フェラーリ、イタリアグランプリでの輝かしい勝利
2024年のイタリアグランプリは、フェラーリとシャルル・ルクレールにとって、記憶に残る勝利となりました。彼らは、モンツァの伝統的なコースで行われたレースにおいて、巧妙な戦略と冷静な判断で、見事なワンストップ戦略を成功させました。週末最速だったマクラーレンが、タイヤを酷使した結果、勝利が有望だったレースで敗北を喫しました。
レース序盤の展開
レーススタート時、マクラーレンのランド・ノリスとオスカー・ピアストリは、練習走行で見せた勢いそのままにレースをリードしていました。特に、ノリスはポールポジションから順調にスタートし、ピアストリと共にフェラーリを含む他チームを引き離し、1-2体制を築いていました。
しかし、1周目のデッラ・ロッジアシケインでのオーバーテイクがレースの行方を大きく変えることになります。ピアストリがアウト側から飛び込み、二台は軽く接触し、ピアストリがトップに浮上。ノリスはカウンターステアをあてながらも、スピンを回避しました。「もしブレーキが1メートル遅かったら、たぶんクラッシュしていた」と彼は後に語っています。
この攻防で勢いを失ったノリスは、立ち上がりでルクレールにもパスされ、まさかの3位に後退し、マクラーレンはその支配力を失っていきました。
さらに、タイヤのグレイニングが、マクラーレンのレース戦略に大きな影響を与えました。新たに舗装されたモンツァのコースは、予想以上にタイヤに厳しい環境を提供し、第一スティントでミディアムタイヤを選んだドライバーは苦戦することになります。
その原因は、このサーキット全体に行われた再舗装工事にありました。2024年のモンツァでのグレイニングが、アンダーカットの効果を大幅に高めたことは、ドライバーを驚かせました。しかし、これは結果的にフェラーリに有利に働くこととなりました。
「モンツァは非常に異なるものになり、今では路面が非常にスムーズなので、よりハードなセッティングが可能で、車体を地面に近づけて走行できる」とマクラーレンチームのボスであるアンドレア・ステラは予選後に語りました。
コース全体にわたる新しい漆黒のアスファルトは、モンツァの夏の日差しの中で熱せられていました。レースが始まった時のトラック温度は52℃で、週末で最も高く、タイヤを痛めつけました。
金曜日に各チームは、レースシミュレーションが行われた夕方のセッションで、60日前に敷設されたアスファルトとその熱がピレリタイヤにどのような影響を与えるかを理解しようと努めていました。その結果、ミディアムタイヤでは激しいグレイニングが発生し、これは後にレースの結果に決定的な影響を与えることになります。
ソフトタイヤが予選専用となるのは明らかだったため、上位のドライバーは全員がミディアムタイヤでスタートしました。
レース序盤、チームは「まだグレイニングが残っている」と、モータースポーツ責任者のマリオ・イゾラからのフィードバックを受けていました。「金曜日に比べて少し減っているかもしれないが、ミディアムとハードタイヤ両方にグレイニングが見られる」と彼は続けました。
この時点で、トップ集団のドライバーたちはグレイニングに対処しようと奮闘していて、ノリスはルクレールの背後にぴったりと付いていました。そして13周目にDRS圏内にギャップを縮めたところで、マクラーレンが動きました。14周目にノリスのタイヤ交換を実行し、アンダーカットを狙います。
マクラーレンはノリスを素早く送り出し、鮮やかなアウトラップでのスピードにより、ルクレールが次の周でピットインした際に楽に先行することができました。
マクラーレンチームのステラは「ルクレールはピアストリに追随できていたので、マクラーレンと同じくらい速かったと思います。通常、ダーティエアの中でリーダーを追いかけている場合、これがさらなるデグラデーションにつながるものです。それがルクレールが第1スティントの最後に遅れた原因でしょう」と述べました。
急激な路面変化が状況を激変させた
一方、フェラーリはタイヤ戦略での勝利を目指し、ルクレールがミディアムタイヤでの第1スティントを終えた後、ハードタイヤに履き替えました。この時、ルクレールがアンダーカットされリードを失うことに怒りを露わにしましたが、最終的にはこれが幸運な結果をもたらしました。
表面的にはあまり変化がないようにみえましたが、状況はすでに変わり始めていました。ピアストリはその後もノリスをリードし続けましたが、ノリスが再びリードを取り戻すか、チームがどう対応するかを問いただした際、ステラは「レースは自由だが、クリーンであるべきだ」と指示しました。
ルクレールは「レース前にはワンストップを確実にやりたいと思っていました。しかし、第1スティントで10周走った後、レッドブルがハードタイヤで左フロントに苦しみ始めたのを見て、ワンストップを疑い始めました。それでも、ハードタイヤに履き替えた時にまだ可能性があると信じていました」と語りました。
マクラーレンが二度目のピットインした後、ルクレールは「フリーエアを得たことで、フロントのグリップがかなり回復しました」と述べています。
ここで助けとなったのは、イゾラが説明するようにレース中盤以降、グレイニングの問題が「非常に、非常に少なく」なっていたことでした。路面が改善したことにより、レース後半のタイヤに対する問題が軽減しました。
さらに、雲が覆い始めたことも助けとなりました。サーキットの近くで雷雨が観測され、サーキットは雨が降られることはありませんでしたが、レース中にトラック温度は12℃も下がりました。
ピアストリは再びノリスから逃げていました。第二スティント序盤、ハードにプッシュしたことにより、ノリスは左フロントのグレイニングを抑えられず、タイヤが摩耗し、ラップごとにグリップを失っていました。これが彼が30周目にデッラ・ロッジアのランオフを通過した理由でしょう。さらにダーティエアの中でのスライドが追加され、このスティントで早すぎるタイヤの摩耗を引き起こしました。
ルクレールが再びDRS圏内に戻ってくると、マクラーレンはノリスを32周目に新しいハードタイヤのセットに交換し、2ストップ戦略を採用しました。ルクレールは「ピアストリがピットインする直前の2、3周で少しずつ追いついていた」と感じました。実際、38周目にピアストリも2度目のハードタイヤに履き替えた際、リードは5.6秒に縮まっていました。
この時点でも、マクラーレンの勝利は確実に思われましたが、ルクレールのレースも正しい軌道に乗りつつありました。
ルクレールはピアストリを追いながら、「近づくのが難しかった。主に左フロントのアンダーステアが原因でかなりひどかった」と感じていました。しかし、二台のマクラーレンが二度目のピットインした後、「フリーエアを得たことで、フロントのグリップがかなり回復した」と述べています。
41周目の時点で、ルクレールのリードはピアストリに対して15.6秒あり、ここからピアストリは追撃を開始しました。彼は6周でサインツとの8秒のギャップを縮め、45周目のアスカリシケインでDRSを使って追い抜きました。ノリスもその3周後にメインストレートでサインツを簡単に抜き去りました。
この時点で残り6周となり、ルクレールはまだ9.1秒のリードを維持していました。ピアストリはルクレールより速いタイムを出していましたが、それでもチームから指示されたラップタイムを達成できませんでした。
一方、ルクレールは33周連続で1分23秒台を維持し、「本当に集中して」左フロントのグレイニングを管理し続けました。ピアストリのペースは全体的に1分22秒台でしたが、最終的にチェッカー時には2.7秒の差がありました。
フェラーリの戦略と勝利への道
この日のモンツァでは、特に新しいアスファルトがタイヤのグリップに大きな影響を与え、フェラーリにとってはタイヤ戦略が鍵となりました。ルクレールは、この新しい舗装がもたらす影響を最大限に利用し、グレイニングを最小限に抑えながら、ピアストリとの競り合いで優位に立ちました。
さらに、天候の変化もフェラーリにとって有利に働きました。レース中盤に雲が覆い、路面温度が下がることで、フェラーリのハードタイヤのグリップが向上し、ルクレールは冷静にそのアドバンテージを活かすことができました。
また、ルクレールの冷静なドライビングも勝利の要因となりました。彼は、FP2での経験を活かし、ミディアムタイヤをライバルよりも速く走らせ、ペースダウンを最小限に抑えることができました。特に、ハードタイヤに履き替えた直後の数周は、ノリスよりも慎重に走り、タイヤの寿命を延ばす戦略を取ることで、レース終盤に向けての優位性を確保しました。
フェラーリチームのボス、フレッド・バスールにとって、ルクレールは「我々が当初考えていた戦略を完璧に実行した」と評価しました。
「マクラーレンは第1スティントで予想以上にプッシュしていた」と彼は付け加えました。「その後、ノリスが我々の前で苦しみ、彼はピットインせざるを得なくなりました。我々はタイヤにアドバンテージがあると感じていました」
「そのアドバンテージは非常に大きく、ハードタイヤで10周走った後、我々は最後まで行けることがはっきりと分かりました。しかし、レースの終盤にはタイヤのグリップが急激に失われるリスクもありました…」
それが起こらなかったのはルクレールのおかげです。彼はFP2での経験から学び、ミディアムタイヤをライバルよりも速く走らせ、ペースダウンを最小限に抑えることができました。
レースでは、ノリスにアンダーカットされたことで、ルクレールはハードタイヤの最初の数周を「無理をしないように」走ったとバスールは語ります。ルクレールの最初の2周はノリスより1.5秒と0.8秒遅く、特にレズモとパラボリカでは非常に慎重に走る必要がありました。バスールは「これがレース終盤に報われた理由でもある」と述べています。
マクラーレンの誤算と敗北
一方で、マクラーレンにとっては、いくつかの要因が重なり、敗北へとつながりました。ピアストリは、FP2のロングランで見せたグレイニングの影響を考慮し、ワンストップ戦略に対して慎重な姿勢を取っていましたが、結果として2ストップ戦略を選択したことが仇となりました。
レース中盤、チームは二台に対して自由にレースをする許可を出し、ノリスとピアストリは第二スティント序盤にファステストラップを出し合いタイヤを酷使しました。これがマクラーレンがレースの主導権を握る中で、特にノリスが第2スティントでタイヤの劣化に苦しみ、タイムを失ったことが、マクラーレンにとって致命的でした。
さらに、レッドブルのマックス・フェルスタッペンがレース中盤でノリスとのバトルを展開した際、ノリスはさらにタイヤを酷使し、グリップを失っていきました。この状況で、マクラーレンはノリスに新しいハードタイヤを装着し、2ストップ戦略を採用しましたが、これが最終的にフェラーリにリードを奪われる結果となりました。
また、マクラーレン内部でも、レース前にグレイニングが再び発生することを恐れていたことが、2ストップ戦略の選択につながりました。ピアストリは、ワンストップ戦略が非常にリスクの高いものであると感じており、結果的にはその慎重さが敗因となったのです。マクラーレンのステラも、チームのフロントグレイニングに対する懸念が、戦略の選択に影響を与えたことを認めています。
もしマクラーレンが1-2の状態を維持するために厳格な指示を出していたら、レースはどうなっていたかはわかりません。その場合、フェラーリにとって戦略がより複雑になり、積極的な2ストップ戦略を採らざるを得なかった可能性があります。
「紙の上ではワンストップが速いと分かっていた」とノリスは言います。ピアストリはFP2のロングランで「グレイニングが発生した際、左フロントタイヤが変形し、ブレーキを踏むことができなくなった」と説明しました。
レース前、マクラーレン内部では、グレイニングが再びロックアップやコースアウトを引き起こし、レースを台無しにすることを恐れていました。ピアストリは「ワンストップは非常にリスクが高いように思えた」と述べています。
ステラもまた、「MCL38は伝統的にリアタイヤに強いが、フロントのグレイニングに対しては攻撃的な傾向がある」と明らかにしました。「だから、少し神経質になった」と彼は付け加えました。
フェラーリに比べて若干大きめのリアウィングを装備したことも不利に働きました。マクラーレンは、モンツァの数少ない高速コーナーでの速度と負荷が高く、左フロントにストレスを与え、グレイニングを悪化させました。最後に、ステラは「タイヤにもっと何かがあるかもしれないと予想していた」と結論づけました。
「もちろん、練習走行で誰もハードタイヤを使わなかったため、タイヤに対する疑念を抱いてレースに臨んだのは自然なことです」と彼は続けました。「ルクレールのように3位にいると『ワンストップを試してみよう』と言うのは簡単ですが、レースをリードしていると、うまくいかなかった場合、レースは悲惨な結果になるでしょう」
ルクレールとフェラーリの勝利の意味
そして今回はフェラーリが勝利を収めました。マクラーレンは1周目のレッティフィロシケインを抜けた時点で、1-2を維持していたにも関わらず、なぜ支配的なポジションを失ったのか理解に苦しんでいました。この段階では、最終的な勝者であるシャルル・ルクレールでさえ、フェラーリのモンツァでの2度目の勝利が可能だとは思っていなかったのです。
「レースに向かう際には、こんな結果になるとは思っていなかった」とルクレールは後に語っています。「僕たちはマクラーレンやメルセデスと比べて、もっと苦戦するだろうと思っていました…」
今回のレースでの勝利は、フェラーリとルクレールにとって大きな意味を持ちます。特に、フェラーリの地元モンツァでの勝利は、チームとファンにとって特別な感情を呼び起こすものであり、2019年の勝利に続く喜びの瞬間となりました。ルクレールも、レース終盤にスタンドのファンが全員立ち上がって応援している姿を目にし、感動を覚えたと語っています。
フェラーリにとって、今回の勝利は戦略の選択が如何に重要であるかを改めて示すものであり、また、フェラーリが依然としてトップチームとしての競争力を持つことを証明するものでもあります。特に、ルクレールの冷静さとドライビングスキル、そしてチーム全体の戦略的判断が、今回の勝利を支えたと言えるでしょう。
モンツァでのフェラーリの勝利は、チームとファンにとって大きな励みとなり、今後のレースに向けての士気を高めることでしょう。この勝利が、フェラーリとルクレールにとってどのような未来をもたらすのか、非常に興味深いところです。
最後に勝利したルクレールの言葉で締めくくりましょう。
「2019年と同じように、最後の3、4、5周は、トラックに集中するのが難しく、スタンドを少し見ていました」
「観客が全員立ち上がっているのを見て、本当に感動しました」
「フェラーリで再びモンツァで勝つことは非常に特別な感情です」