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フェラーリのシンガポールGPへの挑戦:新フロントウイングの導入とその狙い

フェラーリは今週末のシンガポールGPに向けて、シーズン中に蓄積してきたデータを元にさらなる飛躍を目指し、新たなフロントウイングを投入しました。これまでバクーやモンツァなど、低ダウンフォースが要求されるサーキットで力を発揮してきたSF-24ですが、シンガポールのような高ダウンフォースのコースに合わせてアップデートが施されています。今回のレースは、フェラーリにとってバクーで逃した勝利を取り戻す絶好の機会となり、同時にチームがシーズン後半に向けて、さらなるステップアップを狙う重要な舞台でもあります。

シンガポールGPのコース特性とフェラーリの戦略

シンガポールGPが開催されるマリーナ・ベイ・サーキットは、低速コーナーが多く、マシンの回頭性やトラクション性能が求められる市街地コースです。さらに、夜間に行われるという特殊な条件下では、タイヤ管理が非常に重要となり、予選でのポジションが勝敗を左右する大きな要素となります。フェラーリはこの特性に合わせ、今までモンツァやアゼルバイジャンで採用してきた中・低ダウンフォースのウィング設定を見直し、今回のシンガポールGPに向けて高ダウンフォース仕様のセッティングに戻しました。

新フロントウイングの技術的進化

特に注目されるのが、当初オースティンGPでの導入が予定されていた新しいフロントウイングを、シンガポールGPで前倒しして投入した点です。

イタリアGPで導入された新しいフロアのおかげで、フェラーリはここ数戦で大幅に競争力を増しており、今週末の小規模な変更が、セットアップのオプションを増やしてバランスを最適化できることを期待しています。

このウイングは、従来型のフロントウイングから改良が加えられ、主にフレキシブルな現象への対応を図る技術が採用されています。フロントウイングのたわみは、F1では数年にわたって研究されてきた技術で、空力的な効率を高めるために微妙なたわみを制御することで、必要な場面でダウンフォースを最適化することが狙いです。

特に、今回のフロントウイングはメインプレーンにスプーン形状を取り入れており、空気の流れを効率的にノーズ下部からベンチュリ・チャンネルへ誘導することで、全体の空力性能が向上しています。フラップのデザインも変更され、中央部では強力なアップウォッシュ効果が生まれ、外側ではアウトウォッシュが強調されることで、フロントタイヤ周辺の乱流を制御し、車体全体のバランスを取ることが可能になります。この設計は、シーズン初期に導入されたコンセプトを再評価し、改良したものです。

アゼルバイジャンGP フェラーリのフロントウィング
シンガポールGP フェラーリのフロントウィング

エンドプレートとフラップの最適化

また、マクラーレンが今年のオーストリアGPで導入したフロントウイングのアイデアに影響を受け、フェラーリもエンドプレートとフラップの接合部分を見直しています。この変更により、車体周辺の空気の乱流が抑えられ、より安定したアウトウォッシュ効果が得られるようになっています。新しいフラップの先端は、従来よりも丸みを帯びた形状になり、フロントウイング全体の剛性が向上。これにより、バランスの改善だけでなく、ダイナミックな挙動の変化も期待されています。

特に、ジョック・クリアが語るように、この新しいフロントウイングの効果により、ダウンフォースが不足していたこれまでの高ダウンフォースサーキットでの問題を解決することが狙いです。通常、ストリートサーキットではフロントウイングのようなエアロのアップグレードを持ち込むことはありませんが、フェラーリのシニアパフォーマンスエンジニアであるジョック・クリアは、なぜチームがシンガポールで、このパーツを投入したのかを説明しています。

「シンガポールはエアロアップグレードを持ち込むには適していないサーキットです。ドラッグが大きく、ダウンフォースが高いコースなので、このサーキット用ではないんです。基本的には、エネルギーを少し内側に移動させただけです」と彼は語る。「よく見ると、内側の方が少し攻撃的で、外側はやや控えめになっています。その力のバランスを少し動かしたんです。これによって、さらに多くのダウンフォースを引き出せるようになりました」

「ここでは、おそらく最大のリアダウンフォースが必要になり、バランスを取りたくなるでしょう。バランスがすべてなんです。これまでは、高ダウンフォースのサーキットでフロントのダウンフォース不足に悩まされてきました。フェラーリのSF-24のフロントウイングは、より上の領域で少しパワフルで、効率がわずかに上がりましたが、基本的には少しパワフルになりました。それが私たちにとって、より広い範囲でのセットアップが可能になる要因です」

新しいフロアとのシナジー効果

シンガポールGPに向けて導入されたフロントウイングは、イタリアGPで採用された新しいフロアとの相乗効果も期待されています。この新しいフロアは、空力効率をさらに向上させるために、大幅に再設計されており、特にフロアフェンスの配置変更やアンダーフロアトンネルの拡張が行われました。これにより、ノーズ下を流れる空気がより効率的にディフューザーへと導かれ、車体全体のダウンフォースがバランス良く生成されるようになっています。

また、フロアエッジやエッジウイングのプロファイルも再調整されており、ディフューザーへの移行部分には新しいボートテイルセクションが追加されました。これらの変更により、空力的なプラットフォームがより安定し、シンガポールのような過酷な条件でも予測可能なハンドリングを実現することが可能となります。

今後の展望とシンガポールGPの重要性

フェラーリはシンガポールGPを通じて、新しいフロントウイングとフロアのアップグレードがどれだけ効果を発揮するかを見極める重要なレースとなります。シンガポールGPは、タイヤ管理と予選での優位性がカギとなるレースであり、フェラーリが再び表彰台に戻るためには、空力面での進化が不可欠です。特に、タイヤのデグラデーションを抑えるためのセットアップが成功すれば、フェラーリはレース全体を通じて安定したパフォーマンスを発揮できるでしょう。

ファンやライバルたちは、今回の新しい空力パッケージがどれだけの成果を上げるのか注目しており、フェラーリが再びタイトル争いに戻るための第一歩を踏み出すことができるか、今後のシーズンの展開にも大きな影響を与えることになりそうです。