ハースにとって、2025年シーズンは多くの新要素が加わるシーズンとなる。新たなドライバーラインナップとしてオコンとベアマンが起用され、1月にはヘレスでチーム初のTPC(Testing of Previous Cars)テストを実施した。昨シーズン、チームは2023年の不振から立ち直り、コンストラクターズ選手権を7位で終えた。良い基盤は整っているものの、さらなる成長と拡大が求められる状況だ。2025年、アメリカのチームは昨シーズンの進歩を生かしつつ、より自由にマシンを開発できる環境を手にすることになる。

フェラーリ依存からの脱却
2025年シーズンに向けて、ハースはこれまでの「フェラーリ追従」戦略から一歩踏み出し、独自の技術選択を行う姿勢を示した。その象徴的な決断が、フロントサスペンションの仕様に関するものである。フェラーリがフロントサスペンションをプルロッド方式へと移行するのに対し、ハースはプッシュロッド方式を維持する選択をした。この決断の背景には何があるのか、そしてそれがチームの競争力にどのような影響を及ぼすのであろうか。
フロントサスペンションの選択とその理由
ハースがフロントサスペンションにプルロッド方式を採用しなかった最大の理由は、技術的・空力的な側面にある。チーム代表の小松礼雄は、フェラーリの新しいサスペンションを導入することが本当にチームにとって有益なのかを詳細に分析。その結果、既存のプッシュロッド方式を維持する方が理に適うと判断した。
小松は次のように説明する。
「これまでは常にフェラーリの最新仕様を選択してきた。それは意識的な決定というよりも、安全で簡単な選択肢だったからだ。しかし、以前からこの選択について議論していたものの、実際に異なる道を選ぶことはなかった」。
「だが今回は、エンジニアたちが優先順位を整理し、『2025年仕様のフェラーリのフロントサスペンションを導入するとして、そのデータが利用可能になるのはいつか? そして、それが空力にどのような影響を及ぼすのか?』と深く考えたんだ」。
また、小松は次のようにも語る。
「フェラーリの最新仕様を採用するのは簡単な選択肢だったが、それが本当に我々のマシンにとって最適なのかという疑問があった。プッシュロッド方式を維持することで、マシンの特性を把握しやすく、開発の自由度も高まる」。
この決定には、フロントサスペンションの変更がもたらす空力的影響も考慮されている。F1マシンにおいて、フロントサスペンションは空力のバランスに大きく影響を及ぼす重要なコンポーネントであり、その仕様を変更すると他のパーツとの整合性を取る必要が生じる。そのため、リソースの限られたハースとしては、短期的な開発リスクを抑えるためにも、既存のプッシュロッド方式を継続する判断を下した。

2025年は、現行のグラウンドエフェクト規定が適用される最後のシーズンとなるため、大きな変更には慎重な判断が求められる。小松は続ける。
「こうした変更を加えれば確実に影響が出るし、比較検討を行う必要がある。その時点で、『その変更がどれだけのパフォーマンス向上につながるのか? 逆に、同じサスペンションを維持することで開発の自由度は失われないか? まだどれだけのポテンシャルが残されているのか?』といった疑問が浮かぶ」。
「詳細な分析の結果、“キャリーオーバー”(継続使用)することが最善だと判断した。しっかりと調査を行ったことで、この決断に自信を持つことができた。以前はその自信がなかったが、今は違う」。
この決定により、ハースは独自のアプローチを取りながら2025年シーズンの競争力向上を目指す。
独自路線への一歩
この決断は、ハースがフェラーリのサテライトチームから自立した開発方針を模索し始めていることを示唆している。これまでハースは、エンジンやギアボックスを含む多くのコンポーネントをフェラーリから供給される形で参戦してきた。しかし、2025年に向けてはフロントサスペンションにおいて独自の選択を行い、技術的な自立を進める兆しが見え始めている。
小松はこう語る。
「2025年のハースは、過去とは異なるアプローチを取ることになる。これまでの開発の知見を活かしながら、自らの強みを生かした開発を進めていく」。

2025年に向けた課題と展望
フロントサスペンションを据え置きながらも、ハースは他の領域でのアップグレードを進めている。特にリアサスペンションとギアボックスはフェラーリの最新仕様を採用し、マシン全体のパフォーマンス向上を目指す。また、シャシー設計も刷新し、2024年シーズンで直面した制約を克服しようとしている。
「昨年はシャシーの制約によって開発の限界を感じる場面があった。2025年は新しいシャシーを導入し、より柔軟な開発ができる環境を整えていく」と小松は強調する。
このように、ハースは2025年シーズンに向けて、より自由度の高い技術開発を進めている。フェラーリとの提携関係を維持しながらも、独自の判断でコンポーネントを選択する動きは、今後のチームの方向性を大きく変える可能性がある。
ハースの選択がもたらす未来
ハースが2025年にフロントサスペンションを据え置いたことは、単なる保守的な決断ではなく、戦略的な自立の第一歩といえる。この選択が成功すれば、ハースは「フェラーリのカスタマーチーム」という立場から脱却し、より独立した開発能力を持つチームへと進化する可能性を秘めている。
今シーズンの結果次第では、今後のF1におけるカスタマーチームの在り方を変える一例となるかもしれない。