F1のカタールGPで、レッドブルのマックス・フェルスタッペンは小さなセットアップ変更により、スプリントとGP予選の間で劇的に速さを取り戻した。その背景には、細やかな調整とチームのデータ解析があった。スプリントレースでの不安定なマシン挙動から、予選での圧倒的なパフォーマンスに至るまでの過程を紐解いてみよう。
スプリントレースでフェルスタッペンは、マシンのバランスに苦しんでいた。特にオーバーステアが顕著で、進入時に不安定さを抱える中、予選ではトップから0.3秒遅れの6位に留まり、スプリント決勝でも8位に終わった。そこから数時間後のポールポジション獲得に、フェルスタッペン自身も「驚きの展開だ!」と述べるほど、予選での変化は劇的だった。わずか0.05秒差でラッセルを抑え、見事にポールポジションを獲得したのだ。
その鍵となったのが、空力プラットフォームの調整である。技術責任者のピエール・ワシェによれば、大きなセットアップ変更は行わず、ウイングの角度はそのままに、ライドハイトやダンピングといったサスペンション関連のセッティングを変更したことが、マシンの挙動に劇的な改善をもたらした。この変更により、マシンの前後の一体感が増し、進入時の安定感が向上、ドライバーがより自信を持って攻めることができるようになった。
特に中速コーナーでの不安定さが解消され、低速コーナーではスムーズな進入が可能となった一方で、高速区間でのスピードは損なわれることがなかった。このセットアップ変更により、フェルスタッペンは予選で新しいソフトタイヤを使いながら、複数周回アタックするアプローチを採用。最初のプッシュラップで十分に好位置を確保し、2周のクールダウン後にさらに0.1秒短縮してポールポジションを確定させた。
スプリントでのパフォーマンスが不調に終わった理由は、コーナー進入時のバランスの問題が主であったが、それを見事に修正したレッドブルの対応力は称賛に値する。スプリント中にセルジオ・ペレスがピットレーンからスタートする状況を利用し、チームは新たなセッティングを試し、それが有効であることを確認した。その間、ミルトンキーンズのファクトリーではスタッフがデータ解析を続け、シミュレーターもフル稼働していた。フェルスタッペンはこの取り組みを「奇跡」と称している。
今回の劇的な改善は、空力とサスペンションのバランス調整がいかに重要であるかを改めて示すものだった。空力プラットフォームの調整は、コーナリング中の空気の流れを最適化し、マシンの安定性を確保するための要素である。特にカタールのような高速コーナーと滑らかな路面が特徴のサーキットでは、この空力プラットフォームのバランスがマシンのパフォーマンスに大きく影響する。
しかし、フェルスタッペン自身も述べているように、今回のセットアップ変更が決勝レースでどのように作用するかはまだ未知数である。予選での速さは確認できたものの、57周にわたるレースで同様のパフォーマンスを維持できるかは疑問が残る。近年のレースで、予選では強かったものの決勝でペースを維持できなかった例がいくつかあり、今回もその再現となる可能性は否定できない。
フェルスタッペンのライバルであるメルセデスのジョージ・ラッセルもまた、カタールGPの予選で好走を見せた。ラッセルは「これまでで最高のラップの一つ」と称する走りでQ3最初のランを成功させたが、フェルスタッペンがさらにその上を行った。マクラーレン勢は、スプリントでの1-2フィニッシュから一転、予選ではフェルスタッペンやラッセルに対してわずかながら遅れを取る形となった。特にランド・ノリスは、セットアップの最適化が他のチームほど進まなかったと語っており、トラックの改善に対する恩恵も十分に享受できなかったようだ。
今回のカタールGPでのレッドブルの対応力、そしてフェルスタッペンの技術的なフィードバック能力は、F1の持つダイナミズムと、わずかな調整で大きな違いを生み出すF1の魅力を改めて示すものだった。わずかなライドハイトの調整やダンピングの変更が、これほどまでに大きな改善をもたらすことを、我々は目の当たりにしたのだ。フェルスタッペンがポールポジションを獲得するまでの過程は、まさにチーム全体の努力と、技術の粋を集めた結果であり、その背景には見えない多くの人々の働きがあったことを忘れてはならない。
決勝レースで、このセットアップがどのような結果をもたらすか。それは未知数だが、レッドブルとフェルスタッペンの挑戦はまだ続く。果たして、この劇的な改善が57周の戦いにおいても続くのか、その答えはカタールの夜に委ねられている。