バクーでの勝負を前に—アゼルバイジャンGP タイヤ戦略
シャルル・ルクレールはアゼルバイジャングランプリの予選で圧倒的な速さを見せ、ポールポジションを手にしました。これでバクー市街地コースでのポールポジション獲得は4回目。しかし、この特異なサーキットでは、ポールから勝利へと結びつけることがこれまで叶わず、その戦いは常に険しい道のりとなっています。今回、フェラーリのエースとして彼がどのようにこの「勝利なきポール」の流れを断ち切るかが、今大会の大きな焦点となっています。
勝利のために必要な要素
バクーは一筋縄ではいかないサーキットです。市街地コースでありながらも、非常に長いストレートとテクニカルなコーナーが織り交ざり、ドライバーとチームの双方に高い戦略性と技術力を求めます。ルクレールが勝利を手にするためには、まず速さと一貫性のあるクリーンなドライビングが必須となります。さらに、レース中の戦略決定がカギを握るでしょう。昨年のレースではピットインのタイミングが勝敗を大きく左右しましたが、今年もその重要性が変わることはないでしょう。
ピレリのチーフエンジニア、シモーネ・ベッラはこう語ります。「ここではハードタイヤが最も優れたコンパウンドであることがわかっています。非常に長いスティントでもオーバーヒートやデグラデーションに対して耐性があり、ミディアムやソフトタイヤよりも安定したパフォーマンスを発揮します」。彼の言葉通り、タイヤの選択とその管理は、レース中に何度も訪れる決定的な局面で重要な役割を果たすことになります。
昨年のアゼルバイジャングランプリで起こったこと
2023年のアゼルバイジャングランプリでは、トップ3のセルジオ・ペレス、マックス・フェルスタッペン、そしてシャルル・ルクレールがミディアムからハードへと移行する1ストップ戦略を採用しました。ピットストップは早い段階から行われ、5周目にはすでに車が次々とピットイン。10周目にはフィールドの半数がタイヤ交換を済ませていました。さらに、ニック・デ・フリースのアクシデントによりセーフティカーが導入され、レースは新たな局面を迎えます。
セーフティカー中にピットインしたペレスや他のドライバーたちは、ここで有利なピットストップを果たし、再スタート後の展開を有利に進めました。その後は37周もの長いハードタイヤでのスプリントレースが展開され、最終的にはペレスが優勝を手にしました。
しかし、バクー特有の混乱はこれだけに留まりません。昨年のレースでは、グリッド最後尾からスタートしたエステバン・オコンとニコ・ヒュルケンベルグが、ハードタイヤを長く使い続けるという大胆な戦略を取りました。彼らは後方から順位を上げることに成功しましたが、レース終盤にもう一度セーフティカーが出ることを期待していたものの、それは叶わず、結局2回目のピットインで順位を落とし、ポイント圏外でフィニッシュしました。
今年の戦略—1ストップが主流か?
今年も、昨年同様にミディアムからハードへ移行する1ストップ戦略が最も有力視されています。ピットインのタイミングは14周目から24周目の間が最適と予想されていますが、これによりアンダーカットを狙うドライバーが増える可能性もあります。ミディアムタイヤのデグラデーションが比較的高いことから、早めのピットインで順位を上げる戦略が非常に効果的になるかもしれません。
一方で、ハードからミディアムへ逆に1ストップ戦略を取るドライバーもいるでしょう。この戦略はピットストップのタイミングを後半にずらすことで、レースの後半でトラックポジションを獲得することを狙ったものです。特に、セーフティカーや赤旗が発生しやすいストリートコースであるバクーでは、この柔軟性がレースの鍵を握る可能性があります。
後方グリッドのドライバーの可能性
また、後方グリッドからのスタートとなるランド・ノリスも注目すべき存在です。昨年メキシコグランプリで17番手スタートから5位まで浮上した彼は、今回のバクーでも大胆な戦略を試みる可能性があります。例えば、ソフトまたはミディアムでスタートし、早い段階でピットインしてクリアエアでのラップタイムを稼ぐ作戦は、彼の得意とするところです。ノリスが後方からどのようにレースを展開するか、またセーフティカーや赤旗のタイミングをどう活用するかが、彼の成績に直結するでしょう。
バクーのレース展開を左右する要素
アゼルバイジャングランプリのもう一つの特徴は、その不安定なレース展開です。バクーは「風の街」とも呼ばれるほど風が強く、レース中にその影響を受けることが少なくありません。今年は天候的には比較的穏やかで、風の影響も少ないと予想されていますが、それでも不確定要素が多い市街地コースでは、一瞬のミスが大きな結果に繋がることが多いです。
また、レース後半でタイヤの状態が大きくパフォーマンスに影響を与える可能性も高いです。リアタイヤのグレイニングやオーバーヒートが発生しやすい状況で、どのドライバーが冷静にマネジメントできるかが勝敗の分かれ目となるでしょう。
今回のアゼルバイジャングランプリでシャルル・ルクレールは、これまでの苦い経験を払拭し、ポールポジションから勝利を手にできるでしょうか。市街地コースならではの戦略的判断やレース中の状況変化に適応する能力が、彼とフェラーリチームの成功を左右します。
バクーはF1カレンダーの中でも特に波乱が多く、何が起こるか予測できないサーキットとして知られています。観客たちは、この街の狭く曲がりくねったコースで繰り広げられる戦いに注目し、ルクレールがその才能をどこまで発揮できるかに期待しています。レースが始まれば、すべてが決まり、バクーの壁がどのドライバーに微笑むのかが明らかになるでしょう。