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ルクレールの完勝とサインツとマックスの不運 Rd3 オーストラリアGP観戦記

開幕3戦で2度目のリタイヤとなったフェルスタッペン、レース開始早々にリタイヤとなったチームメイトサインツを尻目に、悠々と独走優勝を決めたルクレール。彼とライバルの運命はどこで分かれたのか。オーストラリアGPを振り返って見ましょう。

スタートからフィニッシュまでレースを支配したルクレール

まずフェルスタッペンの運命は、フリー走行から狂い始めます。フリー走行中にリアタイヤのグレイニングに悩まされたレッドブルは、セッティングの変更をしました。恐らくリアのダウンフォースを増す方向にしたと思われます。

ところがこのアルバートパークサーキットは、普段レースがおこなわれません。なので路面のエボリューションが大きく、金曜日と日曜日では路面のコンディションが大きく異なります。

そのためフェルスタッペンは日曜日の決勝で、フロントタイヤのグレイニングに苦しみます。決勝レース中、フェルスタッペンのペースは上がりませんでした。

11周目のペースを見るとルクレールはそれまでのペースを維持していますが、フェルスタッペンは1秒タイムを落としており、崖に差し掛かっています。そしてその後、タイヤ交換するまでに大きく差を開けられます。

このレースでも一発のペースはルクレールに大きく負けていたわけではありません。ただタイヤが厳しく、ロングランでは全くついて行けていませんでした。

唯一チャレンジできたのは、27周目セーフティカー明けのストレートエンドでしたが、そこもルクレールが頑張り防ぎ、そのあとはフェルスタッペンは為す術がありませんでした。

オーストラリアGPはフェルスタッペンに有利かなと思っていました。路面が再舗装されてタイヤには厳しくないし、中高速コーナーもないですし、DRSゾーンも増えていました。ただ日曜日の気温が上がったことと、フェルスタッペンがセッティングを間違えたことで、ルクレールの独走を許してしまいました。

レースペースではルクレールに敵わなかったフェルスタッペン。最後はトラブルでリタイヤし、痛いノーポイント

▽フェルスタッペン リタイヤの理由
最終的には彼は燃料システムのトラブルで出火しリタイヤとなりました。これは開幕戦の時とは違うトラブルです。開幕戦は燃料がピックアップできないというトラブルでしたが、今回は燃料が漏れたのだと思います。

スタート前にフェルスタッペンは、ハイドロ系のトラブルが出ており、ダミーグリッド上でメカニックが慌ただしく作業をしていました。恐らくハイドロのオイルがどこかから漏れていたのかと推測できます。

フェルスタッペンはスタート前に、レースがフィニッシュできない可能性を告げられていました。なのでリタイヤしたときは、火災の勢いも小さかったので、オイルが漏れたかなと思ったのですが、レッドブル側は燃料漏れだと話しています。

燃料がホースから漏れたのか、結合部分から漏れたのかは判明していませんが、エンジンから火が出たから一概にホンダが悪いと言えないと思います。PUを搭載するのはレッドブル側ですからね。

現在は高圧を掛けて燃料を送り出しているので、少しのミスでも燃料が漏れてしまうのでしょうね。もしかしたら振動で緩んだのかもしれません。と思っていたのですが、これを書いている時点で解決に時間がかかるかもしれないという関係者のコメントが出てきました。どうも今年から導入されたE10燃料が原因みたいです。

E10燃料はバイオエタノール(さとうきび、とうもろこし等から製造される植物由来のエタノール)を10%混合した燃料です。
この燃料は通常のガソリンよりも自動車の燃料装置の金属・ゴム部品を腐食・劣化させや すい性質があることが知られています。それが原因で燃料漏れが起こったというわけです。確かに大量に燃料が漏れているわけではないので、信憑性あると思います。

ただホンダはインディカー(85%バイオエタノール燃料を使用)でバイオエタノール燃料の経験があるので、ホンダのミスとは考えにくいのですがね。

ほんの少し歯車の狂いが、優勝とリタイヤを分けた

▽不運なサインツ
そのルクレールに対抗できるのはチームメイトのサインツのはずでした。しかしほんの小さなトラブルから大きな失望が生まれてしまいました。

予選Q2まではサインツも好調でした。Q2で二回アタックしたサインツは、1回だけアタックしたルクレールのタイムも上回っていました。そのためQ3でも1回アタックして、間に1周入れてもう一度アタックする予定でした。

ところがステアリングの電気系統にトラブルがあり、交換している間に出るのが遅れ二回アタックする時間が足りなくなりました。それでも1回だけのアタックは好調で、セクター2まではルクレールよりサインツの方が速かったのですが、ターン11のアロンソのアクシデントで、ラップコンプリートの2秒前に赤旗が出てタイム計測されませんでした。ちなみにルクレールはこの数秒前に通過しタイムが記録されています。

ノータイムだったサインツは、赤旗明け2回目のアタックもステアリングのトラブルで飛び出すまで時間がかかり、1周勝負になったのですが、タイヤの温まりが悪くタイムを出すことができずに9位に終わってしまいます。

レースは上位陣とは違いハードタイヤでスタートします。しかしここでもステアリングにトラブルがあり、スタート直前に交換しました。ただこのステアリングにはスタート用のモード設定がされていなくて、サインツはスタートでアンチストールモードに入ってしまい、大きく遅れます。

コロナ過の影響で3年ぶりに開催されたオーストラリアGP
3日間で40万人を超える観客が集まった

そして遅れを挽回しようとプッシュしたところ、温まりの悪いハードタイヤはグリップも少なく、2周目にコースアウトしてリタイヤしてしまいます。

オープニングラップでも順位を失ったサインツは焦っていたのでしょう。2周のバックストレートでシューマッハを抜くと、そのまま前を走るアルファロメオのスリップに入ります。しかしこの時ブレーキを遅くしすぎたことでコースアウト。ただラッキーなことにグラベルではなく、芝生に出たのでそのまま戻れるはずでした。しかし焦ったサインツは芝の上でアクセルを開けて、スピン。そのままアウト側のグラベルに捕まってレースを終えます。

もしステアリングの小さなトラブルがなければ、サインツはルクレールと競り合うことができていたかもしれません。

3戦2勝でチャンピオン争いを大きくリードするルクレール

▽完勝のルクレール
ライバルの苦戦を尻目に快調な週末を過ごしたルクレール。まさに快勝と言うしかない勝利でした。

0.3秒の大差を付けてポールを取り、すべてのラップをリードし、最終ラップで周回遅れのマシンに引っかかりながらもファステストラップを更新。

スタートではほんの少しフェルスタッペンの方が蹴り出しが良かったものの、その後の加速でカバーしインを抑えてトップをキープします。その後はフロントタイヤのグレイニング苦しむフェルスタッペンとは対照的にペースをキープして差を開いていきます。最初のタイヤ交換もフェルスタッペンの4周後にするほどの余裕がありました。

ただしルクレールがレース中唯一危ない場面もありました。2ベッテルが止まったことによるセーフティカーが明けた27周目のターン1でフェルスタッペンがチャレンジします。この時、タイヤの温まりはフェルスタッペンがルクレールより4周早くタイヤ交換していたこともあり、有利でした。

フロントタイヤがタイヤカスを拾ってしまったルクレールは最終コーナー立ち上がりが厳しく加速が鈍ります。ただここでもインを抑えてフェルスタッペンの攻撃をしのぎます。その後は、問題なくフェルスタッペンとの差を広げていきました。

このタイヤが温まりが悪かったのはアストンマーチンのセーフティカーにも原因がありそうです。このセーフティカーはメルセデスよりも5秒も遅くフェルスタッペンは亀のように遅いと不平をぶちまけていました。

ただここでもルクレールはセーフティカーが遅いとは思っていましたが、不平を言っても問題が解決しないことを理解し、再スタートに向けて集中することにしました。こんなところも年齢以上に成熟しているルクレールです。

金曜日の時点ではフェラーリも完調ではなく、ロングランペースはレッドブルの方が速かったのですが、フェラーリはこの状況を理解し、タイヤラバーが乗ってくる日曜日に合わせたセッティングができたのがこの完勝の要因でした。

フェルスタッペンが苦しんでいたミディアムでのグレイニングにも苦しみませんでした。ハードタイヤではレッドブルの方がいいと思われていましたが、ハードでもフェラーリは速かったです。

アルバートパークサーキット レイアウト
今年大きくコースに変更が加えられた

フェルスタッペンのトラブルは深刻なものではないので、次からは対策できるでしょうが、3戦で2回ノーポイントに終わったのは痛いですね。もちろん残り20レースあるとは言え、すでに46ポイントも差が開いています。これは昨年のハミルトンとの最大差よりも大きいポイント差になります。

まだまだこれから巻き返すレースが数多いとも言えますが、現在フェラーリの方が速いことを考えると余裕はまったくありません。昨年はレッドブルの方が主導権を持っていましたが、今年は明らかにフェラーリに主導権があります。

これ以上差が広げられると厳しいフェルスタッペンにとって次のイモラGPは負けられないレースになりそうです。

オーストラリアGP レース結果
ドライバーズ チャンピオンシップ 順位表