スペインGP観戦記 二人の明暗 Part1
▽バトンとバリチェロの明暗
バトンのシーズン4勝目とブラウンGPの1-2フィニッシュ。
終わってみればブラウンGP圧勝となったが、追いかけるレッドブルとの差は紙一重。
予選から考えればレッドブルにも勝利のチャンスはあり、この2チームの明暗を分けたのは予選を含めたレース戦略だった。
マシンの競争力の差は確実に縮まっているが、作戦面に関してはブラウンGPに一日の長があるようだ。
この日、最も輝いた一人がバリチェロであったことは間違いない。
二位に終わったバリチェロであったがスタート直後、1コーナーでのアウトからの追い抜きや、第一・第二スティントでの走りは素晴らしかった。
だが第三スティントでの伸び悩みが、彼の野望を打ち砕いた。
バリチェロの第三スティントでの落ち込みの原因はよくわかっていない。
彼はタイヤかマシンに問題があったと話しているが、ブリヂストンからもチームからもそのような発言は見られない。
となると、バリチェロはタイヤ交換直後に、ペースを上げすぎてタイヤを痛めたのかもしれない。
バトンも楽勝ではなかった。
燃料を多く搭載した第二スティントでは、難しいドライビングを強いられたが、それでもなんとかペースをキープし、トップを守り続けた。
これが、バトンの優勝を決めた走りだった。
タイヤが苦しくてタイムを落としたバリチェロと、燃料搭載量に苦しみながらもタイムの落ちを最小限度にとどめたバトン。
この差が二人の明暗を分けた。
バトンはバーレーンGPでKERSのハミルトンを鮮やかにパスし、それが優勝へのキーポイントとなった。
今回は、第二スティントでの粘り強い走りが、優勝へとつながった。
ポールからスタートしても良し、序盤に先行されても良し。
バトンの走りには、隙がなくなりつつある。
▽作戦変更の謎
スペインGPでは、抜けないサーキットなので、常にポジション優先の戦略を立てなければならない。
だが、ブラウンGPは掟破りの3ストップを計画していた。
マシンを軽くしてポールを取り、主導権を握り、逃げ切る。
これが、ロス・ブラウンの考えた作戦だった。
だが、3ストップは口で言うほど簡単ではない。
コンピュータ・シミュレーション上では速くても、実際は気候変動や路面状況の変化、ドライバーの集中力、トラフィックなど多くの要因が影響して、タイムを変動させる。
そして、スペインGPのカタルーニャ・サーキットは、世界屈指の抜けないサーキットである。
2秒くらい速くても前走車を抜くのは至難の業であり、3秒くらい差があってやっと抜けると言えば、その難しさを理解いただけるだろう。
どんなに速くても、序盤でピットに入り、遅いマシンの後ろに入った途端に、そのペースで付き合わざるを得ない。
そうすれば、事前の計画は水の泡になり、勝つのは難しい。
だからこのレースで、勝ちたいのであれば、2ストップしかないと予想した。
3ストップと言うことは、レース中全てのラップで、予選アタックをしなければならず、それができるドライバーは、ほんの一握りである。
優勝したバトンも、当初は3ストップを予定していたが、スタート直後の1コーナーでバリチェロに先行された為、2ストップに変更した。
この戦略の柔軟性がロス・ブラウンの真骨頂であり、フェラーリ時代、ライバルを打ち負かした原動力の一つだった。
ブラウンGPは1-2でスタートできたのだから、本来であれば戦略を変更する必然性はなかった。
彼らの話を総合すると、作戦変更の経緯は以下のようなものだった。
バトンは軽い燃料にもかかわらず、スタートでバリチェロに先行されペースを上げられなかった。
そのせいで、バトンは十分なギャップを築くことができず最初のストップ後、ニコの後ろで戻りそうだったので、燃料を重めにして、2ストップに切り替えた。
そんな、バトンにとっての幸運は、1周目にSCが出たことである。
これにより、彼は2ストップ作戦が可能になった。
もし、SCが出なければ2ストップは難しく、そうすればバリチェロの前に出ることもなかっただろう。
バトンにとってもう一つの幸運があった。
それは、マッサがスタートでベッテルの前に出たことだ。
だが、それ以上の幸運はマッサがスタートでKERSを使えなかったことだ。
スタートをミスしたベッテルは、抜きにかかるマッサを抑えようとイン側に追い込んでいった。
その為、迫り来るベッテルにコースの端に追いやられ、行き場を失いそうだったマッサはKERSボタンを押せなかったのだ。
その証拠にマッサは、ベッテルを抜いた後で一瞬、KERSボタンを押している。
彼がスタートでKERSを使わなかったのは、KERSが故障していたのでもないし、画面表示が壊れていたわけでもない。
これにより、バトンは2位でレースが続けられ、優勝できた。
もし、マッサがKERSを普通に使っていたらどうだろう。
バトンも抜いていた可能性もある。
そうすれば、バトンの勝利もなかった。
ベッテルにすれば、結果的にバトンを利する走りをしてしまった。
何とも皮肉な結果である。
バリチェロがレース後にバトンが2ストップに切り替えたことに対して、不満があったのも当然である。
なぜなら、ピット戦略が同じであれば、燃料が多いバリチェロが前に出て、燃料補給を遅め遅めにすれば、バトンに抜かれることはあり得ない。
バトンを2ストップに変更するのであれば、自分も2ストップにしたい。
それが、バリチェロの本音だろう。
確かに、バリチェロが破れた原因は第三スティントでの失速である。
しかし、ロス・ブラウンは3ストップ作戦がバリチェロにとって難易度の高い作戦であったことも、わかっていただろう。
ロス・ブラウンが本当にバリチェロが3ストップで勝てると思っていたかどうかは、興味深い。
実際、ベッテルがマッサに抑えられずに、2ストップをこなしていれば、バリチェロの2位はかなり怪しかったと思う。
ロス・ブラウンの思い描いていたレース展開は、スタートで軽いバトンが先行し、奇数グリッドを活かしてバリチェロが2位で追いかける。
最悪、バリチェロはKERSのマッサに抜かれても、バトンの1位は安泰である。
しかし、バリチェロの好スタートにより、全てのシナリオは狂った。
バリチェロが2位の場合でも、彼を2ストップに作戦を変更したのであろうか。
結局、最初からロス・ブラウンは基本を3ストップにして、ポールを取りスタートから逃げて、遅いマシンに引っかかりそうだったら、2ストップに切り替えるつもりだったのだろう。
臨機応変な作戦。
それこそが、ロス・ブラウンの真骨頂である。
では、ライバルチーム レッドブルの場合はどうだろう。
part2へつづく
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