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雨に翻弄された戦略——レッドブルは逆転できたのか?:Rd.1 オーストラリアGP観戦記

2025年F1シーズンの幕開けを飾るオーストラリアGPは、雨とセーフティカーが入り乱れる波乱の展開となった。ランド・ノリスがマクラーレンに歓喜の勝利をもたらした一方で、マックス・フェルスタッペン率いるレッドブルは、作戦の選択を巡って議論を呼んだ。ここでは、レースの詳細を分析し、レッドブルが勝利を逃した要因について考察する。

スタート直後から激しいバトルを見せてくれたノリスとフェルスタッペン

緊迫のスタート、タイヤ戦略が勝負を分ける

アイザック・ハジャーがフォーメーションラップ中にクラッシュし、レースは15分遅れでスタートした。この待機時間によりすでに小雨になっていた、路面コンディションがさらに改善された。雨上がりのウェットコンディションの中、各チームはインターミディエイトタイヤを選択。スタートで好発進を見せたのはフェルスタッペンだった。

レッドブルは2023年終盤にスタートシステムを改良し、低グリップ条件下での発進性能がトップクラスになった。3番グリッドからのフェルスタッペンの発進は素晴らしく、一瞬、アウト側からノリスの首位を狙うチャンスもあったが、ノリスはしっかりと防御した。この時、ピアストリもポジションをキープしたが、その直後にフェルスタッペンにパスされて、3位でレースを開始。

レース序盤、フェルスタッペンはノリスの背後1.4秒以内で走行し、プレッシャーをかけた。しかし、フェルスタッペンのインターミディエイトタイヤの摩耗がマクラーレン勢よりも激しく、16周目には0.6秒をロス。さらに次の周、ターン11で左フロントをロックさせ、濡れた縁石の上でスライド。その結果、ピアストリにポジションを奪われた。

この時点でノリスは3秒のリードを築いていたが、ここからピアストリが猛追。ファステストラップを連発し、28周目に初めてDRS圏内に入った。しかし、ちょうどそのタイミングでハース勢と、もう一台のレッドブルであるリアム・ローソンを周回遅れにする必要があったため、マクラーレンはピアストリに「ステイ・ビハインド(後ろに留まるように)」との指示を出した。

ピアストリは「僕の方が速い」と訴えたが、チームの指示に従った。そして、次の周回でトラフィックが解消されると「もうチームオーダーは解除されるのか?」と再確認したが、チームはこれを拒否。

その後、ノリスがペースを上げるよう指示を受けたため、ピアストリは徐々に後退。そして32周目、ピアストリがターン6の縁石でマシンを跳ね上げられ、勢いを失うとギャップは3.4秒に広がった。そしてこの直後、レースは大きく動いた。

セーフティーカーにも翻弄された開幕戦のオーストラリアGP

アロンソのクラッシュ、セーフティカーがもたらした戦略の岐路

33周目、フェルナンド・アロンソがターン6の出口の縁石でマシンのバランスを崩し、ターン7でクラッシュ。これによりセーフティカーが導入された。

ここでノリスとピアストリとのギャップが適度にあったため、マクラーレンは34周目にダブルピットストップを実施。2台ともハードタイヤに履き替え、首位を維持した。一方、フェルスタッペンもこの機に、摩耗したインターからミディアムタイヤに交換。これで、マクラーレンとフェルスタッペンの間にあった18.3秒もの大差が、セーフティカーによって帳消しになった。

セーフティカー後のリスタートでは、ノリスが完璧なスタートを決め、ピアストリを突き放す。しかし、その頃すでに大雨の予報が出されていた。そして、それが現実となったことで、各チームは難しい判断を迫られた。

タイヤ交換のタイミングがレース結果を大きく左右した

レッドブルに訪れたチャンス——その選択は正しかったのか?

雨が強くなってきた44周目、3秒のリードを築いていたノリスが、当時最も濡れた箇所に最初に到達。ターン12でコースオフし、グラベルを滑走。その直後、ピアストリも同じくコースアウトし、グラベルに突っ込んだ。

同じようにコースアウトした二台だが、ノリスはグラベルから舗装部分を通過してコースへ復帰。一方、ピアストリは直線的にコースに復帰しようと、グラベルの先の芝生を走り、コース復帰を目論むが、芝生はグラベルより水分を含んでおり、ノリスはターン13をワイドに走りながらも、コース上に留まったが、ピアストリは曲がりきれずにコースオフ。芝生に捕まり立ち往生した。最終的にはリバースギアで脱出できたが、これで勝利を得る権利を失った。

一方、約3秒後方にいたフェルスタッペンは、マシンをコントロールし、ターン12を通過。ノリスはターン13を広いラインで走り、そのままピットレーンへ。フェルスタッペンはステイアウトした。

雨が強くなる中、次のラップ、レッドブルはフェルスタッペンをピットインさせるか、それともステイアウトさせるかの決断を迫られた。雨は数周で上がると予報されていたが、激しくなっていて、非常に判断が難しい状況だった。

結局、レッドブルは、フェルスタッペンにステイアウトを指示。この判断が、レースの結果を大きく左右することになる。ただ、この時点でフェルスタッペンはノリスに対して21.1秒のリードを持っていた。もしここでピットインしていたら、数字上ではノリスの前でコースに戻れていた可能性が高い。

なぜなら、メルボルンのピットレーンを通過する際のタイムロスは12.6秒であり、マクラーレンと同等の3秒のピット作業時間、さらに前後2秒の誤差を考慮しても合計19.6秒。つまり、ギリギリながらフェルスタッペンが前に残る可能性があった。

しかし、この時レッドブルはシミュレーションの結果、フェルスタッペンがタイヤ交換して、ノリスの前に戻るにはギリギリで、タイヤ交換をミスしたときの、安全マージンがないと判断し、ピットインを見送った。

もちろん、この時ピットインしたとしても、フェルスタッペンが勝てたとは言い切れない。先にタイヤ交換していたノリスの方がタイヤが温まっていたため、フェルスタッペンにとっては厳しい戦いになった可能性もある。しかし、もしピット戦略が違っていたら、ノリスにプレッシャーをかける展開にはできた。さらに、フェルスタッペンの攻撃的なレーススタイルを考えると、勝負の行方はどう転んでいたかわからない。

この状況は、2024年のモントリオールでノリスが「勝てたかもしれない」と後になって悔やんでいたことと似ている。今回のレッドブルの判断も、後から見れば「勝利を逃した決断」だったのかもしれない。そして後からであれば、誰でも何でも言えることも事実だ。

44周目にタイヤ交換したノリスや46周目にタイヤ交換したフェルスタッペンは順位を失っていない。後から振り返れば45周目にタイヤ交換するのがベストだった。ただ誰もこのラップでタイヤ交換していないことを考えると、当時いかに現場が混乱していたかが、よくわかる。雨の量が増えてきていたので、遅くとも46周目にタイヤ交換していれば、大きく順位を失うことはなかった。レーシングブルズやフェラーリは47周目にタイヤ交換をして、順位を大きく失っている。

最後までバトルを繰り広げたノリスとフェルスタッペン。今年も激しい戦いが続きそうです

ノリス、残り3周で全てを失いかける

セーフティカー明け、ノリスは3回目のリスタートを完璧に決めたが、フェルスタッペンは依然として1.7秒以内の距離で追いかけ続けた。そして、残り2周の時点で、レースはさらにヒートアップする。ノリスはターン6でタイヤをグラベルに落とし、0.65秒をロス。マクラーレンによると、この時点で彼のマシンのフロアにはかなりのダメージがあったとのこと。ただし、それがこのターン6でのミスによるものなのか、それとも最後のピットストップ前の大きなミスで受けたものなのかは不明だという。

このミスにより、フェルスタッペンはDRSを使ってノリスのすぐ後ろに迫り、勝負をかけるチャンスを得た。しかし、ノリスはなんとかリードを守りきり、劇的な勝利を収めた。

表彰台で笑顔を見せるノリス、フェルスタッペン、ラッセルと現マクラーレンで元レッドブルのロブ・マーシャル

レッドブルは勝利を逃したのか?

最終的に、レッドブルの作戦は成功しなかったが、戦略の選択次第では勝利の可能性は十分にあった。ピット戦略をより積極的に展開していれば、フェルスタッペンが先頭を維持し、ノリスに抜き返しを強いる展開に持ち込めたかもしれない。しかし、レッドブルがフェルスタッペンをステイアウトさせた決断には、シミュレーション上のセーフティマージン不足という根拠があった。

それでも、結果論ではあるが、もしレッドブルがあの瞬間に賭けに出ていたら、メルボルンの結果は全く違ったものになっていたかもしれない。

あなたはどう思いますか? レッドブルの判断は正しかったのか、それとも慎重すぎたのか?