F1 ニュース&コラム Passion

赤旗もマックスを止めることはできなかった_オーストラリアGP観戦記

オーストラリアGPは、終盤の2度の(そして合計三回の)赤旗によりセーフティカーが導入され、混乱したまま終了しました。しかし、マックス・フェルスタッペンがレースの勝者になったことに異論のある人はいないでしょう。

スタートの失敗もブレーキの不調も三度の赤旗さえてもフェルスタッペンを止めることはできなかった

フェルスタッペンはレッドブルの開幕三連勝に貢献しましたが、バーレーンやジェッダで起こったことがまたメルボルンでも起こりました。

フェルスタッペンはレースに勝ちましたが、完勝とは言えませんでした。いつものようにライバルに一歩でも譲ることを拒むようなドライビングはありませんでしたが、フェルスタッペンがバトルの中で間違った判断をしていれば、たとえ論争となった2つの赤旗中断の出来事が変わらなかったとしても、メルボルンの結果は大きく異なっていた可能性があります。

フェルスタッペンがメルボルンのレースで勝利した理由は、単純に彼のマシンがライバルに比べてはるかに優れているからです。しかしスタンディングスタートという予測不能な状況では、レッドブルの二台が無敵というわけではありません。

バーレーンとジェッダではペレスがスタートで失敗し、メルボルンではフェルスタッペンが出遅れてジョージ・ラッセルに先行を許します。フェルスタッペンの最初の加速は鈍く、シフトアップした際にホイールスピンを起こしてしまったため、ラッセルはすぐに並ぶことに成功しました。しかし、ここでフェルスタッペンは無理やりインを閉じることはせず、ラッセルはターン1に進入しリードを奪い、その後すぐにリードを広げます。

フェルスタッペンはラッセルに対してもっと厳しく反応することができたはずですが、実際には、多くの人が想像もしなかったようなことをしました。フェルスタッペンはステアリングをわずかに戻して、ラッセルに必要なスペースを与え、そのため出口でレッドブルの加速が鈍ります。

スタートでフェルスタッペンのインから抜いていくラッセル。メルセデスが今シーズン初めてレースをリードします

そのためにラッセルが先行した後に、ルイス・ハミルトンとカルロス・サインツがタイトな右コーナーであるターン3の入り口でフェルスタッペンを脅かしました。ここでハミルトンは、「彼は早くブレーキをかけ、僕は遅くブレーキをかけた」と話し、フェルスタッペンが開けたインに飛び込み、並びながらエイペックスに突入します。

フェルスタッペンは、ハミルトンをラッセルと同じようにイン側を開けて抜かせるか、インを閉じてブロックするか難しい判断を迫られました。フェルスタッペンはイン側にターンインしましたが、ハミルトンがイン側に入ってきたことを認知すると、走れるスペースは残しました。

この時フェルスタッペンは、ハミルトンがアウト側に寄せてきて自分の走るスペースを残さなかったと不平を述べました。

フェルスタッペンはレース後、「アウト側で何が許されるかは、ルール上はっきりしている」と説明した。「でも、明らかにそれが守られていなかった……」とレース後に説明しました。

彼は2022年初頭、ドライバーたちに説明されたレーシングエチケットに言及しました。それによるとエイペックスに先に到達した方が優先されるとされました。しかしFIAの判断は問題なしでした。

「かなりフェアだと思った 」と、ハミルトンは一連の流れについて語りました。「お互いにスペースを残していたと思う。僕は彼を押し出さなかったし、彼はインサイドを閉じたわけでもない。僕たちは接触しなかったし、これがレースだよね」

レースオフィシャルもこれに同調し、レースコントロールはこの出来事を問題視することはありませんでした。しかしその結果、ラッセルがハミルトンに2.4秒の大差をつけてトップに立ち、フェルスタッペンはさらに1.3秒遅れてサインツとフェルナンド・アロンソの前に位置することになりました。開幕二戦の結果を考えると、ちょっと信じがたい順位です。

フェルスタッペンは、無線でハミルトンのドライビングに対して自分の主張を展開していました。しかし、フェルスタッペンはそれほど気にはしていませんでした。なぜなら、彼は自分のマシンに競争力があることをわかっていたからです。

もらい事故と不運な赤旗でオーストラリアではいいところのなかったフェラーリ

この週末は気温が低く、どのドライバーもタイヤの温度上げることに苦労していました。予選では多くのドライバーが2周ウォームアップをしてからアタックをしていました。フェルスタッペンがスタートで苦労したのも、それが理由の一つです。レッドブルに比較してメルセデスはタイヤ温度の上昇に苦労していませんでした。だから彼らはレース序盤で競争力がありました。

スタートの時点ですべてを掛けて危険な賭けをするほど、フェルスタッペンは子供ではありません。昨年二度目のチャンピオンをとったフェルスタッペンは成熟し、偉大なチャンピオンへの道を歩いていると思います。自分の強みとライバルの弱みを理解し、確実に勝負できるところまで待つ。まるでプロストのような走り。これがフェルスタッペンの成長です。それが面白いかどうかは別問題ですが。

上記のように、フェルスタッペンはターン3でのハミルトンの動きに不快感を示しましたが、冷静さを保ちました。レッドブルのチームボスであるクリスチャン・ホーナーは、「マックスは、巻き込まれることなく、本当に忍耐強かった」とオープニングラップについて語りました。

フェルスタッペンは、「スタートはとても悪く、1周目は慎重に走った。彼らにとっては多少のギャンブルは、得るものは多いけど、自分にとっては失うものが多いからね。その後、すぐにマシンのペースは速いことががわかった。僕たちはDRSが許可されるのを待って、追い抜くチャンスを狙っていたんだ」

しかし、それはすぐには実現しませんでした。ハミルトンとフェルスタッペンのバトルの後、ターン3でシャルル・ルクレールにランス・ストロールが接触しルクレールがコースアウトしたことで、セーフティカーが登場します。

ルクレールのマシンが排除されると、ラッセルは簡単にリードを維持します。4周目のリスタートでハミルトンに0.7秒差をつけ、その後4周をリードしてメルセデスは2023年初めてレースをリードします。ラッセルが徐々にリードを広げDRS圏内から脱出する前に、ハミルトンが反撃し、二人の差は安定しました。そして6周目にようやくDRSが作動すると、ハミルトンはチームメイトに向かって反撃し始めます。

これはメルセデスにとって幸運であり、不幸でもありました。ハミルトンが4つのゾーンでDRSを使えるため、差を縮めやすい状況でした。しかし、ハミルトンがDRSを獲得したことで、ハミルトンの後ろを走るフェルスタッペンもまたラッセルとの差を縮めることを意味しました。

さぁこれから首位争いが面白くなりそうだった7周目に好調だったアルボンがクラッシュしてコース上に大量の小石を撒き散らして止まってしまいます。このアクシデントでセーフティカーが導入されたので、ピットストップのロスタイムを削減すべく、メルセデスは7周目の終わりにラッセルのタイヤの交換を実行し、上位陣が履いていたミディアムタイヤをハードに交換する決断をしました。

ただここでタイヤ交換するのは、この時点は難しい判断でした。ハードタイヤが長い距離を走れるのはわかっていましたが、残りは50周もあり距離的には微妙でした。結果的には持ったと思うのですが、この時点ではまだ未知数な部分も残されていました。

またもや表彰台の登ったアストンマーチンとアロンソ。もう実力としか言いようがない

それともう一つ問題点があり、まだ7周目だったので上位陣と中団勢の差が開いておらず、集団の中に戻らなくてはいけませんでした。そうなると当然、自分のペースでは走れない、タイヤ温度が上がらない、ペースが上がらず抜けないとなる可能性もありました。

しかしピットストップのロスタイムを削減するという意味では、ライバルに対して優位になったのは間違いありません。実際、ハミルトンはラッセルのタイヤ交換を知らされると、自分は不利になったのではないかと問いかけていました。

ただ上位陣にメルセデスは2台いて、レッドブルとアストンマーチンは1台しかないので、メルセデス的には作戦を分けてリスクを分散しても失うものはありません。

そんなハミルトンの不平は、予想外の8周目に赤旗が出てレースが中断されると状況は一変します。赤旗が出ると自由にタイヤ交換することができます。そのためセーフティカー導入中にタイヤ交換したラッセルとサインツは有利どころか、ただ単純に順位を落としただけになってしまいました。

16分間の中断は、アルバート・パークのコース上に散らばった砂利や破片が多すぎるとFIAが判断したためです。しかし、ラッセルは悔しさをにじませました。

「赤旗はまったく必要なかったと思う」と彼は後に振り返ります。「コース上には明らかにかなりの砂利があったが、レーシングラインははっきりしていた。過去にはもっとひどいこともあった」

トラックがクリアになった時、ハミルトンは今シーズン初めてレースリーダーとなりました。赤旗中団後の再スタートで、フェルスタッペンはまた1コーナーで無理をする必要はないと考えていました。

なので10周目にスタンディングによる再スタートとなりますが、最初のスタートのような混乱は避けられました。しかしフェルスタッペンは再スタート前のウォームアップでハミルトンが極端にスピードを落として走ったことには疑問を呈しています。

これはルール上は問題はありませんでした。しかし先頭が速度を落としたことにより、ターン6の立ち上がりで全体のペースが落ち、数台のバックマーカーが一時的に停止します。そして後方から走ってきたケビン・マグヌッセンは止まりきれずに、衝突を避けるためにアルボンのマシンが取り除かれたばかりのグラベルを通過して大破を免れることになりました。今この時点では、FIAはこの件について納得のいく説明をしていません。

今シーズン初勝利の夢は潰えたが、ハミルトンが2位で初表彰台のメルセデス

その後、12周目にDRSが動作可能になった時のフェルスタッペンとハミルトンとの差は0.5秒。フェルスタッペンがターン8とターン9の間の長いストレートでDRSを作動させると、その差は一瞬で消え去り、メルセデスのチームボスであるトト・ウルフは「まさに気の遠くなるような」スピード差で、アウトからハミルトンを悠々とかわしていきました。それはまるで別クラスのマシンのようでした。

そのラップの終わりにはフェルスタッペンはハミルトンに2.1秒のリードを築いていました。ラッセルは後方からのリカバリーを試みていましたが、突然のエンジントラブルでマシンを止めざるを得ませんでした。VSCが指示された18周目にはハミルトンとフェルスタッペンの差は3.4秒まで広げられました。ラッセルの問題はシリンダーに関係するトラブルで、ラッセルはストレートを惰性で走り抜けピットレーン出口でマシンを止めました。

ラッセルのメルセデスが移動された後、フェルスタッペンのリードが11.1秒に達するまで30周近くが必要でした。。1周平均0.3秒で離したフェルスタッペンのペースは、予選後にハミルトンが話をした、レースではレッドブルがメルセデスより有利だという予測の正しさを証明しました。

「ハミルトンを抜いた時点から、レースをコントロールすることが重要だった」とホーナーは総括します。

しかし、フェルスタッペンがトップで逃げ切った一方で、アロンソがハミルトンを追いかけるなど、残りの表彰台争いに決着はついていませんでした。そして、現代のF1ではよくあることですが、すべてはタイヤ戦略にかかっていました。

気温が低い中、ピレリが長持ちすることから、ミディアムからハードのワンストップ作戦が最適と考えられていました。唯一の懸念点はタイヤが冷えてグリップしないときにプッシュするとグレイニングがでることでした。なにもなければ最も早いタイヤ交換時期は14周目辺りが予測されていましたが、予想外に8周目の赤旗中断でタイヤ交換を余儀なくされ、また練習走行で10周以上連続して周回したドライバーがほとんどおらず、レース走行データが不足していることも判断を難しくしていました。

フェルスタッペンがハードで50周近く走ることを要求されていることを知っていたホーナーは、「1ストップレースで、しかもかなり早い段階での1ストップレースだった」と語りました。

フェルスタッペンが懸念していたのは、時折発生するフロントタイヤのロックのことでした。またレッドブルは週末を通じてブレーキに問題を抱えていました。このため、フェルスタッペンは「小さなロックアップ」の後、「タイヤに完全なフラットスポットを作りたくなかった」ため、最後10周に差し掛かる最終コーナーの手前でコースオフしました。その結果、ハミルトンに3.3秒詰められましたが、フェルスタッペンはすでに大きくリードしていたため、ポジションを脅かされることはありませんでした。

しかし、ライバルたちにとっては、その長い第2スティントでハードタイヤで走り切るのは簡単ではありませんでした。レースが進むにつれてペースは徐々に上がり、最後までタイヤで走りきれそうなレース最終盤、ハミルトンはフェルスタッペンとファステストラップを競い合いながら、アストンマーチンの脅威から逃れようとします。

再々スタートでタイヤが冷えてグリップしない後続では接触が多発して、赤旗乱発の混乱したフィニッシュとなりました

「タイヤが大丈夫かと思ったら、フェルナンドがプレッシャーをかけてきたり、差が広がったりし、僕がペースが上げたり、またギャップが縮まったりした」

「彼が2、3回チャージしてきたので、私もそれに負けないような走りをしなければならなかったが、それは大変だった。コンマ1秒くらいの差で、ときには速く走れたし、ときには遅かった。でも、残り18周の時点で、”ああ、このタイヤはもうダメかもしれない “と思っていたよ」

しかし彼らはそのタイヤで走りきりました。ハミルトンもアロンソも、47周を走り終えた時点で「タイヤは予想以上に良かった」「このまま走り続けられる」と感じていました。しかし、54周目に起こった出来事のせいで、第2スティントは突然短くなりました。

フェルスタッペンがターン13での失態でハミルトンとの差を8.4秒に戻した後、マグヌッセンは長いターン2の立ち上がりでアウト側に流れ、右リアがウォールに接触してしまいました。このとき「リムが割れてタイヤが外れるほどだった」とマグヌッセンは言いました。しかし、3コーナーへの進入でホイールが壊れて、路面に破片が飛び散りました。再び赤旗が提示され、2周のスプリントレースとなりました。しかし、この判断に納得がいく人は、ほとんどいませんでした。

「2回目の赤旗は必要なかったと思う」とフェルスタッペンは振り返った。
「最悪、VSCかセーフティカーで対応できたと思う」

しかし、それは叶わず、F1は2020年のムジェロ、その1年後のジェッダと同様に、3度目のスタンディングスタートを迎えました。57周目、全車が(ほどんが中古の)ソフトに履き替えた状態でのスタートとなりました。

まずレース後に議論を巻き起こした、フェルスタッペンがグリッドボックスの前方のライン上にマシンを止めました。レッドブルが要求する5回のバーンアウト(最初のスタートでは4回しか行わなかった)を終えた後に「少しブレーキが遅れた」ため、グリッドボックスからフロントノーズがはみ出したことが、ちょっとした話題となりました。ホイールがグリッドラインの「前端を超えていない」状態だったため、ペナルティは免れました。

スタートライトが消えると、フェルスタッペンは「スタートは最初のより少し良かった」と感じ、ハミルトンの前に出て、すぐに右に移動してインサイドラインを走り、ハミルトンからの脅威を防ぎました。

しかしながら後方では低いタイヤ温度が大きな問題になっていました。ハミルトンの後方でサインツがアロンソをプッシュし、その一瞬後にピエール・ガスリーとローガン・サージェントがロックアップして2つの大きなクラッシュを引き起こし、彼ら2人とエステバン・オコン、ニュック・デ・フリースが脱落したのは、タイヤ温度の低下が大きな要因でした。

このとき、ガスリーはターン2からの立ち上がりでアルピーヌのチームメイトと衝突し、右側にいたオコンをマグヌッセンが接触した付近のウォールに接触させました。

ピレリのタイヤ交換タイミングリスト

デ・ブリースはサージャントに追突され、ウィリアムズとアルファータウリの両ドライバーは、オープニングコーナーの後ろのグラベルで残骸を乗り越えなければなりませんでした。その際、アロンソをスピンさせた後に先行したサインツをかわそうとしたストロールがターン3の砂利に飛び込みますが、またしても赤旗が提示されました。

マシンの隊列がピットに戻ってきて、フェルスタッペンがタイミングラインを通過しマシンを停車させました。この時点で最終ラップがカウントされていて、再スタート時にフォーメーションラップをすると、その次のラップはない、つまりフォーメーションラップを走ってレースは終わりになります。問題はどの順位でフォーメーションラップを走るかです。

メルボルン アルバート・パーク・サーキットコース図

35分のディレイは、レースコントロールがセーフティカーによる再スタートの順番を決めるために必要な時間となりました。赤旗が出された場合、前のラップの順位に戻すのが基本になります。

3回目のスタートでヒュルケンベルグが4位に浮上したハース陣営は赤旗が出た時点での順位を主張しましたが、最終的に(最後の)再スタートのグリッドからフィニッシュできなかったマシンを除いて順位をリセットすることが決定されました。この結果、アロンソが3位に戻り、サインツ(接触によるペナルティで12位まで降格)とストロールを従えてゴールしました。

FIAは再スタート時のグリッドが最も信頼性の高いオーダーを提供すると考え、ハースの主張は認められるべきではないと考えていました。理由は将来的にレース終盤の再スタートでドライバーがターン1に無理やり飛び込み、クラッシュを誘発し、その後のオーダーリセットで得をするという前例を作りたくないと考えたからです。

ホーナーは、「昨年のイギリスGPで1周目に赤旗が提示され、同じプロセスで順位がリセットされた」ことに言及し「レースが再開されないことは明らかだった」と述べました。

今年のレッドブルは、スタートとブレーキングとダウンシフトを除けば、すべてが決まっているように見えます。しかし、フェルスタッペンは、12年ぶりにオーストラリアで優勝したことで、レッドブルの優位性を脅かす問題を解決することができることを証明しました。現時点で彼を止めるためには、マシントラブルを祈るしかないようです。

オーストラリアGP 最終結果
ドライバーズチャンピオンシップ ランキング
コンストラクターチャンピオンシップ ランキング