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ホンダの憂鬱とトヨタの本気

F1に参戦している日本車メーカーの明暗が分かれている。 昨年、コンストラクターズ二位だったBARが落ち込み、過去三シーズン後方集団に落ち込んでいたトヨタが二戦連続で二位に入るなど絶好調だ。 この差はどこから来ているのだろうか? 昨シーズン、BARが好調なときに私はBARがまだまだトップチームにはなれていないと話した。 この発言、実は琢磨ファンやホンダファンの方から強烈な反論をいただいた。 結果的に今シーズンはBARは厳しい戦いを続けている。 一方、トヨタは今シーズン好調だ。 予選でのツゥルーリは常に上位につけ、決勝でも表彰台の常連となりつつある。 昨年までの不振が嘘のようだ。 最大の予算を使い、最小の結果しか残せないなどと揶揄したが、訂正しなければならない。 しかし彼らの目標は当然、優勝だろう。 喜んでばかりもいられない。 トヨタは一年目、二年目の不振でF1で必要なものは何かを学習し、ガスコインを大枚ははたいて獲得。 そして今年、勝てるドライバーを次々獲得。 結果をの残しつつある。 一方のホンダはどうか? 昨シーズン、最高のシーズンを送ったBARホンダ。 チャンピオン獲得も夢ではないと思われた今シーズン今のところ調子は最悪。 序盤はスピード不足に信頼性がない最悪の立ち上がり。 やっと今季初入賞したと思ったら、失格し2戦の出場禁止処分を受ける。 J・バトンからは逃げられそうになり、デイビッド・リチャーズは首になる。 リチャーズの代わりには、ニック・フライが就任。 リチャーズはプロドライブという会社の代表で、この会社はスバルとラリー活動をしていることで有名だ。 ホンダがリチャーズとの契約を更新しなかったのは、このプロドライブ代表のリチャーズがスバルと緊密な関係を持っていることを嫌った為だとも報道されている。 しかし、チームがどん底にあった2001年にチーム代表についたリチャーズは2004年にチームをトップクラスへ押し上げることに成功した。 そのリチャーズを追い出して、ニック・フライを起用。 理解に苦しむこの人事。 BARホンダとプロドライブのリチャーズの間にどういう契約があり、どういう経緯でこのような結果に至ったのかは本当の理由はわからない。 ただ一つだけ言えることは組織というものは(F1だけではなく全ての組織でそうだが)トップの力量でいかようにも変わると言うことだ。 赤字で苦しんでいた会社が、社長が替わっただけで一年後には黒字になることもある。 昨年まで何をやってきたんだと言われれば、社長がへぼだったと言うしかない。 結果を残してきたリチャーズを交代させることがいかにチームへ影響を与えたかは、容易に想像できる。 F1は良いデザイナーがいて、良いドライバーがいるだけでは勝てない。 更に良いチーム代表がいて、チーム全員のベクトルを一つの方向にまとめ上げなければ今のF1では成功することはおぼつかないだろう。 実際、トップチームにはユニークで強烈な個性を持った人物がそろっている。 ロン・デニス、ジャン・トッド、フランク・ウィリアムズそうそうたる面々だ。 その中でもひときわ強う個性を発揮しているのがフラビオ・ブリアトーレだ。 彼はかつてベネトンを率いていたときに、ジョーダンからミハエル・シューマッハーを強奪し、後にチャンピオンを取らせた男だ。 日本人から見ると煮ても焼いても食えない男である。 このような面々と渡り合い、プライドの高いドライバーやエンジニアを束ねていくのに強烈な個性とリーダーシップが欠かせない。 ニック・フライにそういう力量があるのかどうかをこのシーズン前半戦で判断するのは酷だ。 しかしBARがリチャーズを切った以上、彼はそれ以上の結果を残さなければならない。 チームトップと名前が変わっただけのレッドブルが結果を残していることもこれを証明しないだろうか。 更にホンダのBARに対する出資比率が45%にとどまっている点も理解に苦しむ。 確かに以前のエンジン供給と技術協力に比べればホンダのコミットメントは深まったと言えよう。 しかし45%という数字にホンダの腰の引け具合が見て取れる。 2006年にヨーロッパでのたばこ広告が禁止となる。 BARは他のチームとは違う。 他のチームはチームにたばこスポンサーが付いている。 BARはたばこ会社そのものがチームを保有している。 たばこ広告が禁止されれば親会社であるブリティシュ・アメリカン・タバコ(BAT)がBARを保有する意味はなくなる。 それではBATなき後、BARはどうなるのであろうか? 広告効果ののなくなったF1をBATがチームを保有し続けることは考えづらい。 するとチームを売却するか、解散するか。 解散すると価値がゼロになるのでやらないであろう。 残るはチーム売却だ。 当然、売却先の最有力候補はホンダだ。 ホンダもBAT撤退後、どうするかは考えているだろう。 そこで出資比率45%の意味だ。 45%あればチームの売却について拒否をすることは可能だ。 この45%の出資は将来、チームを買い取る意志があると見ることも出来るし、手を引くこともできると勘ぐることもできる。 つまりどちらでも選択できるようにしていると考えられるのだ。 100%F1にコミットして、結果を残しつつあるトヨタ。 45%しかF1にコミットしないで苦しむホンダ。 もしBARが優勝したら、ホンダはホンダが勝ったと宣伝するのだろうか? 以前ならそれでもよかっただろう。 だが今はトヨタがいる。 トヨタが勝てば、それは紛れもなくトヨタの勝利だ。 しかしBARが勝ったときにはそうはいかないだろう。 もちろんF1のチームを自前で持ち運営していくのには、莫大な金額が必要だ。 トヨタと企業規模で格段の差があるホンダがトヨタと同じ事をするのが難しいだろう。 スポンサー獲得交渉や他チームとのやりとりなどエンジニアリング以外のことには関わりたくないという気持ちもわかる。 しかし、それでは何故F1をやるのかと言う理念がわからない。 F1で勝ったからといってクルマが売れるわけではない。 特にホンダの屋台骨をしょってたつアメリカでのF1の認知度は低い。 今やF1の技術が市販車にフィードバックされるわけでもない。 何故、ホンダがF1なのか? 案外、この単純な質問に答えられないことが事の本質なのかもしれない。 【編集後記】 このコラム執筆中にBARがサンマリノGPで失格プラス2戦出場停止のニュースが耳に入りました。 このことが今後のホンダの決断にどのような影響を及ぼすのか? 大変興味があります。 きっと、数年後にはあのときにホンダ社内ではという話しが出てくるのでしょうね。

3 thoughts on “ホンダの憂鬱とトヨタの本気

  1. Yasuhiro Nishi

    いつも楽しませてもらってます。
    一言言わせて下さい。
    「ホンダが何故F-1なのか?」・・・
    ホンダのスピリットです。本田宗一郎の「夢」から来る、
    伝承でもあり、知らないのですか?
    逆にトヨタの「後追い」には、F-1ファンとして
    ウンザリです。(ロボット、市販車、今度はジェット機?)

  2. 仙太郎

    Nishiさん
    コメントありがとうございます。
    ホンダはレーシング会社ではありません。
    自動車を製造販売をしている会社です。
    建前上、レース活動はあくまでも技術開発と販促の為です。
    本音はただ単純にレースに勝ちたい、人がやらないことをやるというチャレンジ精神があるのは理解しています。
    ホンダは株式を上場している会社です。
    しかもアメリカで大半の収益を上げています。
    ホンダはトヨタと比較すると規模が小さい。
    本来、ホンダはアメリカに投資してクルマを売らなければならない。
    それと同時並行してF1に投資しています。
    本来、トヨタより企業規模が大きくないホンダにとってこの二重投資は決して楽ではないと思います。
    株主から見ればレース活動なんか無駄だから止めろという人も多いでしょう。
    そのジレンマが今のホンダのF1活動を制限しており、勝てない原因ではないのかというのがこのコラムの主旨です。
    F1だけでなく市販車でもトヨタはホンダの後追いをしています。
    私も物まねは大嫌いです。
    ただこのコラムではトヨタとホンダとを対比することで問題をより浮かび上がらせたかったのです。
    ご理解いただけるとうれしいです。
    今後とも応援よろしくお願いします。
    仙太郎

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