Formula Passion

風洞時間の壁を越えて:マクラーレンの効率的空力開発アプローチ

マクラーレンは1998年以来のコンストラクターズタイトルを獲得し、F1の頂点に立った。しかし、その栄光の裏で直面する課題がある。それは、空力テスト制限による風洞時間の減少だ。この制約をどう克服するのか? チーム代表アンドレア・ステラのコメントを通じて、彼らが効率化に成功した理由とその戦略に迫る。

風洞時間制限という逆風

F1では、空力開発の効率化が勝敗を分ける重要な要素となる。マクラーレンはコンストラクターズ選手権1位となった結果、風洞時間が基準値の70%に制限される。

フォーミュラ1のスポーティングルールには「空力テスト制限」(Aerodynamic Testing Restrictions)が含まれており、これはチームが許可される風洞時間と計算流体力学(CFD)の容量をスライド式に規定している。チャンピオンシップで1位に終わったチームは基準値の70%の許容量から始まり、2位以下は5%刻みで増加し、10位のチームには115%が与えられる。

この制度により、ライバルチームのフェラーリやレッドブル、メルセデスと比べてテスト可能な時間が少なくなるのは明白だ。特に、2026年の新マシン開発が進む中、この制約は一見不利に見える。

しかし、チーム代表のアンドレア・ステラは、このハンデを逆手に取る戦略を明確にしている。ステラは、風洞時間の削減について次のように語った。
「CFDと風洞時間の組み合わせにおける空力開発の効率を、どのように改善するかを考えることになる。これらは相乗効果があるからだ」。

効率化のカギ:新風洞の導入

マクラーレンが大きな効率化を果たした背景には、新たに自社で運用を開始した風洞施設の存在がある。これまで使用していたケルンのトヨタ風洞施設から、ロンドン郊外ウィンブルドンにある自社施設に切り替えたことが転機となった。

昨年のアップグレードはトヨタの風洞で設計・開発された。しかし、トヨタの風洞で物事を開発するには、部品を準備してからテストするまでに輸送時間の都合で2日間かかる。今では、部品を準備したら2時間後にはテストが可能になり、効率が大幅に向上する。これにより、時間的なロスが劇的に削減されただけでなく、迅速なデータ収集と改善サイクルが可能となった。

「しかし実際には、効率を追求することは風洞だけでなく、空力開発全体のアプローチにも関わる。そして、より多くの制限があっても、知識を生み出す方法や効率がはるかに重要であると我々自身も経験している」。

ステラは次のように語る。
「新しい風洞を活用することで、単なる時間短縮だけでなく、空力開発全体のアプローチが改善された。これが我々の最大の強みだ」。

質を追求する空力開発

マクラーレンは単なる効率化に留まらず、開発の「質」に重点を置く方針を採用している。風洞時間を増やすだけでは開発速度や成果が比例して向上しないという現実を理解し、より少ない時間で最大の効果を引き出すことに注力しているのだ。

「風洞時間が3倍あっても、開発速度が3倍になるわけではない。今年、一部のチームがレースで投入した部品が進歩に繋がらない例を多く見てきた。重要なのは量ではなく、質だ」。

また、風洞テストとシミュレーションの相関性を高めることで、データ精度を向上。これにより、仮想空間での開発結果が実際のトラックでも再現される可能性が高まり、効率がさらに向上した。

Zak Brown, CEO, McLaren Racing, on the pit wall

制約を力に変えるマクラーレンの哲学

F1において、制限は時に新たな革新を生む原動力となる。マクラーレンは、制約の多い環境でこそ最大限の成果を出すという哲学を掲げている。新しい風洞を基軸に、輸送時間や開発サイクルの改善を果たし、さらには開発の質を徹底的に追求することで、ライバルと互角以上に戦う準備を進めているのだ。

「空力開発の効率を改善することが、我々にとって最大の相乗効果を生む」とステラが語るように、マクラーレンは単なる物理的な制約を超えて、全体のプロセスを進化させている。

進化する開発体制

風洞時間の削減は、マクラーレンにとって挑戦であると同時に、新たな成長のチャンスでもある。効率化と質の追求を両立させる戦略が、彼らを成功に導く鍵だ。2026年に向けたマシン開発の進捗を注視しながら、マクラーレンの革新的なアプローチがどのように結果をもたらすのか、来シーズンの戦いが待ち遠しい。