Formula Passion : F1 コラム&ニュース

バクー市街地コースの戦略と技術: 高速とテクニカルの狭間:アゼルバイジャンGPレビュー

バクー市街地コースの複雑さとスパとの相似: 技術的挑戦と戦略の狭間

バクー市街地コースは、F1カレンダーにおいてユニークな存在として知られており、そのレイアウトにはスパ・フランコルシャンに共通する特徴が見られます。バクーは、市街地の狭い道を駆け抜けるコースでありながら、約2.2kmもの長大なストレートが存在するため、非常に高速かつテクニカルなレイアウトを兼ね備えています。

このコース全体の約3分の2が高ダウンフォースを必要とするセクションで構成されている一方で、ストレート区間ではダウンフォースを削減しなければトップスピードを出すことができません。これはまさにスパ・フランコルシャンと同様の課題であり、チームにとってはバランスの取れたセットアップを模索する難題が突き付けられています。

高速区間とダウンフォースのジレンマ

バクーのラップの76%は全開で走行する区間で占められており、エンジンパワーとエアロダイナミクスが非常に重要な役割を果たします。しかし、バクーの特徴は単なる「スピードコース」ではなく、テクニカルセクションが全体の大半を占めることです。

このため、エンジニアやドライバーはマシンに高ダウンフォースを要求しながらも、長いストレートでのトップスピードを維持するために、ダウンフォースを妥協しなければならない状況に陥ります。これにより、セットアップの選択が極めて重要になり、どのチームがこのバランスをうまく見つけられるかが勝敗を左右する大きな要素となるのです。

また、2.2kmにも及ぶストレートでは、他車とのDRSの駆使が鍵となりますが、逆にコーナリング区間でのダウンフォース不足は、コントロールの難しさをもたらすため、特にレース序盤のマシンが重い状態でのクラッシュの危険性が高まります。

バクーでは、ハイダウンフォース設定を選んだチームがテクニカルセクションで優位に立ち、ストレートでのスピードを犠牲にするか、逆にローダウンフォースで直線速度を追求しつつ、コーナリングでの安定性を犠牲にするかという、極端な選択肢を迫られるのです。

ブレーキングの極限: ドライバーとマシンへの挑戦

バクーの市街地コースでは、もう一つの重要な要素がブレーキングです。このコースの特性として、非常に強い減速が求められるポイントが複数存在し、3つのブレーキングゾーンでは5G以上、さらに5つのゾーンで4Gを超える減速力が必要です。

これはドライバーに対して物理的な負担を強いるだけでなく、マシンのブレーキにも大きなプレッシャーを与えます。ブレンボはバクーを「F1カレンダー上で最も過酷なブレーキングサーキットの一つ」と評価しており、ブレーキシステムの信頼性と冷却性能が極めて重要になります。

特にレース中盤以降、ブレーキのオーバーヒートやパフォーマンスの低下が大きなリスクとなり、ドライバーがその制限を超えてプッシュしすぎるとクラッシュのリスクが高まります。このため、各チームはブレーキの冷却に注力しつつ、最大限のパフォーマンスを引き出すセットアップを施します。冷却のための大きなエアダクトは、空力性能の悪化を招くため、ここでもチームは難しい選択を迫られます。過去のバクーでは、ブレーキトラブルがレース展開を大きく左右したこともあり、2024年シーズンでもこの点は各チームのエンジニアにとって最重要課題の一つとなるでしょう。

タイヤ戦略: 温度管理とグレイニングのリスク

バクーでのもう一つの大きな課題は、フロントタイヤの温度管理です。このコースは、摩耗性が低い路面と長いストレートが組み合わさっており、タイヤを適切な温度と圧力範囲に保つことが非常に難しいです。特にフロントタイヤに関しては、適正温度に達するのに時間がかかり、結果としてグレイニングが発生しやすくなります。グレイニングはタイヤのパフォーマンスを低下させ、早めのタイヤ交換をするリスクを増大させるため、チームはタイヤの温度管理に対して高度な戦略を練る必要があります。

これまでのバクーでは、タイヤのデグラデーションはそれほど高くないため、一般的に1ストップ戦略が採用されていますが、タイヤの温度管理を怠るとその限りではありません。特に2024年シーズンにおいては、ピレリが提供するタイヤコンパウンドがどのような影響をもたらすかが注目されています。各チームは、フロントタイヤの温度管理に失敗しないためにも、予選からレースにかけての路面温度の変化を細かく観察し、最適なセットアップを見極める必要があるでしょう。

オーバーテイクの難しさとレースの見どころ

バクーの市街地コースは、狭い路地や壁に囲まれており、旧市街地セクションではオーバーテイクが容易ではないことで知られています。実際、大きなオーバーテイクポイントはストレート部分の2〜3箇所しか存在せず、それ以外で後続車が前車に接近するのは非常に困難です。特に、壁や建物が近く乱気流が長く留まるため、後続車がタイヤを痛めずに接近することが難しくなります。このため、追い抜きの難しさがレース展開をコントロールする重要な要素となるでしょう。

戦略の焦点: セーフティカーとピットストップ

それでも、バクーにはエキサイティングなレースを演出する要素が数多く存在しています。市街地コース特有のリスクの高さや、予期せぬアクシデントがレース展開を大きく左右することが多く、ファンにとっては予測不可能なドラマを楽しむ絶好の舞台となります。

バクーでは、セーフティカーの登場が頻繁であり、その確率は約60%に達します。このため、各チームはセーフティカーによるレースの中断やリスタートを見越した戦略を構築しなければなりません。1ストップ戦略が一般的ではあるものの、セーフティカーの登場タイミング次第では、追加のピットストップを選択する可能性もあります。特に終盤にセーフティカーが入ると、タイヤ戦略や順位争いが一気に過激化し、波乱の展開を生まれ、ドライバーやチームにとっては集中力が試される場面となります。