▽フェラーリの作戦はミスだったのか? レース後、フェラーリの作戦を責める論調が多い。 だが本当にそうだろうか。 フェラーリはベッテルとマクラーレンに2台にはかなわないと見て、すぐにウェバーをマークする作戦に切り替えた。 そしてアロンソはウェバーの前でレースに復帰。 彼らの目的は達成できた。 次のターゲットは前を走るペトロフ。 今までの彼であれば、アロンソからプレッシャーを掛けられれば、すぐにミスをするか、焦ってタイヤを酷使しトラクションを失い抜かれていた。 当然、今回もそうなると予想しても、おかしくない。 もしアロンソがペトロフを抜いていれば、前を走るロズベルグに追いつくのは容易だ。 もちろんオーバーテイクするのは難しいが、直線スピードにまさるルノーよりは接近できただろう。 そう考えるとフェラーリのとった作戦を、単純に失敗と片付けられないと思う。
確かにアブダビのコースは抜きにくいサーキットである。 だが全くオーバーテイクがなかったわけではない。 そもそも今のF1のコースで抜きやすいサーキットはごくわずかである。 それに、ペトロフがあそこまでのドライビングを見せるとは誰にも予想できない。 ペトロフが40周近くにわたって、アロンソを抑え続けるなど、誰が想像できようか。 もしアロンソがペトロフとロズベルグを抜いて4位になっていれば、さすがフェラーリ、さすがアロンソとなっていただろう。 アロンソの言うとおり、「全てが終わってから言うのは簡単」である。 もしタイヤ交換をせずに、ウェバーがペトロフを抜いていれば、アロンソはウェバーに抜かれて5位に転落していた可能性だってあったのである。 そうすれば、なぜアロンソはあの時タイヤ交換しなかったのかと責められるのであろう。 今のF1は、各マシンの性能差が縮まり、競争が厳しい。 時間のないあの状況でフェラーリはタイヤ交換するかタイヤ交換しないかの決断を下さなければならなかった。 確かにあのままコースにとどまれば4位の可能性はあったが、タイヤがたれてウェバーに抜かれていた可能性もあるのだ。確かに現実は、ソフトタイヤのグレイニングは路面がラバーがのるにつれ、回復しラップタイムは戻った。 フェラーリは間違った判断をしたが、それを責めることはできないだろう。
後述するように、ベッテルの勝利もまた紙一重だった。 ベッテルが2位の場合、アロンソは7位でもチャンピオンだった。
フェラーリの作戦の是非をレース後に批判することは、誰にでもできる。 あの瞬間、あのプレッシャーの下で正確な判断を下すことは誰にでもできる事ではない。 まさかペトロフがこの最終戦でシーズンベストのパフォーマンスを見せるとは、 ルノーの人間でも予想できないのではないだろうか。 ▽紙一重の勝負 楽勝に見えたベッテルだが、現実はきわどい勝利だった。 予選でのハミルトンとの差は0.03秒。 これを最速レッドブル相手のタイムと考えると、ハミルトンがPPでもおかしくないタイムだ。 本当に紙一重のベッテルのPPだった。 PPスタートのベッテルはそのままトップをキープしたが、もしルイスがPPでトップを維持した場合、ベッテルの立場はかなり厳しかった。 ベッテルが2位だと、アロンソは7位でもチャンピオンだ。 ハミルトンがトップに立った場合、ペースをコントロールできるし、タイヤも持たせることができるので、勝利は実現可能だったと思う。 そして、ベッテルのタイヤ交換時に決定的な場面を向かえる。 ベッテルがタイヤ交換した時、可夢偉とクビサの直前でコースに戻ることに成功した。 先にタイヤ交換を済ませていた、ハミルトンは彼ら二人の後ろだった。 アロンソと同じくハミルトンはルノーのクビサを抜きあぐねてしまう。 同一周回でポジションを争うクビサはハミルトンに順位を譲る必要はない。 その間にベッテルはハミルトンに対してギャップを構築してレースをコントロールしてしまった。 この時、ベッテルがピットでほんの少しタイムロスし、可夢偉とクビサの後ろで復帰していた ら、レースはどうなっていたかわからない。 前には遅いクビサがいて、後ろからは絶好調のハミルトンが迫り来る。 しかもハミルトンは失う物が何もない。 ベッテルにとっては考えたくもない状況だ。 ハミルトンがベッテルをパスするならば、この状況しかなかっただろう。 ところがベッテルがぎりぎりで可夢偉の前で戻ったことにより、状況は一変した。 当然、レッドブルはピットインするときに、可夢偉の前で戻れると判断してベッテルを入れているのだが、それでも僅差であることには間違いがなく、ベッテルの勝利は紙一重だったことがわかる。 今回のハミルトンは素晴らしい走りだったと思う。 前述したように、ベッテルとハミルトンはどちらが勝ってもおかしくない状況だった。 今回はほんの少しベッテルが勝っていただけで、ハミルトンは勝利に値するドライビングだったと思う。 彼は彼にできるベストを尽くしたのだ。 最後まで諦めない彼の走りを讃えたい。 もう一人のチャンピオン候補だったウェバー。 このレースではまったくいいところがなかった。 確かに抜きにくいコースではあるのだが、まったくアタックしない彼のドライビングからは何が何でもチャンピオンになるという意志を感じ取ることができなかった。 彼は日本GP以降、ベッテルに対抗できていなかった。 その差は歴然としており、彼が自分の力でアロンソを逆転することは不可能だった。 ▽可夢偉 入賞ならず ブレーキのトラブルで予選Q2で脱落した可夢偉はハードタイヤでスタートすると予想されたが、今回は他のドライバーと同じくスタート。 可夢偉本人はハードタイヤでスタートしたかったが、チームから反対されやむなくソフトタイヤでのスタートとなった。 ソフトタイヤスタートがあたりオープニングラップで2台を抜いてニコ・ロズベルグにアタックする間際にSCが入り、可夢偉はソフトタイヤスタートをいかせなかった。 その後は、バリチェロに頭を抑えられてペースが伸びない可夢偉。 その為、後続とのギャップを作り事ができず、ピットストップ後は入賞圏外へ脱落。 ブラジルと違い今回は、SCが入らず連続入賞はできなかった。 残念だがザウバーのトップスピード不足を考えると、いたしかたなのないレースだった。