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小松礼雄とハースの飛躍:小さなチームが見せる大きな可能性

ハースF1チームの2024年シーズンは、これまでとは一線を画す飛躍を遂げた年となった。昨年の最下位から一転し、現在はコンストラクターズランキングで6位を堅持している。そんなハースの復活の背景には、改良されたマシンVF-24の一貫性と、チーム全体の組織改革が大きな役割を果たしている。

ハースが2023年の不振から立ち直り、約4000万ドルの賞金獲得の可能性があるという事実は、混戦のミッドフィールドの中でのチームの変貌ぶりを物語っている。仮に6位を確保した場合でも、2018年の5位という最高記録には及ばないが、依然としてピットレーンで最も小規模なチームであるハースにとって、これは立派な成果となる。その進歩を説明する上で鍵となるのが改良されたVF-24だ。

2023年、ハースは一貫性に欠けるマシンに悩まされ、予測不能な挙動がしばしばチームの足を引っ張った。「昨年のマシンは一貫性がなく、とても扱いにくかった」と新たに就任した小松礼雄代表はバーレーンでのプレシーズンテスト時に説明した。2023年シーズン最下位に終わったチームがそれ以上を目指せるとは考えていなかった時期だ。「タイヤの状態、風の状況、トラックの温度などの条件によって、予測不能な挙動をするマシンだった。今年のマシンは一貫性がある」。

しかし、2024年シーズンを迎えるにあたり、新たに就任した小松礼雄代表の指導の下、エアロプラットフォームの改善に焦点を当て、マシンの安定性を飛躍的に向上させた。これにより、ドライバーたちはより自信を持ってタイヤマネジメントやレース戦略に取り組むことが可能となり、その結果、ハースはシーズン序盤からポイントを積み重ねることに成功した。

プレシーズンテストでは、パフォーマンスランをせずに、ニコ・ヒュルケンベルグとケビン・マグヌッセンがタイヤの特性を詳細に探り、マシンの設定を調整することで、ピレリの繊細なタイヤを最大限に活用する方法を見出した。この努力はシーズンを通して実を結び、特にレース中のタイヤマネジメント能力の向上が、安定したポイント獲得に繋がった。さらに、バーレーンでの開幕戦後、小松代表は「我々は戦える」と自信を示し、その言葉通りチームは勢いを持ち続けた。

ハースの復活には、シーズン中のアップグレードも大きな影響を与えた。特に、7月のシルバーストンで導入されたマクラーレン風のサイドポッドと新設計のフロア、そしてアメリカGPでの大規模なパッケージ改良は、マシンのパフォーマンスを飛躍的に向上させた。小松は、「我々が行ったアップグレードでマシンが遅くなったことは一度もない。アップグレードを施すたびに確実に速くなった」と小松は語り、開発の一貫性がチームに自信を与えたことを強調している。

さらに、ハースはトヨタとの技術提携を発表し、その影響がチームのパフォーマンス向上に寄与している。トヨタはハースの開発スピードを高めるためのリソースを提供し、バンベリーの施設に新しいF1シミュレーターを建設中だ。一方でトヨタ側は、F1レベルのプロセスや設計アイデアを学ぶためにエンジニアをハースに派遣し、F1レベルの技術を共有することで、両者の協力関係はさらに強固なものとなる。この提携により、ハースは独自に取り組んできた分野でのリソースの不足を緩和し、より競争力のあるマシンを作り上げることができている。トヨタはハース用のフロントウイングなど一部の車体製造費用を負担し、その代わりにVF-24やチームキットへのロゴ掲載でブランディング効果を得る。この提携は、トヨタがグリッドに参入する必要なくF1に関与できる点で双方にメリットがある。

さらにハースは、(過去のマシンでテスト走行する)TPCの走行に、トヨタ契約ドライバーを参加させる予定だ。これには、WECに参戦している平川亮などが含まれる可能性があり、ハースのリザーブドライバー候補としても期待されている。

ハースはまた、フェラーリとのパワーユニット契約を2028年末まで延長し、トヨタの技術協力を受けつつ、ダラーラとの提携も維持する。小松は「フェラーリとダラーラは設立当初から素晴らしいパートナーだ。フェラーリはパワーユニット(PU)やギアボックス、サスペンション、油圧システムなどを提供しているが、トヨタが手を加えるのは、フェラーリのサポートがなく、これまで我々が独自に取り組んでいた分野だ。それが我々の能力を補い、車をより競争力のあるものにする機会を与えてくれる」と説明する。

また、チームの士気も大幅に改善された。2022年以降、ハースは困難な時期を過ごしていたが、小松代表のリーダーシップの下、チーム内のコミュニケーションと協力体制が見直され、その結果としてチーム全体の雰囲気が良くなったと関係者は語る。たとえば、バクーやアメリカGPでの緊急修理作業では、メカニックたちが迅速かつ効率的に対応し、その団結力が示された。

小松はメキシコで、「今年はすべてのアップグレードが完全に完璧に機能したわけではないが、どれもマシンを遅くすることはなかった。アップグレードを施すたびに確実に速くなった」と説明する。「変わったのは、基本的に同じメンバーでありながら、コミュニケーションの詳細やチームとして協力する方法を見直したことだ。互いに耳を傾け、自由を与えるといった、いわば単純な基本事項に注力した。そして今、その結果が見えてきている」。

チームの安定性はピットクルーのパフォーマンスにも反映されていて、チーフメカニックのトビー・ブラウンは、「これまでの問題の一つは、人の出入りが多かったことだと思う」と説明する。ピットクルーの定着率が改善された結果、2023年と比較してピットストップの平均時間が1秒短縮された。また、ジーン・ハースは、スタッフのレース時の環境改善とスポンサーやゲストを接待するために、2025年からヨーロッパ戦用の新しいパドックモーターホームを購入することを決定した。

こうした小さな改善の積み重ねが、ハースの競争力向上に寄与している。また、これらの好成績がジーン・ハースオーナーを説得し、追加投資することにより、チームは300人体制からさらに10%の拡大を目指しており、これもチームの成長にとって重要なステップとなっている。

また、最近のマグヌッセンの調子向上は、オースティンでのアップグレードとともに、VF-24のブレーキ使用感に対する信頼感が急激に増したことが背景にある。彼はメキシコで「今年のブレーキは非常に不安定だったが、恐らくそれを修正できた」と語っている。「ブレーキを踏んでも最初は反応が鈍く、少し時間が経ってから効き始める。初期の反応が遅れると、コーナー進入時の自信を失わせる。それが大きな助けになった。同じ感触で効くブレーキだと分かるのは大きい」。

そして、ハースは2025年以降もマグヌッセンをパートタイムのリザーブ兼TPCドライバーとして迎え入れ、これまでのドライバーとしての経験を活用することを検討しているという。

ハースの復活劇は、マシンの改善だけでなく、組織全体の改革と、外部からの支援をうまく取り入れた結果である。2024年シーズンの残りレースでも、その勢いを維持し、さらなる成果を上げることが期待される。そして、この成果が次のシーズン、さらには新たな規則が導入される2026年に向けた基盤となるだろう。ハースは、F1という激しい競争の中で、小規模チームでありながらも着実にその存在感を示しつつある。彼らの挑戦は、これからも続いていくのだ。