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フェルスタッペン、圧巻のカタールGP制覇:完璧な戦略と冷静なレースマネジメント_カタールGP観戦記

2024年カタールGPは、マックス・フェルスタッペンがシーズン9勝目、キャリア通算63勝目を飾るという結果で幕を閉じた。ロサイル・サーキット特有の厳しいタイヤ摩耗やセーフティカーによる混乱があったものの、彼の冷静な判断とレッドブルチームの戦略が一丸となり、レースを制した。

一方で、ランド・ノリスとマクラーレンが繰り広げた粘り強い挑戦は、2025年以降のタイトル争いの可能性を感じさせる内容だった。カタールGPのレース結果は、フェルスタッペンの卓越した能力だけでなく、新たな競争の幕開けを象徴するものとなった。

フェルスタッペンのラッセルへの不満

フェルスタッペンは本来ならポールポジションに立つべきだった。しかし、Q3でジョージ・ラッセルを妨害したとしてペナルティを受けたのだ。フェルスタッペンはこの制裁に対し、「審議はまるでレンガの壁と話しているようだった」と憤慨。さらに、「誰かをそこまで意図的に陥れようとするラッセルの姿勢には完全に失望した」とし、ライバルへの敬意を失ったとまで述べた。

レッドブルのチーム代表クリスチャン・ホーナーは、「これがフェルスタッペンのスタートへの意気込みをさらに高めた」とし、RB20をポールシッターのメルセデスに向けるような威圧的な態勢でグリッドに並ばせたことを明かした。

「彼はジョージに怒っていたし、スチュワードの前でのやり取りにも不満を持っていた。そしてそのモチベーションをレースに持ち込んだんだ」とホーナーは述べた。

序盤の混乱:セーフティカーがもたらした影響

シグナルが消灯すると、ラッセルとフェルスタッペンはほぼ同じ蹴り出しを見せた。しかし、メキシコGP同様、レッドブルの低グリップでのスタートの強さが再び際立った。中間加速が良かったフェルスタッペンは素早くラッセルに並びかけ、ターン1のイン側からオーバーテイクした。この時、フェルスタッペンは絶対にラッセルより先にブレーキングしないと決めていた。だがラッセルの加速が良くなかったので、そこまでする必要はなかった。

レース序盤、ターン1で起きた接触事故により、セーフティカーが導入された。セーフティカー導入のタイミングはフェルスタッペンにとって有利に働いた。リスタート直後に素早くペースを上げ、追随するランド・ノリスとのギャップを広げることに成功。この動きは、彼の冷静な判断力と優れたタイヤ管理能力を示すものだった。フェルスタッペンは、セーフティカー後の数周でレースの主導権を完全に握った。

フェルスタッペンとノリスの攻防

レースのハイライトは、第1スティントから続いたフェルスタッペンとノリスの攻防だった。フェルスタッペンは第1、第2セクターで巧みにペースを稼ぎ、最終セクターでノリスに追いつかれるという展開が続いた。フェルスタッペンは後に次のように語っている。

「第1スティントのほとんどは、第1、第2セクターでかなりいい感触だった。でも最終セクターでは、ランドが序盤からすでに少しプッシュし始めていたんだ。僕はおそらくもう少し慎重に走っていた。その結果、ほとんどのラップで周回ごとにバランスが取れた感じだったね。楽しかったよ。ミスをしないように気をつけながら走るのがね」

ノリスもまた、マクラーレンの高いダウンフォース設定を活かし、高速コーナーで優位性を発揮。彼の走りはレース全体を通して一貫して速く、挑戦者としての存在感を示した。

ピットストップと戦略の分岐点:ミディアムが持続した理由

レッドブルのクリスチャン・ホーナーはフェルスタッペンの第1スティントを「信じられないほどうまく管理していた」と称賛した。「彼はタイヤを大切に扱い、ミディアムタイヤの寿命を延ばしていた」と述べている。

これが重要になったのは、24周目にリーダーたちが、ミディアムタイヤで走行できるとされていた予測周回数を超えてもまだ走行を続けていたからだ。予定ではその時点でハードタイヤに交換し、最後まで走るはずだった。

コース温度が16〜17℃と低く、カーブの縁石が丸い形状だったことが、2021年の2ストップ戦略や2023年の義務的な3ストップ戦略を、今回のような1回のピットストップで済む状況に変えた要因となった。さらに、序盤のセーフティカー下で4周走行したことで、タイヤが節約されたことも影響している。

しかし、これだけではタイムが安定して落ち続けていた理由を完全には説明できない。フェルスタッペンによれば、「全力でプッシュしていた」にもかかわらずだ。ピレリのモータースポーツ責任者であるマリオ・イゾラは、次のように説明している。

「このコースでは摩耗が激しい一方で、デグラデーション(性能劣化)が非常に低いことが分かった。デグラデーションが低い場合、タイヤを交換する動機がなくなる。ドライバーはできるだけタイヤを長持ちさせるか、交換のタイミングを見極めようとするんだ。タイヤが摩耗してもトレッドにはまだ少しゴムが残っている。ドライバーはその摩耗を最小限に抑えるような走り方に順応できる」

しかし、マクラーレンがノリスでフェルスタッペンをアンダーカットする可能性に注目が集まる中、このレースの流れが大きく変化し始めた。

セーフティカー再導入と再スタートの緊張感

29周目に右側のミラーが外れたアルボンの車両は、コース上にデブリを撒き散らし、これが複数のチームの判断を狂わせる結果となった。飛び散ったミラーはレーシングラインの中央に落ち、5周にわたりコース上に残った。

ピレリのマリオ・イゾラは、このミラーがチームのピット戦略に影響を与えたと指摘した。「ほとんどのチームは、ミラーがストレートの中央にあったときにセーフティカーが出る可能性を期待していました。セーフティカーが出れば、有利なタイヤ交換の機会を逃すことはないですからね。でも、バルテリ(ボッタス)がミラーを破壊した時点で、状況が変わるのは明らかでした」。

34周目、ボッタスのザウバーがミラーを粉々にし、その直後にシャルル・ルクレールがラップ遅れのボッタスを追い抜く際にカーボン片を拾った。続いて走行していたカルロス・サインツとルイス・ハミルトンが左フロントタイヤのパンクに見舞われた。

マクラーレンはすぐにオスカー・ピアストリをピットインさせたが、これはチーム代表のアンドレア・ステラによれば、「安全性を考慮し、必要な判断」だった。しかし、35周目の終盤、フェルスタッペンとノリスがピットに向かうと同時にセーフティカーが導入された。

イゾラは、メルセデスとフェラーリのパンクの原因について次のように述べている。「ウィリアムズのミラーの破片が原因だと思いますが、いつものようにタイヤを検査して確認する必要があります。左フロントタイヤは摩耗が激しい部分です。第1スティントで使用された左フロントタイヤの多くは構造が見えるほど摩耗しており、保護が少なくなります。デブリが非常に小さくても鋭い場合、カーボンファイバーのようにタイヤに穴を開けることがあります」。

デブリの影響でセーフティカーが再び導入され、フェルスタッペンとノリスはハードタイヤを装着。セーフティカー後の再スタートは緊張感に満ちたものとなった。

再スタートの直前、セーフティカーのライトが消えないという異常事態が発生。40周目の再スタートでセーフティカーが戻ることをレースエンジニアのジャンピエロ・ランビアーゼから伝えられていたが、フェルスタッペンが前周のターン13を回った時点で、セーフティカーのライトがまだ点滅しているのを確認したのだ。

ルールによると、セーフティカーのライトが点滅している間、リーダーは10台以上の間隔を空けてはならないが、消灯した後のペースはリーダーが自由に決められる。この状況下でライトが消えなかったことで、フェルスタッペンは集団を引き離すことができず、自分のペースでレースを再開することができなかった。そのため彼は、最終コーナーで少しリアを滑らせながら、加速に踏み切った。ハードタイヤはウォームアップに時間がかかり、リアグリップが不十分だった。

これによりノリスはターン1に向けて加速し、フェルスタッペンがインを守ったものの、ノリスがエイペックスで少し先行する形となった。フェルスタッペンは激しく守りながらも、ノリスに十分なスペースを確保。このバトルは、新たな論争を招くことはなかった。

ノリス黄旗無視のペナルティで勝負あり

フェルスタッペンがノリスを離す前に、セーフティカーが3度目の登場となった。最初はバーチャルセーフティカーだった。セルジオ・ペレスが再スタート後にスピン。その後、クラッチを焼き切り、ターン14と15の間で立ち往生してしまった。その後、ニコ・ヒュルケンベルグが冷えたタイヤで再びスピンし、今度はターン9でグラベルに埋まった。

セーフティカーが退場すると、フェルスタッペンがターン15でノリスを再び引き離して3度目のリスタートを成功させた。だが43周目が始まるころには、ノリスのレースは危機に瀕していた。

アルボンのミラーに遭遇した際、フェルスタッペンとノリスはダブルイエローフラッグを通過していた。その際、ノリスはDRSを使ってボッタスを周回遅れにする一方、フェルスタッペンは減速し0.5秒を失った。一方のノリスは減速せず、これが問題視された。

フェルスタッペンはすぐに無線で違反を報告し、レッドブルはノリスの違反をFIAに伝達した。レッドブル代表クリスチャン・ホーナーは次のように語っている。

「ライブのGPSデータを確認しており、ノリスが全開だったことが分かっていました。そこにはダブルイエローが出ていたので、明らかな違反です。土曜日にフェルスタッペンがスチュワードと『親密な時間』を過ごした後だったので、彼は徹底的に調査してもらいたかったようです」。

44周目にノリスに対する10秒のストップ・ゴー・ペナルティが下された。この重いペナルティは驚きを持って迎えられたが、過去の事例と整合している。例えば、2021年オーストリアGPでのニキータ・マゼピンとニコラス・ラティフィが減速を怠った際の処分がこれに類似している。

マクラーレンのアンドレア・ステラはペナルティの「妥当性と具体性」に疑問を呈したが、ノリス本人はこのペナルティに同意した。「僕のミスだった――何が間違っていたか分からないけどね。もしスチュワードの言うとおりに僕が違反していたのなら、正しいペナルティを与えたんだと思う」。

ノリスはペナルティなければ、勝てたのか?

ノリスは45周目の終わりにペナルティを消化した。その直前、彼はフェルスタッペンにわずか0.7秒差まで迫り、初めて1分23秒台前半に突入した。

その後フェルスタッペンはルクレールを容易に引き離し、最終的には6.0秒のリードでチェッカーを受けた。レッドブルはフェルスタッペンのマシンを、大きな縁石を乗り越える必要のあるロサイルに合わせて、車高やダンパー設定を調整し対応して、スプリント決勝からの復活を果たした。

ノリスは、ペナルティがなければ勝利できたかどうかについて、はっきりと「可能性はあった」と主張したが、ステラは次のように述べている。「断言するのは難しい。必ずしも勝てたとは言い切れない」。

ノリスはペナルティ消化後、15位から猛追し、10位でフィニッシュ。ファステストラップとポイントを記録した。ペナルティがなければ、特にハードタイヤでの速さが目立つフェルスタッペンを上回れた可能性があったが、それを証明する術はない。

マクラーレンの可能性とレッドブルの堅実さ

今回のカタールGPは、マクラーレンの速さがレッドブルに肉薄することを証明した一戦でもあった。特にノリスのファステストラップや終盤の追い上げは、今後のF1タイトル争いにおける大きな希望を示している。一方で、レッドブルは今回も安定した戦略運びで勝利を収め、依然として盤石な体制を誇示した。

カタールGPは、フェルスタッペンの冷静な判断力とレッドブルの優れた戦略が光る一方で、ノリスとマクラーレンの進化が見られた重要なレースだった。2024年シーズンも終盤戦に差し掛かる中、来年を占う上で、今回のレースは多くの示唆を与えてくれるものとなった。