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2010 RD12 ハンガリーGP観戦記

▽ウェバー逆転の4勝目 三連続ポール・ポジションのベッテルは、絶対に勝ちたいレースだった。 3位のアロンソに1.2秒差の大差をつけてのポールポジション。 同じマシンに乗る2位のウェバーにも0.4秒の大差をつけて圧倒的な速さを見せつける。 このテクニカルなハンガロリンクでこれだけの差を見せつけるレッドブルとベッテル。 スタート以外は、全く死角はないように思えた。 ベッテルは過去二回ポール・ポジションからスタートに失敗。 今回はその失敗を繰り返さないために、クラッチのトルクセンサーの記録を取る機器を新品に交換。 今のF1はフォーメーションラップで加減速を繰り返し、リアタイヤの滑り具合を見て路面のグリップ状態を把握。 その路面に合わせたクラッチのミートポイントを設定して、適切なスタートをきるので、大きな失敗は少ない構造になっている。 レッドブルは過去二回のスタート失敗は、そのデータをとるロガーにも原因があるのではと考え、交換してきたのだろう。 路面状況のデータが正確に取れなければ、当然クラッチのミートポイントも正確に設定できない。 さらにベッテルは今回、ギアボックスも新品に交換。 万全の準備でスタートに臨んだ。

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 1コーナーまでの距離が今年のサーキットで三番目に長いハンガロリンク。 ベッテルは路面状態のいい有利な奇数グリッドを生かしスタートに成功。 1コーナーでアロンソに迫られるも押さえきり、トップをキープする。 その後は予想通り1周1秒アロンソを引き離し、難なく独走態勢へ。 ベッテルのライバルとなるはずのウェバーは、ダーティーサイドの偶数列スタートで動き出しは悪くなかったが、その後の加速が鈍く、アロンソに抜かれて、3位でレースを展開する。 ハンガロリンクは、抜くのが極めて難しいサーキット。 1周1秒早くても抜くのは難しい。 ただアロンソが早くピットに入れば、そこからスパートして、抜くことは可能。 彼はタイヤを温存しながら、アロンソの後方でチャンスを待つ作戦。 ここでタイヤを温存したことが、後々大きな意味を持ってくる。 だがこの時点では、ベッテルに差をつけられており、彼に何か起きなければ、ウェバー勝利のチャンスはほぼ潰えていた。 ところが15周目、スーティルの部品が路上に落下。 SCが入り、レースは大きく動いた。 SCが入ってすぐにベッテルはピットに向かい、その他のマシンも続々とピットへ。 ここでウェバーは、ステイアウトを決断。 彼はピットインを遅らせて、アロンソの前に出ることを選んだ。 この時点でウェバーは1位、ベッテル2位、アロンソ3位。 ウェバーはソフトタイヤでベッテルとアロンソはハードタイヤであった。 レース前にはソフトはハードに比べて、1周あたり0.3秒ほど速い予想だった。 タイヤのタレはソフトがハーフディスタンスで1秒から2秒、ハードのタレはないという予測。 これは二つのタイヤのパフォーマンスの差が極めて少ないことを意味している。 ところがラバーがのり路面コンディションが、劇的に改善された路面でソフトタイヤは予想以上の持久性をみせる。 SCが入った後のウェバーはソフトタイヤで、脅威のラップタイムを記録していく。 ソフトタイヤのウェバーは、2位以下に1秒近い差をコンスタントにつけていく。 ベッテルとアロンソの履くハードタイヤの温まりは悪く、SC明けの数周は2秒の差があることもあった。 それでもベッテルはウェバーとの差を10秒以内に抑えて、彼のピットインのタイミングでトップに立つ予定だった。 ところが、ここでベッテルにペナルティが下される。 SC先導下で前走車ウェバーとの車間距離を十車身以下に保たなければならないルールを破り、離れすぎてしまったのだ。 このルールはドライバーが極端に遅く走ることで、後方で混乱が起きることを抑制するためのルールだ。 このペナルティに怒りを示していたベッテルだったが、SCがピットに戻る周の最終コーナー一つ手前で、極端にウェバーとの差を広げる意味がよくわからない。 もちろんベッテルは、加減速を繰り返しタイヤとブレーキを温めようとしたのだろう。 だがあれだけウェバーとの差を広げてしまえば、SC明け直後の1コーナーでウェバーにプレッシャーを掛けることができない。 実際、スタートライン上でベッテルはウェバーの遙か後方であった。 それともベッテルは、どうせウェバーは一度ピットインするから問題ないと考えたのか。 それよりも後方のアロンソに抜かれない方が重要と考えたのか。 少し理解に苦しむ、ベッテルの走りだった。 私は最初、これはエンジニアに問題があると思った。 ドライバーは全てのルールを覚えているわけではない。 だからエンジニアがベッテルに車間距離に注意するように、喚起しなければならないと。 だがVTRを見るとSCのインラップの最終コーナー近くで急に減速されたら、エンジニアは何もすることができない。 チームから指示が出たとは思えないので、彼自身の判断だったのだろう。 これでウェバーは、タイヤ交換してもトップで戻れる可能性が出てきた。 その後もウェバーは驚異的な速さを見せつける。 ラバーがのってきたソフトタイヤは予想以上に速さを持続する。 ウェバーは毎周2位アロンソに約1秒の差をつけ、レースの半分以上を走り43周目にピットイン。 これはブリヂストンの予想を遙かに上回る寿命だった。 その時点で2位アロンソに20秒以上の差をつけおり、タイヤ交換後もトップで戻ることに成功。 そして、スタートを失敗して勝ち目のなかったウェバーが、そのまま優勝。 今シーズン4勝目をマークし、ドライバーズ・ランキングでもトップに返り咲いた。 ウェバーと彼のエンジニアが、ここまでソフトタイヤのタイムがよく、しかも持続できると読み切っていたとは思えない。 アロンソの前に出るために、ステイアウトしたと考えるのが正しいだろう。 結果的にベッテルのペナルティとタイヤの予想以上の持ちがウェバーに味方した。 絶対的な速さを持っていたベッテルは2位のアロンソに迫るが、追い抜きはできなかった。 アロンソも最終コーナーの立ち上がりさえ失敗しなければ追い抜かれることはないと理解してリアタイヤを丁寧に扱い、最後まで逃げ切った。 またも勝てなかったベッテルだったが、ウェバーとの得点差は10ポイントでランキングは3位。 3レース連続で勝てなかったにしては、悪くない位置だ。 今のところ、速さに関してはレッドブルとベッテルは最速を維持している。 彼はきっかけがあれば連勝することも可能であり、まだまだチャンピオンシップの行方はわからない。 ▽チャンピオンの行方 今回のレースはレッドブルがあまりにも速すぎて、他のドライバーは全て脇役となってしまった。 ここではレッドブルと競争できると予想されたフェラーリも歯が立たず。 スタートでウェバーの前に出るところまでは、よかったがその後抜かれてからは手が届かなかった。 それでもアロンソはベッテルの前の2位でフィニッシュ。 ランキングではトップのウェバーの20ポイント差の5位にまで詰めてきた。 一方のマクラーレンは、ドイツGPからの低落傾向に歯止めがかけられなかった。 信頼性抜群だったマクラーレンのハミルトンは、ギアボックストラブルでリタイヤ。 痛すぎる無得点レースになってしまった。 バトンも8位がやっとでランキングを4位に落としてしまう。 次のベルギーもレッドブルが速いことが予想されるので、この2チームは開発スピードを上げていかないとレッドブルに対抗するのは難しいだろう。 ▽ミハエルの危険なドライビング ミハエル・シューマッハーがまたやってしまった。 ストレートで抜きにくるバリチェロをピットウォールに幅寄せ。 バリチェロはぎりぎり難を逃れたが、埃を巻き上げながらコースに復帰するくらいコースサイドに押し出された。 バリチェロのマシンと壁の隙間はほとんどなく、大惨事になってもおかしくなかった。 レース終了直後は謝る気配がなかったシューマッハーだったが、その後VTRを見て、自分のした行為がいかに危険なのか認識したらしい。 メルセデスのHPで謝罪している。 もっとも彼がこのような行為をするのは初めてでもないし、おそらく最後でもないだろう。 これがシューマッハーらしさであるとも言える。 今年はおとなしいレースが多かった彼だったが、今回は現役時代並のファイティングスピリットを見せた。 だが、さすがのシューマッハーも今回は少しやり過ぎだった。 彼がFIAの交通安全キャンペーンの大使を務めていることはかなりの皮肉である。 これでミハエルはベルギーGPで予選10番手降格のペナルティを受ける。 スパは彼の最も得意とするサーキットであるが、苦しい戦いを強いられそうだ。 ▽進化する可夢偉 可夢偉がまた見せてくれた。 予選では車検審査への誘導のサインを見落とし、そのまま直進。 これで5グリッド降格のペナルティをもらい、23位と最後列からのスタートになる。 予選で、トラフィックに悩まされたのと、タイヤの使い方を間違えた可夢偉は、この時相当頭に来ていたのだと思う。 抜き所のないハンガロリンクでこのポジションは、さすがの可夢偉も難しいと予想されたのだが、見事にその予想を覆してくれた。 スタートダッシュで混乱に乗じて16位まで順位を上げる。 SCが出たときも他のドライバーより1周遅れてピットインして11位。 前を走る遅いバリチェロがタイヤ交換をレース中盤まで伸ばしたことにより、彼より後ろのドライバーのタイムが伸びなかったことも彼には幸いした。 その後、ハミルトンがリタイヤして10位にあがり、最後はバリチェロがピットインして9位にポジションアップ。 そのまま入賞圏内でフィニッシュした。 予選でのミスがあり、台無しにしかねないレースを一転入賞に結びつける可夢偉は進化を続けている。

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