選では性能を落とさずにレースでだけ落として走りました。ラップタイムに換算すると約0.1秒のロスでしたが、レース終了後のフェルスタッペンとボッタスの差は約15秒だったので、レース全体(55周)で見るとMGU-Kによる約5秒のロスであり、このMGU-Kの問題がなくてもメルセデスはフェルスタッペンに勝つことは難しかったと思います。

第一スティントでメルセデスはアンダーステアに悩まされていました。小さなコーナーが多いこのサーキットでアンダーステアが出ると速く走ることは難しくなります。その問題は最初のタイヤ交換でフロントウィングを調整し修正はできましたが、その後の第2スティントでもメルセデスにフェルスタッペンと同じペースはありませんでした。

SC解除後もなんの問題もなくトップを快走していたフェルスタッペンに残り10周でタイヤにバイブレーションが感じられました。これはタイヤのコンパウンドがなくなってきた時にでる現象で、タイヤがバーストするときは、その前兆現象としてバイブレーションが出ます。ベルギーでも出ましたし、イモラでもでました。そしてイモラではその後にタイヤバーストに見舞われました。この時レッドブルには緊張が走りましたが、データやストレートを走るフェルスタッペンのタイヤの状況を見ると大きな問題はなく、ペースも大丈夫でした。そしてこの日は何事もなくタイヤは最後まで持ちました。

今年何回も最速のタイヤ交換を見せてきたレッドブル

▽レッドブルはメルセデスよりも速くなれたのか?
ただこれでレッドブルがメルセデスを追いつき追い抜いたと考えるのは少し早いと思います。なぜならレッドブルは最終戦でも新しいリアウイングを持ち込んでいて今のマシンの開発を続けています。一方メルセデスはベルギーGP以降は新しいアップグレードを持ち込んでないと思われます。ですのでシーズン終盤ではレッドブルはメルセデスに肉薄できていました。それでも勝てたのは最終戦だけです。もちろんメルセデスも来年用マシンの開発を続けています。

来年は今年とほぼ同じレギュレーションなので、今年のマシン開発を続けることが来年に無駄になるわけではありません。でもメルセデスは自分達の手の内を隠していることは明らかです。彼らが来年のテストであっと驚くパーツを出してきて、開幕戦で圧勝しても驚くには当たりません。

ただレッドブル・ホンダが悲観的になる必要もないでしょう。メルセデスは昨年、フェラーリにPUのパワーで逆転されたことで今年はかなり攻めた開発をしてきました。その証拠が今回のMGU-Kのトラブルですし、開幕前のテストで表れた信頼性不足でした。開幕前のテストでの問題はコロナウイルス感染拡大で開幕戦が遅れたことにより修正する時間ができて、対策できました。ただメルセデスが信頼性の問題に悩まされることはこれまでほとんどなかっただけに、彼らがどれほど攻めた開発をしてきたがよくわかると思います。

それに引き替えホンダは今年三基のPU制限を一度も破らなかった唯一のPUメーカーとなりました。性能的にはまだメルセデスに少し劣ってはいるようですが、勝負できないほど差があるわけでもありません。今年、レッドブル・ホンダがメルセデスに太刀打ちできなかったのは、どちらかというとマシン側の競争力の問題が大きいと思われます。

コロナウィルス大流行により開幕が遅れ、開催レース数も17に減った激動のシーズンが終わりました。メルセデスが落としたレースは4レース。これが多いか少ないかは別にして、メルセデスが今シーズン最強だったことに同意しない人はいないでしょう。さて来年は本当に23レースもできるのでしょうか。それは誰にもわかりませんが、今はただF1が開催され、無事にシーズンが終われたことを安堵して、今年最後の観戦記を終わりにしたいと思います。

今年も一年間お読みいただき、ありがとうございました。