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2010 Rd19 アブダビGP観戦記 Part1 ベッテル大逆転への道

 ▽ベッテル大逆転への道 まさに大逆転と呼ぶべき結果となった。 ベッテルの逆転は可能だったが、それはアロンソに何かトラブルかアクシデントがあるときに限られると思われていた。 しかしアロンソにトラブルもアクシデントも起きなかった。 それでもベッテルの逆転は現実となった。 このレースでは多くの出来事が起こり、それらが一つになって大きなうねりを巻き起こし、アロンソはその渦に巻き込まれていった。 まず、レースを振り返る前にレース前の状況を確認してみよう。 アロンソ  246pts ウェバー  238pts ベッテル  231pts ハミルトン 222pts これがブラジルGP終了後のポイント数である。 そして、各ドライバーのチャンピオンの条件は下記の通りだった。 アロンソは2位以上で自力チャンピオン。 ウェバーは優勝して、アロンソが3位以下がチャンピオンの条件。 ベッテルはさらに厳しく、優勝してもアロンソが5位以下でなければ逆転できない得点差。 ハミルトンは優勝してもアロンソがノー・ポイントの必要があった。 この状況を考えると、アロンソが有利だが、ウェバーにもチャンスがあり、ベッテルの可能性はかなり小さく、ハミルトンには奇跡が必要だった。 日本GP以降のシーズン終盤戦、フェラーリとレッドブルの2チームはライバルとの差を広げていた。 その為、アブダビでマクラーレンが優勝争いに絡んでくることを予想するのは難しかった。 ところがアブダビで予選が始まると驚くべき事態が発生し、事態は動き始める。

 終盤戦に入り失速していたマクラーレンが速い。 彼らは執念を見せ、ここで新しいリア・ウィングを投入し、Fダクトの効率を更にアップしてきた。 さらにスムーズな路面が、サスペンションの固いマクラーレンにはあっており、 ハミルトン、バトン共に速いマクラーレンは予選で2位と4位。 最後の最後にフェラーリはアロンソが3位にねじ込んだが、これはアロンソ渾身のアタックの成果であり、マシンの戦闘力は明らかにマクラーレンがフェラーリを上回っていた。 これはフェラーリを慌てさせるのに十分だった。 ベッテルが優勝しレッドブルが1-2フィニッシュでもアロンソは3位に入ればチャンピオンだ。 ところがここにマクラーレンの二台が割り込んでくると、アロンソは5位で、ベッテルに逆転される。 これはフェラーリ陣営には嬉しくない状況だ。 アロンソはこの4台の一台を必ず食わなければならなくなった。 それでもギリギリ予選3位になったことで、アロンソの前は開けてきたように思われた。 このコースは普段レースがおこなわれないので、レコードラインとそれ以外のグリップの差が激しい。 またオフラインには細かい砂も乗っていて、さらに状況を悪化させている。 その為、一度前に出ることができれば速い後続車を抑え込むことは可能である。 ところがスタートでそのシナリオが崩れた。 抜群のスタートを決めたバトンがアロンその前に出た。 これでアロンソは4位。 まだベッテルが優勝してもアロンソはチャンピオンになれる順位だが、後続のウェバーは絶対に抜かれてはならない順位で、フェラーリとアロンソには大きなプレッシャーがかかる状況となった。 そして、ミハエル・シューマッハーとリウッツィの衝突でSCが入りドラマは動き始める。 この機会を利用してタイヤ交換の為に6台がピットインし、コースに戻っていく。 この中にニコ・ロズベルグとペトロフがいた。 さらにSCが明けた直後にドラマが加速する。 ウェバーがターン19でアウト側のウォールにリアタイヤを軽くヒット。 彼のリアタイヤはグレイニングがひどく、ひどいオーバーステアになっていた。 ウェバーは、タイヤ交換するためにピットへ向かう。 そしてタイヤ交換後の彼のタイムはフェラーリを上回っていた。 ここでフェラーリは決断を下す。 彼らはアロンソをウェバーの前で戻そうとタイヤ交換を決断。 そしてタイヤ交換を実施して、ウェバーの前でアロンソを戻すことに成功する。 彼らの考えとしては、ベッテルが優勝してマクラーレンの二台がそれに続いても、アロンソがウェバー前でフィニッシュできれば4位になれると考えたのだろう。 この場合、アロンソがチャンピオンである。 ところが彼らの前には序盤のSCでタイヤ交換を済ませていたロズベルグとペトロフがいた。 そして彼らの存在がチャンピオンシップを左右することになる。 あっという間にペトロフに追いついたアロンソだが、抜けない。 彼を助けると思われた、抜きにくいコース特性が逆にアロンソを苦しめる。 しかもこの日のペトロフは彼のベストレースではないかと思われるような素晴らしいドライビングを見せた。 効率の良いFダクトを持ちストレートスピードの速いペトロフを、アロンソは抜けない。 ペトロフのルノーは直線前の重要なターン7での立ち上がりでも抜群のトラクションを見せ、アロンソを寄せ付けない。 無理のないドライビングでタイヤを痛めないペトロフはアロンソを抑え続ける。 その間にタイヤ交換を先延ばしにした上位陣は、毎ラップ1秒前後アロンソとの差を広げる。 ベッテルとマクラーレンの二台は悠々とタイヤ交換し、トップ3をキープ。 想定を超える最悪の事態に焦るアロンソがペトロフを攻めるが抜くことはできない。 リタイヤだけは絶対に避けたいアロンソは無理ができず、チャンピオン争いにかすりもしないペトロフは、マイペースで走り続ける。 そして状況は更にアロンソに不利になっていく。 ピットストップを先延ばしにしたクビサが46周目にタイヤ交換し、ペトロフの前でコースに復帰。 残り9周の時点で、アロンソは3台抜かなければチャンピオンになれない状況になってしまう。 ここまでくればベッテルに何かが起こる以外、アロンソにチャンスはない。 そしてベッテルとアロンソが共にフィニッシュし、大逆転劇が実現した。 ▽歴史に「もし」はないのだが いくつもの「もし」がある。 もし序盤にSCが入ってなければニコとペトロフはピットインしていなかった。 もしウェバーがもう少し我慢してタイヤ交換しなければ、もしくは壁に当たってリタイヤしていれば、アロンソはピットインを先延ばしにしていただろう。 もしアロンソがペトロフに抑え込まれていなければ、クビサが5位でコースに戻ることはなかった。 その全てがアロンソに不利に働いた。 だが私はアロンソが不運でタイトルを取り逃がしたとは思わないし、ベッテルが幸運でチャンピオンになったとは全く思わない。 長いシーズンを戦っていくと幸運と不運は同じようにドライバーに降りかかってくる。 シーズンを通してみるとベッテルの不運の方が多いくらいだ。 そう考えるとベッテルはチャンピオンにふさわしいドライバーといえる。 最速マシンにのった最速ドライバーがチャンピオンになるのは当然である。 ではアロンソはチャンピオンにふさわしくなかったのだろうか。 私はそうではないと思う。 彼はよくて2番手、遅いときは3番手のマシンをドライブし、最後の最後までチャンピ オン争いをした。 終盤に上げた3勝はどれも素晴らしい勝利だった。 アロンソ以外のドライバーが成し遂げることはできなかっただろう。 彼もまたチャンピオンの資格があったのだ。 ただ今年は彼の年ではなかっただけである。 今後のF1はアロンソとベッテル、ハミルトンを軸に動いていくだろう。 3人のチャンピオン経験者が2011年は激しいバトルを繰り広げ、今年以上の激しい チャンピオン争いが繰り広げられることを期待しよう。

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