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ペレスがフェルスタッペンを抑え込んだ理由 サウジアラビアGP観戦記

今年のサウジアラビアGPは、数字の上ではまたもレッドブルの圧勝となりましたが、ペレスとフェルスタッペンは、優勝を争うためにハードに攻めなければなりませんでした。フェルスタッペンは、予選でのトラブルにより後方からのスタートを余儀なくされ、ペレスはシーズン初優勝を果たしましたが、FIAによる判断ミスがアロンソの表彰台を左右したので、彼らの活躍が少し霞んだサウジアラビアGPを振り返ります。

迫りくるフェルスタッペンから逃げ切り、今シーズン初優勝を飾ったペレス

木曜日の会見を胃の不調により欠席したフェルスタッペンでしたが、ジェッダ・サーキットに遅れて到着したにも関わらず、フリー走行から他を圧倒する走りを見せつけ、胃腸炎に苦しむ世界チャンピオンにつけ入る隙があるかと期待したライバルたちを落胆させました。この時点でパドックにいる誰もが今週末のレースの結果を予想できると考えても不思議ではありません。

ところがフェルスタッペンは予選でドライブシャフト破損により15位スタートとなり、ダメージリミテーションのレースを余儀なくされ、チームメイトのペレスが表彰台の中央に立つことになりました。とはいえラッキーなセーフティカー登場によりフェルスタッペンにも優勝のチャンスはありました。

3回のプラクティスセッションで、フェルスタッペンが2位以下に大差をつけました。このため、予選もレースもフェルスタッペンが圧倒的な強さを見せ、2023年は昨年より激しいチャンピオン争いが見られるかもしれないという期待は、打ち砕かれると思われました。しかし、フェルスタッペンはドライブシャフトの不具合でポールポジションを逃し、15位で予選を終えて、ペレスが勝利しました。ペレスは、フェルスタッペンが失速した場合に勝利を得るという、チームからの期待を完璧に実行しています。

「まず最初にオープニングラップでリードをキープしなければならない」とペレスは予選後、アロンソと共にフロントロウからスタートすることが決まった後に述べました。
「もしそうすることができたら、アロンソを抑え込めていい流れを作れると思う。そうすれば自分のペースで走れるしね」

前述したフェルスタッペンとそれ以外のドライバーの間には、練習走行で大きなギャップがありましたが、夜のFP2セッションでその差を0.2秒にまで縮めたのはアロンソでした。「レースでペレスとバトルすることは想定していない」と悲観的でしたが、アロンソはアストンマーティンのマシンに満足していました。

15位からスタートし、序盤は集団の中でやや苦しんだフェルスタッペン。だがダメージリミテーションのレースで2位とファステストラップを決めて、ランキングトップは維持した

アストンマーチンは中団勢から抜け出しコンスタントに表彰台を狙うまでになり、2023年にレッドブルに挑戦することを狙っていたフェラーリやメルセデスを大きく上回るパフォーマンスを見せていました。シャルル・ルクレールのペナルティでアロンソがフロントロウを獲得したことは、観客に驚きを与えましたが、アストンマーチンの強みはレースペースにあります。

予選ラップを解析してみると、アストンマーチンはコースのトラクションが要求される部分で特に強さを見せます。そのためスタートランプが消灯すると、アロンソの加速は素晴らしく、ポールシッターのペレスに並んでいきます。ペレスがアロンソを抑えにかかりますが、ターン1でイン側にいたアロンソを防ぐことはできず、リードを奪われることになりました。アロンソの逆転劇を期待していた人々にとって、彼の電光石火のスタートは想像を絶するものでしたが…しかしそれもほんの約10秒間だけでした。

アロンソのスタートは、ほとんど完璧でした。たった一つグリッドボックス外の左側に止めていたという問題を除けば。バーレーンGPのエステバン・オコンのように、アロンソはすぐに5秒加算のペナルティを課され、次のピットストップでそれを消化することになりました。

結果的にこのペナルティによりアロンソは表彰台を失うことはありませんでした。ただこのペナルティには疑問も残ります。確かに彼はグリッドボックスを外してはいます。しかしF1ドライバーはとても低い位置に座っているので、タイヤの上部は見えてもマシンに近い路面を見ることはできません。その証拠にグリッドボックスに前端には黄色のラインが横に長く引かれています。これはグリッドボックスの前端を超えると、即ペナルティ対象となるので、グリッドボックスの前端をドライバーから見えるうように、長く引かれています。

だからフォーメーションラップ後に、あの狭いグリッドボックス上にピッタリ止めるのは簡単ではありません。もちろん他の19人はみんな止めていると言われれば、確かにその通りなのですが、フォーメーションラップ終盤のドライバーは我々が考えているより遥かに忙しく慌ただしく、このようなミスを犯してしまうのです。

タイヤ交換の際にマシンに触れてしまい、危うく三位の座を失いそうになったアロンソ。チームの抗議によりトロフィーを守ることに成功した

その証拠に開幕戦のバーレーンGPでもアルピーヌのオコンが同じペナルティを受けています。世界最高のドライバーたちが二戦続けて同じようなことをしてしまうのですから、これが簡単なことでないのは理解いただけるのではないでしょうか。それに、このようなペナルティでせっかくのレースが台無しになってしまうのは、誰にとっても望むべきことではないですよね。

ではアロンソはなぜグリッドボックスにマシンを止められなかったのか。それは彼がギリギリまでマシンを左右まで揺らしてタイヤのバーンアウトをしていたからです。そのため彼は二番手グリッドに向かって少し左側からアプローチしてしまいました。他のドライバーのオンボードカメラを確認すると、彼らはアロンソより早くバーンアウトを止めて真っ直ぐにグリッドボックスに向かっています。ここでもアロンソの絶対にスタートでペレスの前に出るという強い意志を感じますよね。

アロンソのペナルティが判明しましたが、ペレスはこのペナルティに関係なくレースで勝つために、アロンソに襲いかかります。3周目の終わり、このタイミングでDRSが作動したペレスは、アロンソを猛然と追い上げ、1コーナーでいとも簡単に抜き去りました。アロンソは、2013年以来のF1優勝を夢見たかもしれませんが、ペレスの速さは異次元でした。

しかし、アロンソの辞書に諦めるという文字はありません。アロンソはペレスから簡単には離されず、1秒以内にとどまってDRSのアシストを受けながらついていきます。しかし10周目にはアロンソはペレスとの差が1秒以上なり、そこからペレスとの差は急速に広がっていきます。

一方、フェルスタッペンは15番手から着実に順位を上げてきていました。昨年のベルギーGPのような急激なポジションアップではありませんでしたが、14周目に7番手に上がり上位陣へと迫ります。

「レースの序盤は前の車についていくのが大変だった。ストリートサーキットで高速コーナーがあり壁も近いので、追い風のような効果がありダウンフォースが不安定になるんだ。クルマが接近していたしね。でも何周かすると少しづつ落ち着いてきて、1台ずつ抜いていくことができたんだ」

その後、カルロス・サインツとルクレールが15周目と16周目にピットインしたことで、フェルスタッペンはさらに2つ順位を上げました。18周目にストロールがトラブルでコース脇に止まったことで、セーフティカーが入ったので上位陣はタイヤ交換に入ります。フェルスタッペンも、トップ集団と同じように18周目にピットインし、ジョージ・ラッセルに次ぐ4位でコースに復帰しました。

同じうようにピットインしたアロンソは作業開始の前にペナルティを消化したにも関わらず、2位をキープすることができましたが、21周目のセーフティカーのリスタート後、ペレスはアロンソとのリードを一気に広げ始めました。23周目にDRSが適用されたとき、その差はすでに3秒に迫っており、ペレスは手のつけられない状態でした。

一方、フェルスタッペンは、再スタート後の2ラップでタイヤに優しく走るように指示されました。レースエンジニアのジャンピエロ・ランビアゼは、DRSが有効になるまで待って、3番手のラッセルに接近するよう提案。そして23周目の終わりまで待ち24コーナーの立ち上がりでDRSを利用してラッセルを追いつき、最終コーナーで抜き去りました。

表彰台圏内まで来たフェルスタッペンの次のターゲットはアロンソでした。25周目にフェルスタッペンは再びDRSを使い、メインストレートでアロンソを抜き去ります。ペレスはフェルスタッペンが2位に浮上した時点で5.5秒の差をつけていて、ここからレッドブルの二台によるバトルを始まりました。

2度のタイトル獲得経験を持つフェルスタッペンがペレスのリードを切り崩し、2022年のスパ同様の活躍を見せることが期待されていました。しかし、後方から迫りくるフェルスタッペンが徐々に差を詰めてきますが、毎周コンマ数秒程度しか差が縮まらず、このままではフィニッシュまでにペレスに追いつくことはできません。

ピレリのタイヤ交換ラップリスト

時にはペレスがリードを広げることもありましたが、フェルスタッペンはさらにタイムを縮め、4.3秒差まで詰め寄ります。そんな中、フェルスタッペンはドライブシャフトの感触が「ラフになっていて」「高速で変な音がする」と不安を口にしました。ピットでは、データからはトラブルの兆候が見られなかったので、安心していました。しかしフェルスタッペンが少しペースを落としたため、ペレスがブレーキの不調を訴える前にリードは5.2秒に広がりました。

レースエンジニアのヒュー・バードはペレスに、データ上は問題はないと話しましたが、一時は彼のRB19が故障したかのように見えました、ただラップタイムを見ると、2人とも1分32秒台後半から1分33秒台前半に上げて互いに競い合っていました。ペレスはこのチームメイト同士のバトルを快く思っておらず、「意味がないプッシュをしている」と批判しました。

しかし二台の激しいタイムバトルの後、フェルスタッペンはどう頑張ってもレース終了までにペレスに追いつけないと悟り、またドライブシャフトが最後まで持つか確信が持てなかったので、ペースを落とすとペレスが2秒ほどリードを広げることになりました。そしてフェルスタッペンはその鬱憤を最終ラップでのファステストラップを記録することにより、少し晴らしました。

とはいえフェルスタッペンを実力で抑えきったペレスは上機嫌でした。
「フェルナンドを抜いた後は、自分のレースをすることができた」とペレスは振り返ります。でも、あのセーフティカーが出たときは、去年のジェッダを思い出して、”ああ、またか!”って感じだった。でも、あの時はピットインしていなかったので、幸いにも繰り返さずに済んだ。セーフティカーが入った後の新しいレースで、かなり早い段階でマックスがトップ争いに戻ってきた」

「終盤は基本的に、マックスとのギャップを保つことに専念していた。でも、そのためにかなりハードにプッシュして、ギャップを維持しなければならなかったけどね」

ただレース後にひと悶着ありました。ペレスがレース中にファステストラップを目指すのかピットに問いかけるとペースを維持するように指示されました。だからペレスは当然、フェルスタッペンも同じように指示されると思いこんでいました。この時点で最速ラップはペレスが記録していましたので、このままいけばファステストラップの追加の1ポイントは彼のものになるはずでした。

ところが、フェルスタッペンもペレスと同じように指示はされていたのですが、それを無視。最終ラップでファステストラップを記録し追加の1ポイントを奪い取り、チャンピオンシップのリードを保つことに成功しました。レース終了後、フェルスタッペンがファステストラップを記録したことを知り、ペレスが驚く顔をテレビカメラは捉えていましたよね。

電光石火のスタートでペレスを抜きレースをリードするアロンソ。しかしながらグリッドボックスから外れていたことでペナルティを課されてしまう。

▽揺れ続けたアロンソの表彰台
ピットストップでペナルティを消化したにも関わらず、アロンソは表彰台を獲得できるポジションにいましたが、メルセデスはFIAがアロンソに対するさらなる調査をしていることを知り、ラッセルに前を走るアロンソとの差を縮めるためにペースアップするよう指示しました。

表彰台を目指していたアロンソがセーフティカー中に追加のペナルティを受けたことを知らされたラッセルは、なぜアロンソに追加のペナルティが出る可能性があるのか理解できず混乱しましたが、アロンソを追いかけ続けろという指示が出ると、ラッセルは懸命にそれに応えようとしました。

フィニッシュ時点でのアロンソとの5.1秒差は、アロンソが5秒の追加のペナルティを受ける可能性があることを考えると、ラッセルの表彰台には十分ではありませんでした。しかしながらラッセルとメルセデスの追い上げは無駄ではないかもしれませんでした。アロンソがF1通算100回目の表彰台を獲得した直後、アストンマーティンはスクリーン上に「アロンソは10秒のペナルティで4位に後退」という嫌なメッセージを確認しました。

ラッセルは表彰台に立つことができませんでした。しかしながら、表彰式の終わった後に突然のトップ3入りを知らされて混乱していました。

アストンマーティンは、アロンソがペナルティを受けるためにタイヤ交換する前に5秒間、マシンとの接触を避けなければなりませんでしたが、リアの下にジャッキを入れる際にマシンに触れていたことが明らかなりました。FIAはこの行為がペナルティを消化していないと判断し、最初のペナルティの5秒とピットストップの際にペナルティを消化しなかったペナルティの5秒を追加した10秒を加算することになりました。

しかし、話はそこで終わりませんでした。アストンマーティンは審査請求書を提出し、FIAはこれを受理したからです。アストンマーティンは過去におこなわれた同様のピットストップの例を7つ提出しました。そのどれもが、リアジャッキをクルマの下に置いたもので、すべて罰せられていませんでした。そして実際このことで、アロンソはアドバンテージを得ていないので、FIAはアストンマーティンが提出した前例に基づき、アロンソのペナルティを取り消し、3位入賞は正式な結果になりました。

メルセデスの今季初のトップ3入賞はお預けとなりましたが、メルセデスの二台は予選スピードでは対抗できないフェラーリの前でフィニッシュすることに成功し、ポイントを獲得してサウジアラビアを去ることができました。

最後に猛追を見せて表彰台を目指したラッセルだが、わずかに及ばず4位に終わる

メルセデスはアグレッシブな戦略を取り、ハミルトンをハードタイヤでスタートさせたため、序盤は重い燃料とハードタイヤの組み合わせでスライドし、なかなか前に出ることができませんでした。しかし、レースが進むにつれてフェラーリ勢のペースが上がらず、5位入賞をすることができました。この週末ハミルトンは、W14とのつながりを感じられなかったと話しています。

一方、フェラーリは、サウジアラビアで表彰台の可能性があると考えていました。予選でのルクレールの2位獲得は印象的で、10グリッド降格のペナルティを受けていたにもかかわらず、チームは彼をソフトタイヤでスタートさせ、序盤から順位を上げていきますが、その希望は急速にしぼんでいきました。オープニングラップのターン13でサインツがアウト側からストロールに抜かれ、ポジションを落としてしまいました。これは、フェラーリが悲惨なレースを迎える前触れとなりました。

「金曜日の後、そして週末の前には、ここジェッダで第2勢力になるチャンスがあると思っていたので、少し驚いている」とサインツは語り、フェラーリの競争力が控えめに見ても4番手だったことにショックを受けました。「でも、あの最後のスティントでのハードのペースの悪さは、僕たちがまだやるべきことがたくさんあることを証明していると思うんだ」

「現時点で、レースペースやダーティエア内でのマシンバランスの面で、自分たちが望んでいる地点に到達していないのは明らかだ。自分たちは苦しんでいると思う。もしダーティエアでタイヤをオーバーヒートさせているのなら、タイヤを生かしておくには、予選で前に行くだけのタイムが必要になる」

ルクレールは、セーフティカー中のチームとのミスコミュニケーションに苛立っていました。タイヤをオーバーヒートさせないように前のクルマとの間隔を空けていましたが、あとになってピットアウトするハミルトンの前に出るためにプッシュしていいと言われた。「でもその時はもう手遅れだったんだ」とルクレールは嘆きました。

ペレスはフェルスタッペンをチャンピオンを争えるのか?

▽異次元のレッドブルとフェルスタッペンのライバル
アロンソが他のチームとは別次元と表現するレッドブルには、このようなコミュニケーション上の問題はありません。レッドブルへ挑戦しそうなチームは、風向きが大きく変わらない限り、このシーズン序盤段階では現れそうもありません。

これからのマシン開発で新しいパーツが効果を見せれば、ライバルチームを加速させ差が縮まるるかもしれません。レッドブルは昨年コンストラクターズ・チャンピオンになり空力開発が制限されている上、されに予算超過のペナルティを受けて、開発に制限を受けているからです。しかしそうであろうとも現時点で、現実的にフェルスタッペンにとって驚異となるのはペレスただ一人です。それもフェルスタッペンがトラブルに見舞われればの話ですが。

ただフェルスタッペンの予選でのドライブシャフトトラブルに助けられたとはいえ、この日ペレスの走りは見事でした。迫りくるフェルスタッペンとの差を維持するのは誰にとっても簡単なことではありません。

サウジアラビアGP ジェッダサーキット

ただペレスがチャンピオンを争いたいなら、彼はすべてのサーキットでフェルスタッペンと同じレベルの走りを見せなければなりません。昨年もポールを取り、レースをリードしたサウジアラビアGPはペレスにとり得意なサーキットです。また彼の昨年の優勝はストリートサーキットです。

だからペレスが得意なサーキットでフェルスタッペンに対抗できることはわかっています。ただフェルスタッペンがすごいのは彼はどんなサーキットでも、どんなコンディションでも、ドライブシャフトが折れても、ペナルティを受けてもベストを出せることです。なのでペレスがフェルスタッペンとチャンピオンを争えるかどうかは、少なくとも次のオーストラリアGPを見てみたいと思います。

フェルスタッペンが独走するチャンピオン争いを歓迎する人は、フェルスタッペンファン以外にはいないでしょうからね。

マグヌッセンと激しく10位を争うも、惜しくも11位に終わった角田

最後に角田、ポイント取れずに残念でした。これで二戦連続11位となりました。マシンもあまり良くないので、頑張っているとは思います。ただ11位と10位では大きな違いがあります。厳しいドライビングをしているのは承知していますが、結果を残さなければf1ドライバーとして生き残っていくのは難しくなります。彼ももう三年目ですから、結果を残せるように頑張って欲しいと思います。

サウジアラビアGP 最終結果
ドライバーズ チャンピオンシップ ランキング
コンストラクターズ チャンピオンシップ ランキング