2006年以来の勝利を見ようと集まった多くのティフォッシ達の期待を大きく裏切ることになったフェラーリと失望のオーストラリアからカムバックし、ほぼ完全なレースを構築したレッドブル。この大きな差はほんの小さな違いから始まりました。イモラで開催されたエミリア・ロマーニャGPを振り返っていきましょう。
▽天候に大きな影響を受けたイモラ
週末の天候はレースの結果に大きな影響を与えました。まず最初にFP1が雨のコンディションでおこなわれました。そのためドライタイヤのデータを取ることできません。この週末はスプリントレースがあるのでFP1をやったらいきなり予選で、その後設定を変えることができません。そのため、持ち込んだ初期設定の小さな違いがフェラーリとレッドブルの違いを生み出しました。FP1でフェラーリは1位と2位を独占しましたが、これは予選やレースには大きく影響を与えることありませんでした。
なので両チームともイニシャルのセットアップを大きく変えずに予選に臨んだのですが、レッドブルのセットアップは今週末の状況にぴったりでしたが、フェラーリには合っていませんでした。
その違いがタイヤライフに違いをもたらしました。スプリントレースでは2位スタートからトップに立ったルクレールでしたが、タイヤが厳しくなった最後の最後にフェルスタッペンに抜かれてしまい2位スタートとなりました。これが決勝レースでは大きな違いを生み出します。
決勝レース2時間前に降った雨により、スターティンググリッド上は濡れているところあり、乾いているところありのダンプ状態でした。ただ特に偶数列のグリッドは濡れていて、更にグリッド先の路面も濡れていました。そのため偶数列のグリッドスタートのドライバーは大きくスタートで遅れることになります。
一方奇数列の1-3位からスタートしたフェルスタッペンとペレスは順調にスタートし、あっという間に1-2体制を構築します。これ以降フェルスタッペンに脅威を与えることのできるドライバーはいませんでした。一方、2-4位からスタートしたフェラーリは順位を落とし、さらにサインツは最初のコーナーでリカルドに接触され、あえなくレースを終わることになります。
ただこれも予選からの流れの結果とも言えます。雨が降る中の予選Q2でサインツは飛び出してクラッシュ。そのためQ3進出の権利はその前のアタックで得ていましたが、Q3でアタックすることはできずに、スプリントレースは10位スタートとなります。そこからスプリントレースでは追い上げて4位スタートを得ましたが、偶数列のグリッドは不利な状況でした。
彼がもし予選でミスをしていなければ、スプリントレースで上位でスタートできていれば、もっといい順位で決勝レースもスタートできていたかもしれず、そうすれば決勝レースの展開もまた違っていたかもしれません。
▽攻めたレッドブルと苦しむフェラーリ
あと今週末は天候に恵まれず、気温が低い日が多かったのもフェラーリには不利に働きました。彼らのマシンはレッドブルに比べると、タイヤには優しいものの、タイヤの温度を上げるのに苦労する傾向にあります。そのためルクレールは決勝レースでタイヤ交換してライバルのノリスやペレスより前でコースに戻ったにも関わらず、抜き返される場面がありました。もしペレスに抜き返されることがなければ、終盤のスピンもなかったと思われます。
ではルクレールはなぜ終盤にスピンしてしまったのでしょうか。もちろんペレスを捕まえるためにプッシュしていたのは間違いないのですが、スピンしたバリアンテアルタの先にDRSの検知ポイントがあり、しかもルクレールは唯一このシケインでペレスより速かったのです。つまりここで差を詰めてDRSレンジである1秒以内に差を詰めたかったのです。
録画を見るとルクレールがソーセージ上の縁石に乗ったことによりスピンしているように見えますが、実はルクレールは前のラップも同じシケインで同じように縁石を乗り越えて、スピンもせずに通り抜けています。スピードがほんの数キロ速いことを除いてはふたつのラップは同じでした。ルクレールはペレスを捕らえようとしたために、前の周よりほんの少しだけブレーキを遅らせ減速が足りずにスピンしてしまいました。これで彼は3位の座を失いことになります。
これはチャンピオンを争うドライバーとしては、やってはいけないミスです。ただ彼はスピンして壁に当たったのですが、幸いスピードが落ちて真横から壁に接触したので、フロントウィング以外はダメージがなく、フロントウィングを交換することで走り出すことができました。これで一次は落とした順位を6位にまで挽回してレースを終えることになります。
ミスによりポイントを失ったルクレールですが、6位でポイントを稼ぐことができました。この状況ではリタイヤしていてもおかしくなかったので幸運でしたね。チャンピオンを取るにはこうした幸運もまた必要なことになります。
ただフェラーリのミスだけが、レッドブルの完勝をもたらしたわけではありません。先ほども述べたように、この週末はスプリントレースがあるので、FP1だけでセットアップを決めなかればなりません。ということは新しいパーツを持ち込んでも、効果を評価することが難しくなります。なのでフェラーリはこの週末に新しいアップグレードを持ち込みませんでした。
ところがレッドブルは評価する時間がないことをわかっていたのに、新しいパーツを持ち込みました(ブレーキダクトとキールのウイングレット)。これがマシンにいい効果をもたらしたレッドブルは、この週末常にフェラーリに対して優位を持っていました。
また先ほど述べたフェラーリはタイヤ温度が上がりにくかったので、気温が低い中でタイヤが温まる前にプッシュすると、タイヤ表面がささくれ立ってしまうグレイングが出やすく、これもフェラーリを悩ませていました。また今年からタイヤウォーマーの温度が昨年の100度から70度まで温度を制限されているのも、こういう涼しいコンディションではフェラーリには不利に働きました。
ただこの結果だけを見て、レッドブルがフェラーリを純粋なパフォーマンスを上回ったとは言えないと思います。この週末は3日間、天候が悪く気温も低い、特殊なコンディションでした。この二つチーム間のパフォーマンスのバランスが変化したか、どうかはスペインGPにまで待つ必要があると思います。
▽小さな差が生み出したハミルトンとラッセルの差
ハミルトンが14位でレースを終えたことが話題になっていますが、これを見て彼がやる気を失っていると見るのは間違っているでしょう。確かにラッセルは4位なのに、ハミルトンは14位なので大きな違いに見えます。ただ先ほど述べたように、フェラーリとレッドブルの小さな違いがレース結果に大きな影響を与えたように、ラッセルとハミルトンの小さな初期設定の違いが大きな結果の違いをもたらしました。
偶数列の14位グリッドスタートのハミルトンは、ルクレールやフェラーリ同様、スタートで出遅れます。一方ラッセルは11位と奇数グリッドだったので、いいスタートを切れます。後方集団に飲み込まれたハミルトンは自分のペースで走れないので、タイヤ温度が上がりません。メルセデスもフェラーリ同様タイヤ温度の上昇に問題を抱えており、予選でも1周の予備ラップを入れてアタックしていたほどでした。こうなるとタイヤ温度が上がらない、ペースが上がらない、タイムが上がらない、タイヤ温度が上がらないと悪循環に陥ります。これでも自分1人で走ることできれば、いいのですが前にマシンがいれば自分のペースで走ることはできません。
またガスリーを追っていたハミルトンでしたが、ガスリーも前を走るアルボンを追いかけていて共にDRSを使えていたので、直線でも優位性がなかったです。ハミルトンは今のマシンを完全に信頼できないと発言しています。となるとリスクのあるオーバーテイクが難しくなります。
コーナーでオーバーテイクを仕掛けるときは、当然ギリギリの走りになるのでマシンのバランスが崩れやすくなります。その状態の時に、自分の乗っているマシンが信頼できなければ、追い抜きを仕掛けることは難しいでしょう。レコードライン以外は濡れているような状況ではなおさら仕掛けるのは苦しくなります。またこのコースは古いコースなので、幅が狭くコーナーで追い抜きを仕掛けるのが難しく、ストレートでDRSの効果を使えないと抜くのはさらに難しくなります。
当然、ラッセルがいい仕事をしたことは間違いありません。ただハミルトンとラッセルが順位の違いほど大きな違いがあったわけではないと思います。