Formula Passion

ラスベガスGP:タイヤ戦略の鍵を握る要素とは?

F1ラスベガスGPが、今シーズンの戦略戦争に新たなページを加えようとしている。個性的な市街地コースであるラスベガスサーキットでは、オーバーテイクの機会が多く、レース中の中断の可能性も高いため、グリッドポジションが決定的な要素にはならない。しかし、それだけに各チームのタイヤ戦略が、勝敗を分ける重要なファクターとなる。

ジョージ・ラッセルがポールポジションを獲得し、ガスリーが3位、フェルスタッペンとノリスが3列目を共有するという興味深いグリッドが形成されたが、この配置もまたタイヤ戦略次第で大きく変わる可能性がある。では、今年のラスベガスGPで有効とされるタイヤ戦略について掘り下げてみよう。

ミディアム > ハードの1ストップが基本戦略

ピレリの提供するタイヤは、レース用に全ドライバーがハードタイヤを2セット確保しているが、それが必ずしも2ストップ戦略を意味するわけではない。実際、練習走行でのデータを基にすると、ミディアムコンパウンドでスタートし、その後ハードタイヤに交換する1ストップ戦略が最速とされている。

この戦略においては、最適なピットウィンドウが14周目から20周目と見込まれている。タイヤを丁寧に扱えるドライバーにとっては、スティントをできる限り延ばすことで後半有利になる可能性がある。しかし、ラスベガスの市街地コースでは、新しいタイヤでの全開アタックが推奨されない。ピレリのチーフエンジニア、シモーネ・ベラも「序盤でタイヤを無理に使うと、グレイニングが深刻化する可能性が高い」と述べており、アンダーカットによるポジション争いは不利になる可能性が高いという。むしろ、オーバーカットで他車の動きを待つことが戦略的に有利な場合が多い。

セーフティカーの影響と2ストップ戦略の可能性

ラスベガスGPでは、昨年のレースからも中断の可能性が十分に考えられる。セーフティカーや赤旗中断が発生した場合、新しいタイヤセットの存在が重要な役割を果たすことになる。全チームが2セット目のハードタイヤを確保していることは、特に中断が発生した際にタイヤ温度を保つための重要な選択肢となる。

2ストップ戦略は通常1ストップよりも遅いとされるが、特にタイヤのグレイニングに苦しむ状況では有効な選択肢となる。昨年のモンツァGPでは、データ上は1ストップが有利とされていたものの、実際には2ストップが最終的に優位だったケースがあった。同様のことがラスベガスでも起こり得る。2ストップ戦略を選択する場合、基本的にはミディアム > ハード > ハードという順序が推奨されているが、この判断はレース序盤の展開次第で柔軟に変更できる。

さらに寒い気候では、ハードタイヤのウォームアップに難があるので、ハードに履き替えてのアンダーカットが難しくなるだろう。ここでもメルセデスはタイヤのウォームアップ性がいいので、有利な状況である。

また、セーフティカーが序盤で登場した場合、大半のレースをハードタイヤで走行するという戦略も考慮に入れるべきだ。これにより、長期的に安定したペースを維持することが可能となり、後半での攻勢に繋げることができる。

後方グリッド勢の戦略的選択肢

後方グリッドからのスタートとなるドライバーにとって、例えばソフト > ハード > ハードという変則的な2ストップ戦略も魅力的だ。この戦略は、序盤でのポジションアップを狙うには有効であり、特にペレスやアルボン、アストンマーティン勢にとっては大きなチャンスを生み出すかもしれない。

シモーネ・ベラは「ソフトタイヤはレース全体に適しているわけではないが、スタート直後の数周においては非常に良好なパフォーマンスを発揮する可能性がある」と述べている。しかし、その後の管理が難しく、特に長いスティントではリスクが伴う。このため、後方からの追い上げを狙うドライバー以外には推奨されない戦略だ。

一方で、ハード > ミディアムという逆戦略も考えられる。これはフェルナンド・アロンソが過去に得意とした戦略であり、後半にミディアムタイヤを投入することで、レース終盤に向けてペースを上げる狙いがある。レース中盤にセーフティカーが出た場合、この戦略は特に効果的で、流れを一変させる可能性がある。

天候とタイヤ選択への影響

ラスベガスの夜間レースでは、低い気温がタイヤ選択に大きな影響を与える可能性がある。週末を通じてトラック温度は12°C前後で推移し、レース終了時にはさらに下がる見込みだ。この低温環境では、特にハードコンパウンドタイヤの性能が鍵を握ることになる。

現時点でハードタイヤの実際の挙動については未知数だが、冷間時にグレイニングが発生する場合、2ストップ戦略がより有力となる。一方で、期待通りの丈夫さを示す場合には、1ストップ戦略が主流となるだろう。特にグレイニングを回避し、タイヤを長持ちさせることができるドライバーにとっては、1ストップでレースをまとめることが理想的なシナリオとなる。

戦略の柔軟性が鍵

ラスベガスGPでは、グリッドポジション以上に戦略の柔軟性が鍵を握る。セーフティカーの登場やタイヤの状況次第で、1ストップか2ストップかの選択は変わる可能性があり、特にミディアムタイヤからスタートするドライバーにとっては、他車の動向を見ながらの柔軟な判断が求められる。

ラスベガスという特殊な環境で、最も重要なのはタイヤを丁寧に扱い、レース中の状況に応じて最適な戦略を取ることだ。特に低温でのタイヤ管理が難しい中、どのドライバーがこの戦略戦争を制するかが、レースの勝敗を大きく左右するだろう。