バリチェロがバトンに負けた本当の理由
バリチェロがバトンに負けた本当の理由
バトンの逆転優勝で終わったスペインGP。
レース後のバリチェロには、明らかな落胆と苛立ちの表情が読み取れた。
なぜ、バリチェロは不満の表情を見せていたのだろうか。
ラップタイムを眺めていると、おもしろい事実が見えてくる。
まずは、バトンとバリチェロのピットストップのタイミングを見てみよう。
バトン
第一スティント:18周
第二スティント:30周(18周目)
第三スティント:18周(48周目)
バリチェロ
第一スティント:19周
第二スティント:12周(19周目)
第三スティント:19周(31周目)
第四スティント:16周(50周目)
66周のレースなので2ストップだと22周毎にストップするのが理想的。
だが、予選で上位に行きたいので、第一スティントは短くなる。
当然、その分をどこかで長く走らなければならない。
3ストップだと、16~17周毎にピットインしたい。
バトンは元々、3ストップのつもりでスタートしているので、第一スティントは短いと思いきや、3ストップにしては多めの燃料を積んでいたことがわかる。
これは、ロス・ブラウンが途中で3ストップから2ストップに変更することも、考慮していたことの、証ではないだろうか。
バトンはスタート後に、2ストップに変更したので、第二スティントが非常に長い。
彼らは第三スティントのハードタイヤで走る距離を少なくしたいので、必然的に第二スティントの距離が長くななった。
一方の、バリチェロは第二スティントが極端に短い。
これは、最初のストップの後で、ニコ・ロスベルグの前に出したかったからである。
タイムの推移を見ると、第一スティントでは、二人はほぼ同じタイム。
バトンはバリチェロより燃料が軽く速く走れたが、バリチェロが前にいたので彼に付き合う形となった。
第二スティントでバトンは30周分の燃料を追加した。
2ストップに切り替えたからだ。
一方、バリチェロは3ストップのままで、しかもニコの前で戻るために12周分しか積まなかった。
半分以下の燃料しか積んでいないバリチェロはこの間、バトンより1秒近く速いが、これは燃料搭載量を考えれば当然の結果である。
バリチェロが二度目のピットを終えコースに戻ったとき、19周分の燃料を搭載していた。
この時のバトンの残りの燃料は17周分で重量的には、ほぼ同じ条件である。
このスティント前半のバリチェロは、バトンより0.5~0.7秒遅い。
燃料搭載量がバトンより2周分多いとはいえ、重量差以上に差が大きい。
このサーキットは、重量がタイムに与える影響が他のサーキットに比べ大きいとはいえ、履き替えたばかりのタイヤを履いているバリチェロのタイムとしては、不満が残る。
彼は第三スティントで、タイヤかマシンに問題があったと発言しているが、三回目のピットに入る直前(燃料の軽い状態)はバトンと遜色のない1分23秒台前半のタイムを出している。
これは、タイヤかマシンに問題があると出せるタイムではない。
つまり、バリチェロはマシンやタイヤに問題があって負けたわけではなく、単純に第三スティント序盤でタイムが出せなかったから負けたのである。
実際、レース後にタイヤや空気圧、マシンに問題があったとの報告はない。
しかし、バリチェロを責めることはできないだろう。
3ストップは、全周回で予選アタックを続けなければならない。
これは、鍛えられたF1ドライバーとはいえ、精神的にも肉体的も困難なことである。
しかも、バリチェロは今年37歳になる。
その彼に3ストップをさせるのは、かなり無理があるだろう。
実際、レース後の彼は疲労困憊であった。
ロス・ブラウンがバリチェロに3ストップができると思っていたかどうかは、非常に興味深い。
そして、バトンが3ストップのままだと、彼の逆転優勝はなかったのも事実である。
だが、バトンが3ストップのままだと、ブラウンGPが1-2フィニッシュできていたかどうかは疑わしい。
ウェバーは、バリチェロの背後まで迫っていたし、ベッテルが終始マッサの後ろに閉じこめられるという幸運もあった。
結局、ロス・ブラウンは、バトンを2ストップにした方が、勝つ可能性が大きいと判断した。
バリチェロが頑張って、バトンの前でレースに戻って勝てば、それはいい。
だが、バリチェロの3ストップに不安が残る状況としては、勝つ為には当然のリスク・ヘッジをしたといえる。
バリチェロはロス・ブラウンも指摘しているとおり、第三スティント序盤でのタイムの伸び悩みが、敗因となった。
だが、バリチェロはいつバトンの作戦変更を聞いたのだろう。
最初のストップの後であれば、その時点でバリチェロの2ストップへの変更は不可能である。
バリチェロが、最初にピットインする前にバトンの作戦変更がわかっていれば、彼は2ストップに変更していただろう。
それともバリチェロには、アロンソのようにレース途中で作戦を変更する権限がないのだろうか。
バリチェロの担当エンジニアはバトンの作戦変更を知りつつ、教えなかったのだろうか。
バトンの作戦変更を、バリチェロの担当エンジニアは知らされていなかったのだろか。
バリチェロが勝てなかった原因が彼自身にあることは間違いないが、彼がレース後に見せて不満には理解できる。
彼としては、勝ち負けよりも誰がいつバトンの作戦変更を決断し、それを自分が知るのが遅かった理由を知りたかったはずである。
それこそが、バリチェロがレース後に不満に思っていたことだ。
ロス・ブラウンとしては、心の底からどちらが勝ってもいいと思っていただろう。
リスクを分散しただけと言うだろう。
だが、もしバトンが1コーナーをトップで駆け抜けていた場合、2位のバリチェロの作戦を変更していたかどうかは、興味深い。
どちらにしても、噂されているようなチーム・オーダーは存在していなかった。
だが、バリチェロにしてみれば納得のいかないレースとなった。
これが、後を引かなければいいのだが。
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