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冷却と空力効率のせめぎ合い:ハンガリーGPが浮き彫りにした設計哲学の差

ハンガロリンクは、F1エンジニアにとって試練の舞台だ。低速〜中速コーナー主体で、ストレートは短く、マシンは長時間にわたって高いステア角を維持する。このレイアウトは高ダウンフォース仕様のマシンが大きく報われる一方、ラジエター吸気への気流が遮られ、冷却負荷が急激に高まる。加えて真夏のブダペストの高温が重なれば、設計段階での「空力効率」と「冷却性能」のバランスが、否応なしに露呈する。

排出口拡大は“最後の手段”

冷却容量は、吸気口と排出口の面積比、そしてその周囲の圧力分布によって決まる。
吸気口はモノコックやサイドポッドの形状に統合されており、週末単位で変更するのは非現実的だ。そのため各チームは、ルーバーやエンジンカバー後端の開口部など、排出口の調整によって冷却レベルを管理する。

しかし、この操作は明確な代償を伴う。ルーバーから熱気を排出すれば、ボディ表面を流れる整流が乱れ、後方のリアウイングやディフューザーの効率を損なう。後端の開口を拡大すれば、サイドポッドからの気流がディフューザーやビームウイングに集約する重要な合流域に乱れが生じる。冷却不足は信頼性やパワーユニット出力維持時間に直結するが、排出口拡大は空力性能の低下を招く――この二律背反が、現場を悩ませる最大の理由だ。

レッドブルが直面した現実

今回のレッドブルは、このトレードオフに正面からぶつかった。金曜のフェルスタッペン車は、ルーバー面積を最大化しつつも後端開口は小さく抑える、いわば“空力優先”の仕様。

一方、角田のマシンはルーバーと後端開口の両方を拡大した“冷却全開”仕様で走行していた。そして土曜には、フェルスタッペンも角田仕様へ変更。つまり初日の段階で、冷却不足による性能制限が明確に判明したということだ。

冷却が足りなければ、パワーユニットの全開運転時間を短縮せざるを得ず、ERSの使用方法にも制約がかかる。これは単にストレートでの最高速低下だけでなく、コーナー出口の加速やバッテリーマネジメントにも影響を及ぼす。冷却レベルの設定は、パワーユニット部門とシャシー部門のパフォーマンスエンジニアが何度も協議を重ねる、戦略的決定事項なのだ。

マクラーレンの冷却哲学

対照的に、マクラーレンMCL39はルーバーを使用せず、“冷却イヤー”と呼ばれる可変式開口部で対応。ブダペストでは、このイヤーをわずかに広げただけで週末を通し、後端開口も小さなまま走り切った。同じメルセデス製パワーユニットを搭載する他チームと比較しても、必要な排出口面積が明らかに小さい。これは冷却効率の高さを如実に示すものであり、空力的アドバンテージの源泉でもある。

この優位性はエンジン冷却にとどまらず、ブレーキ冷却にも及んでいる可能性がある。開口部を最小限に抑えられることで、車体表面の気流はよりクリーンに保たれ、ディフューザーやリアウイングへの給気効率が最大化される。つまり、MCL39の冷却パッケージは単一のコンポーネントの成果ではなく、車体設計・熱管理・空力コンセプトが高度に統合された成果物だと言える。

開口部の広さがシーズンを左右する

今回のハンガリーGPは、冷却効率がいかにレース結果に直結するかを改めて証明した。高温下やトラフィックの中での走行は冷却要求を跳ね上げ、効率的なパッケージを持つマシンはそれだけで戦術的自由度を手にする。マクラーレンが現在の強さを維持している背景には、この冷却性能の優位があるのは間違いない。

開口部のわずかな面積差がラップタイムに与える影響は数百分の一秒かもしれない。しかし、それが長期的にはコンディション変化への対応力、タイヤマネジメント、ストレートでの攻防といった要素に波及し、シーズン全体のパフォーマンス差、ひいてはタイトル争いの行方を左右する。

冷却と速さ――そのせめぎ合いは、今後もF1デザイン哲学の核心であり続けるだろう。