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インディアナポリスの真実 後編

ミシュランの対応は遅かったのか? まず、金曜日にミシュランが何らかの対応をとっていれば違う展開があったのではないかという声がある。 では金曜日の時点でのミシュランの空気圧を上げ、マシンのセッティング変更をチームに指示した対応は間違いだったのか。 タイヤはゴムでなく、その中に入っている空気の力でマシンの荷重を支えている。 空気圧が低いと当然マシンを支える力が低下するが、一般的にグリップはよくなる。 今シーズン、ピットインする際に空気圧の調整をして前後のグリップバランスを調整しているのはこの為だ。 さらに空気圧が低いと高速走行時にタイヤがたわんでタイヤが破壊されるスタンディング・ウェーブ現象が発生することがある。 だから金曜日の時点でトヨタの装着したタイヤの空気圧が低かったのであれば、それを高くし様子を見ようとしたのは正常な判断だったかもしれない。 ただトヨタの関係者は事故後のラルフ・シューマッハーのタイヤを見て異常だと感じているし、ミシュランのエンジニアもそれを確認していた。 この時点ではミシュランは問題がトヨタ独特の問題なのか、タイヤの問題なのか把握できていなかった。 ここで、これ以上の対応を期待するのは難しいだろう。 ▽速度制限案 シケイン設置に反対したFIAが導入を同意した速度制限はどうだろう。 もしこの時、ミシュランがこの案を受け入れていたら、あの悲劇は起こらなかった可能性が高い。 しかしこれにも問題があった。 ミシュランがこれ以下だと大丈夫という、安全速度を示せなかったのだ。 ミシュラン自身もタイヤトラブルの原因がわからない中で、何キロ以下だったら大丈夫というデータを持っていなかったのだろう。 安全な速度がわからなければ、速度制限をかけられないので、この速度制限案も実現しなかった。 また、ミシュランはブリヂストン勢にも速度制限を課すことを求めたが、これはFIAが認めなかった。 これは当然だろう。 ▽タイヤ交換案 FIAはペナルティはあるが、タイヤ交換は認める立場をとっていた。 問題は新しく持ち込むタイヤが大丈夫なのかどうかだ。 新しく持ち込む予定のバルセロナ仕様のタイヤはUSGPに持ち込んだタイヤと同じ構造だったと伝えられている。 するとバルセロナ仕様のタイヤが安全であるかどうかは走らせてみないとわからない。 新しいタイヤを走らせて安全性を確認しなければいけないし、さらにセットアップする時間も必要だ。 この案も日曜日朝の時点で調査の結果、トラブルが深刻でタイヤの根本的な問題であるとミシュランも認識し、構造が同じタイヤでは乗り切れないと判断し実現しなかった。 ▽シケイン設置案 シケインの設置はFIAがかたくなに拒絶した。 きちんとしたタイヤを持ち込んでいるチームが不利益を被るからと言う理由からだ。 これに対しても批判があるようだが、私の意見は少し違う。 FIAのこの判断はF1と統括する組織としては、当然だと思う。 ジャン・トッドは「もしフェラーリがタイヤトラブルを抱えて、シケインの設置を要求したらミシュラン勢は同意していただろうか?」と述べている。 おそらく同意していないだろう。 また、ノンタイトル戦で走行するのも観客や視聴者をバカにしている。 あなたがプロ野球の公式戦の高いチケットを買って見に行って、それが知らない間にオープン戦に変わっていたら怒らないだろうか? 試合がないよりましだという意見もあるだろうが、私はそれにくみしない。 どちらにせよ、この最終案はFIAとマックス・モズレーにより葬り去られた。 ちなみにシケイン設置に関して、フェラーリはチーム間での話し合いには参加しなかった。 後にジャン・トッドはもし相談されていても拒否したと述べている。 彼はまたノン・チャンピオンシップレースになった場合、参加しなかっただろうとも述べている。 ▽誰の責任なのか? さてあなたはどう判断するだろう。 今回の事態を招いた責任が誰にあるかを。 チームに責任はないように思われる。 彼らは最後までレースに参加できるように努力していた。 ロン・デニスはタイヤ交換してブリヂストン勢6台の後ろからスタートしてもよいと話している。 タイヤメーカーにシケインが設置されなければ、安全性を保証できないと言われればどんなチームも走行することは不可能だ。 ではFIAが悪いのか? 私はタイヤサイズを制限することでFIAにも間接的には責任があると思っている。 しかし、今回の事態に当たってFIAは珍しく首尾一貫した対応を取っている。 それはシケインの設置は認められないが、他の方法を取ることは認めるというものだ。 シケインを設置した場合、マシンのセッティング変更も必要だし、なによりブレーキに余計な負担がかかる恐れがある。 シケイン設置をしてブレーキトラブルが発生し、クラッシュが発生した場合に誰が責任を取るのか? FIAがこの案を採用できなかったのはここに理由があると考える。 タイヤ交換を認めないルールが今回の事態を招いたという意見もあるようだが、1周しかしていないマシンでもタイヤにトラブルが見つかっているので、これは今回の事件とは直接関係ない。 20回も30回もタイヤ交換なんて現実的にできないし、ブリヂストンは安全なタイヤを持ち込んでいるのだから。 ブリヂストンはFIAに一任していたし、フェラーリは話し合いには参加していなかったから責任はない。 フェラーリがFIAやバーニー・エクレストンへ非公式に自分たちの意向を伝えていた可能性はゼロではないが。 そして、ミシュランはシケイン以外の方法を拒否した。 彼らにはそれしか選択肢がなかった。 バルセロナ仕様のタイヤも危険性がないと証明できなければ、ペナルティを覚悟してタイヤ交換しても危険なことは代わりがない。 速度制限も安全な速度がミシュラン自身わからないので、それをFIAに伝えることが出来ない。 最後の最後まで各チームは何とかレースが開催できるように奮闘した。 ミシュランがシケインなしでの安全性を保証しないと言うのであれば、シケインを設置してノンタイトル戦で開催するしかない。 バーニー・エクレストンとチームはそのようにFIAに働きかけた。 ほとんど合意しかかったらしいが、最後はFIAが拒否した。 つまりインディアナポリスでは全ての人間がレース開催に向けて努力していた。 しかしFIAとミシュラン及び9チームとの主張は平衡性をたどる。 その焦点はひとつ。 シケインを設置するか否か? FIAはこれ以外は譲歩する姿勢を見せたが、これだけは拒否し続けていた。 チャンピオンシップ戦として開催されるGPを直前に、ノンタイトル戦にすることもFIAにとっては難しかったろう。 ミシュランにはシケイン設置しか方法がなかった。 そしてあの事態が起こった。 幸いだったのはジョーダンとミナルディが裏切って、走行したことくらいだろう。 そうでなければフェラーリに2台だけのレースという事態になっていた。 (4台増えてもたいした違いはないという意見もあるだろうが) インディアナポリスにおいて各関係者は全力をつくして正常なレース開催へ向け努力した。 しかし、最後までシケイン設置という一点に置いて同意が得られなかった。 状況を知れば知るほど、この事態を避けようとみんなが努力していたことがわかる。 しかも、彼らに残されていた時間は日曜日朝から決勝スタートまでの数時間である。 できることは限られている。 彼らの現場対応だけを見れば、誰にも非がないと考えたい。 これは起こるべくして起こってしまったように思える。 このような事態を防ぐ方法はただひとつGPをキャンセルすることである。 なにしろタイヤが危険だという、緊急事態である。 キャンセルして中止にするか、別の日程で開催するしかない。 ただこのような重要事項を決定するには、日曜日の午前中という時間はあまりにも短かった。 マックス・モズレーがサーキットにいなかったことも痛かった。 現場にいれば彼の判断も違っていた可能性もあると思う。 ▽そして、話は最初に戻る そうなると、やはり責任は危険なタイヤを持ち込んだミシュランにあると考えたい。 もちろんタイヤは工業製品だから、絶対安全な製品はあり得ないのかもしれない。 しかし、タイヤとブレーキについては安全な製品でなければならない。 その理由は言わなくてもわかるだろう。 この二つは安全性に関して決定的な役割を持つ重要な部品だからだ。 ミシュランは想定される状況よりも過酷な状況でテストし、マージンを持たせた製品を持ち込むべきであった。 それを怠ったミシュランの罪は重い。 実はミシュランはUSGPに使用するタイヤを、フランスはポールリカールでのテストで決めている。 その時にブルツとゾンタのマシンにタイヤトラブルが発生していたらしい。 この時ミシュランはブルツのタイヤは回転方向が逆に取り付けられていて、ゾンタのタイヤは単なる品質不良の可能性があると判断した。 直接的な関係は薄いが、ミシュランにとって今年からオーバルコースの路面状況が変わったこともハンディとなった。 全周回路にわたって溝がつけられて、摩耗が進む症状に苦しんでいたのだ。 ブリヂストンはIRLにタイヤ供給していることもあり、これに対する経験があった。 彼らが自らのタイヤが危険であると申し出たのは素晴らしいという意見もあるようだが、私はそのようには考えない。 彼らは単に危険なタイヤで走らせて、事故が発生した場合の訴訟リスクを回避しようとしたのだと思う。 アメリカは訴訟大国である。 タイヤが危険なことを承知で、観客が死傷するような事故が発生した場合、ミシュランはその存在すら脅かされるほどの賠償が必要となるだろう。 インディアナポリスのバンク部はコースと観客席が隣接しているので、事故が発生した場合の危険性は高い。 もちろん安全でないタイヤを履かして、ドライバーを危険にさらすことは、まともな人間であればできないことだろう。 彼らは当然のことをしたまでだ。 ミシュランはいまだに公式な謝罪もしていないし、原因も発表していない。 彼らがあきらかに強度不足のタイヤを持ち込んだのは、確かだ。 世界のF1ファンにきちんとした説明をする義務は彼らにある。 ミシュランがこれまでモータースポーツに多大な貢献をしたことは認める。 彼らは常に時代の先端を行き、各カテゴリーのリーダーでもあった。 そのミシュランの失態を私は、驚きをもって受け止めている。 それだけに早く原因の究明と説明を求めたいと思う。 そして、もう二度とこのような事が起こらないように望む。 それが全てのF1ファンの望むことなのだから。

2 thoughts on “インディアナポリスの真実 後編

  1. euro r 8484

    ミシュランは今年前戦までのレースにおいてブリジストンと比べてかなり優位であった。まさかその事で浮かれていて、現実(去年のことも含めて)を甘く見ていたのだろうか?今回の件は単純にサーキットに適合したタイヤを持ち込めなかったミシュランに責任がある。ミシュランの発表の記事を読んだが、ブリジストンがこのサーキットでタイヤの供給を他のカテゴリーで行っていることを差し引いて考えても、「あなた方はそれでもプロフェッショナルなのか?」と言いたくなる内容だ。お粗末極まりない。サーキットが特殊だから、事前のテストが出来なかった等…。怒ることを通り越してあきれ果ててしまいそうだ。
    F1はスポーツである以上例えそれが必ずしも適切でないものであってもルールはルールだ。少なくとも今回のFIAのとった行動にはえこひいきがなく納得できる。(6月にはタイヤメーカーに「安全なものを作ってね!」と指導もしている。)タイヤが高速走行に耐えられないのでシケインを設置しようなどという事態はありえないことです。
    (Michelin is alien.下らないと笑ってください。)
    若干コースが改修されたとはいえ全く未知の世界のサーキットを走るわけではないのだから、なぜシケインを設置という事態になるの?ブリジストンも安全でないタイヤだったら話は解ります。世界に名を売っているメーカーとあろうものが情けなくも既知のサーキットにあわせた安全で且つ速く走ることが出来るタイヤを持ちこめなかったけれど、サーキットに来られているお客さんやTVで観戦されている世界中の皆様のことを考えるとレースを中止にはできないので、何か特例の措置を施してレースをしましょうと…
    先日のアメリカGPは色々な状況から判断して、結果としてあのようにならざるを得なかったのでしょう。個人的にはジョーダンとミナルディはよく参加してくれたと思います。
    安全を保障されないタイヤであることが解っているのに参加するチームはありません。(事故が発生したときに責任をとらなければならないから。)
    唯一安全であったと思われるのはピットレーンを走行するという選択肢だが、ミシュランユーザー全車が毎週ピットレーンからコースに戻るという状況を考えると、これも安全であるとは思えない。
    やはりチームとしては「参加したくても参加することが出来ない」がもっとも的確な状況だったのではないでしょうか。
    ミシュランが安全を保障できないと発表したのは当然です。
    だって「もたないタイヤ」なのですから。もたなかったらどうなるかって?ドライバーのみならず観客にまで被害が及びます。ミシュランの声明文としては「うちの提案(シケイン設置)をFIFAが却下したからレースには参加できなかった。」ではなく、「レースに参加することが出来ないタイヤしか持ち込めなかったので申し訳ない。」だと思います。
    今後ミシュランや参加したくても出来なかったチームにどんなペナルティが下されるか解りませんが、不参加によるイメージダウンやポイントの喪失の方が万が一の場合よりも絶対に安くつくはずです。
    当日チームに出来ることはあれが限界だったのでしょうが、ビジネスでもあるF1にとって結果として損失を与えているので、今後もF1に参加し続けるのであればペナルティを受け入れざるをえないでしょう。
    ミシュランはともかくチームとしてはそのタイヤメーカーを選択した責任があります。ペナルティを受けても仕方ないでしょう。ドライバーのポイントまで絡んでくると可哀想です。ドライバーも被害者です。でも一番がっかりしているのはGPに訪れた観客であり、その他世界中の視聴者だと思います。
    ”警告!ミシュランは同じ間違いをまた犯す”をよんで、
    「ぷちっ!」となりついつい長くなってしまいました。
    思わぬ展開で今後どうなるか予断を許さない状況になってきましたが、これからも楽しくF1を観戦することが出来ますように♪ 頼むぜミシュラン!
    なかなか文章を書くというのは難しいものですね。
    いつも理路整然とした文章を書いておられる仙太郎さんには感心、いや尊敬しております。
    これからもこのサイトを楽しみにしています。
    色々な方と意見の交換ができると面白いですね。

  2. Blog AGOHIGE

    アメリカGPを振り返って、いろいろ考えてみる。

    結局、最後まで見てしまったわけだが・・・

    まずお断りから。
    以下の文章は、テレビ中継から得た情報と個人的に収集した情報を元にしたものなので、
    間違い・勘違い等があれば指摘していただければ幸いです。
    また、文章量が多いためフォントを小さくしました。読

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