FIAは2025年シーズンに向けて、F1マシンのウィングに対する規制を強化すると発表した。新たな負荷テストの導入により、各チームはさらなる適応を迫られることになる。本コラムでは、この決定の背景と各チームへの影響を考察する。

ウィングの柔軟性がもたらすメリットと課題
F1において、ウィングは空力特性の最適化に極めて重要な役割を果たしている。特に、走行中の負荷によって形状が変化する「フレキシブルウィング」は、低速・高速コーナー間のバランスを調整する手段として活用されてきた。2023年のチャンピオンマシンであるマクラーレンのMCL38も、この技術を巧みに取り入れた例の一つだ。
しかし、柔軟性の高いウィングはルールのグレーゾーンに位置し、ライバルチームからの疑念を招くこともあった。昨シーズン、フェラーリのチーム代表フレッド・ヴァスールは、他チームのウィング設計が規則を逸脱している可能性を指摘し、FIAの対応を待つことを選択。しかし、結果としてフェラーリは新デザインのウィング投入で出遅れる形となった。
ヴァスールはインタビューで、フェラーリがフレキシブルウィングの導入を控えていた理由について「FIAが取り締まりを強化すると思っていた」と語っている。実際、FIAはベルギーGPでウィングの挙動を監視するため、カメラやステッカーを使用した。しかし、最終的にFIAは特段の対策を講じなかったため、フェラーリはライバルに遅れを取りながら、シンガポールGPに向けて独自のデザインを開発せざるを得なかった。
「FIAが『ダメだ』と言うと思っていました。ところが『やっていい』と言われました。その結果、私たちはライバルに1〜2ヶ月遅れを取ることになりました。コストキャップの下では選択が限られるので、これは大きな痛手です」とヴァスールは語った。「『許可されない』と思っていたものを開発し始めると、その分風洞での時間が無駄になってしまうんです」。
©Ferrari
FIAの新たな負荷テストとその影響
FIAは2025年シーズンの開幕戦から、リアウィングに対する静的変形テストを強化し、さらにスペインGPからはフロントウィングにも追加テストを導入すると発表した。これにより、各チームはウィング設計を根本から見直す必要に迫られる。
FIAは関連する技術指令TD018の草案をチームに送付し、この現象に対して規制強化を図ろうとしている。今回の方針変更の主な目的は、エアロの弾力性が新シーズンにおいてチーム間で大きな議論を呼ばないようにすることだ。
ルール変更への各チームの対応
チームにとって、ウィングの剛性強化は単なる規制対応にとどまらない。柔軟性を活用していたチームは、ダウンフォースの最適化に新たな手法を見出す必要がある。しかし、2025年のマシン開発がほぼ終了したこの時点での変更に、戸惑いの声も少なくない。
FIAもこの点を考慮し、シーズン開幕時点ではフロントウィングへの規制適用を見送る方針を示した。これにより、チームには一定の適応期間が与えられる。特に、中堅以下のチームの中には、2024年仕様のウィングを引き続き使用しようとする動きも見られる。
レッドブルのチーム代表クリスチャン・ホーナーは、多額の資金を投じて開発したフレキシブルウィングがこの段階で禁止されることに不満を示している。現在のF1は予算制限の下で運営されており、このような突然のルール変更はチームの財政や開発計画に大きな影響を与える。
「昨年、私たちは予算が限られていたため、開発を制限せざるを得ませんでした。CFDや風洞実験にも制限がある中で、無駄なリソースを費やしてしまったチームが不満を抱くのは当然です。」
一方で、リソースの限られた中堅以下のチームにとっては、今回の規制変更が競争力向上の好機となる可能性もある。

今後の展望
FIAの新規制は、F1のエアロ開発の方向性を大きく左右する。ウィングの柔軟性が制限されることで、各チームは他の領域で空力性能の最適化を図る必要がある。今後、どのような技術革新や戦略が生まれるのかに注目が集まる。
F1は常に進化を続けるスポーツであり、技術革新と規制の攻防が絶え間なく繰り広げられる。今回のウィング規制強化がレース展開にどのような影響を及ぼすのか、2025年シーズンの幕開けが待ち遠しい。