ラスベガスGPの金曜日の予選は、まさに驚きに満ちた展開となった。週末前には、メルセデスがポールポジションを獲得し、アルピーヌが3番手に付けると予想すれば、熱でもあるのではないかと疑われただろう。しかし、この予選はチームやドライバーがマシンの特性を超えて、冷え込む路面と低グリップという過酷な条件でタイヤをどのように扱うかが鍵となった。
メルセデスはFP1からQ3まで、全セッションで最速のタイムを記録し、そのパフォーマンスで一歩抜け出していた。特に注目すべきは、彼らがウォームアップラップなしでも新品タイヤを即座に最大限活用でき、新品タイヤのグリップをラップ全体で活用することが可能だったことだ。
「このパフォーマンスには少し頭を悩ませている」と、メルセデスの速さについて語ったのはジョージ・ラッセルだ。メルセデスは、涼しいコンディションが有利に働くと予測していたが、ラスベガスのトラックレイアウト自体はマシンの特性に合わないと考えていた。それでも、遅いコーナーでの弱点は、タイヤグリップの優位性によって十分に打ち消される結果となった。
「僕たちがアンダーステアに苦しんでいるのは秘密でもなんでもない」とラッセル。「でも、ここでは滑りやすいからその問題はあまり目立たなくなる。そして第1セクターでは、マシンがレールの上を走っているかのように感じられた」。他車と比べてメルセデスは、タイヤの温度と新品ゴムのグリップで優位性を持っていた。
2番手にはフェラーリのカルロス・サインツが続き、わずか0.1秒差まで迫ったが、ラップの序盤、特にターン3-4や5-6においてメルセデスのタイヤグリップに対抗することは難しかった。「第1セクターで0.3秒も差をつけられている。彼らは僕たちよりもずっと早くタイヤを作動させられるんだ」とサインツは語り、メルセデスの速さに驚きを見せた。フェラーリは直線でのスピードには優れていたものの、メルセデスの持つグリップのアドバンテージを打ち消すには至らなかった。
フェラーリはウォームアップラップの後でさえ、フロントタイヤがやや温度不足だった。さらに、ブレーキと横方向の荷重を組み合わせたコーナーはフェラーリにとって特に苦手なポイントだ。ここラスベガスでは、ターン3-4と5-6だけがその弱点を露呈する場所だった。それ以外のラップは短く鋭いコーナーと多くのストレートで構成されており、フェラーリにとって理想的だった。予選でのサインツと4番手のシャルル・ルクレールの違いは、サインツがアウトラップでのタイヤのウォームアップをよりうまく処理したことだった。ルクレールはアウトラップでやや慎重すぎたが、サインツはその狭い最適点を見つけ出した。
低グリップで冷たい路面のトラックでは、タイヤの即効性が非常に重要だった。アルピーヌもそれが得意で、ピエール・ガスリーは完璧なラップで3番手を獲得した。ガスリーは「完璧なラップ」でその位置に到達したが、彼ですら第1セクターでのグリップを得るためにウォームアップラップが必要だった。フェラーリやレッドブル、マクラーレンも同様にタイヤを適切に温めるのに苦労し、これが予選結果に大きな影響を与えた。
特にレッドブルのマックス・フェルスタッペンにとって、ラスベガスの冷えた路面は手強い敵だった。彼は5番手という結果に甘んじたが、その背景にはタイヤの温度管理と同時に、リアウイングの仕様があった。フェルスタッペンは「モンツァタイプの特別なウイングを持っていないんだ」と語り、コストキャップの影響で特定のトラック用に設計されたパーツを用意できなかったことを明かした。そのため、彼らはストレートで大きくタイムを失っていて、空気抵抗を減らすために夜間にウイングフラップを削るなどの調整を行ったが、トップスピード不足は否めなかった。これにより、特にバックストレートやタイトなターンでのパフォーマンスに苦しみ、最終的にライバルたちにタイムを奪われる結果となった。
メルセデスの強さを裏付けるもう一つのエピソードとして、ラッセルのフロントウイング交換が挙げられる。ラッセルはQ3の最初のアタックでターン5の脱出時に壁に接触し、フロントウイングを破損してしまった。しかし、メルセデスのクルーは迅速に交換を終え、ラッセルは2回目のアタックに間に合った。このタイミングでなければ、トラックのラバーインよるグリップ向上を利用できず、最終的なポールポジション獲得は難しかったかもしれない。
一方、ルイス・ハミルトンにとっては予選は苦しい展開となった。Q3での2度のアタックでミスが重なり、10番手からのスタートとなった。最初のアタックではターン12でブレーキングをミスし、イン側のフロントタイヤがロックしてしまったことでタイムを失い、2回目のアタックでもターン4でプッシュしすぎてオーバーステアが発生、トラックリミットを超えてしまった。これにより、ハミルトンはポール争いから脱落した。
「今日はクルマの調子が良く、Q2では最速タイムを出していたが、Q3では2回のラップで失敗し、10位に終わった。コンディションはまだ良かったのに結果を出せず、本当に悔しい。今日は間違いなくポール争いができる速さがあった」とハミルトンは自身の予選を悔しがった。
マクラーレンもまた、この予選で苦戦を強いられた。ランド・ノリスとオスカー・ピアストリはそれぞれ6番手と8番手に終わったが、彼らはトラックのコンディションの変化に適応するのに苦労していた。ノリスは「コーナーごとに異なる問題に苦しんでいて、一貫性を持たせるのは不可能だった」と語り、チーム代表のアンドレア・ステラも、「このトラックのコンディションは、低温、非常に低いグリップ、さらには長いストレートに必要なドラッグレベルなど、独特の挑戦を我々に突きつけてきた。我々はこれに最も上手く対応できたチームではなかったし、予選全体を通して完璧なラップをまとめられなかった。この原因はドライバーではなく、クルマの挙動にある」とチーム全体の失敗を認めた。連続走行が可能であればマシンのパフォーマンスを取り戻せるとの見解も示しており、レースでの巻き返しに期待がかかる。
このように、ラスベガスGPの予選はタイヤの温度管理が鍵を握る展開となり、メルセデスがその能力を最大限に発揮してポールを獲得した。一方で、フェラーリやレッドブル、マクラーレンといった強豪チームはそれぞれの課題に直面しながらも、決勝での挽回に向けて準備を進めている。特にフェラーリのカルロス・サインツは、メルセデスのタイヤの速い動作温度へのアドバンテージを認めながらも、燃料を多く搭載した状態でのレースペースに自信を持っており、決勝での巻き返しを期待している。
ラスベガスの冷たい夜空の下で行われたこの予選は、F1におけるタイヤの温度管理とその重要性を改めて浮き彫りにする結果となった。各チームが直面した困難と、それに対する対応が、決勝でどのようなドラマを生むのか。決勝レースが待ち遠しいところだ。