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2011 Rd.3 中国GP観戦記 <br>Natural born racer Lewis Hamilton

 ▽Natural born racer Lewis Hamilton

やはりこの男の速さは普通ではない。 確かにベッテルより7周遅くタイヤ交換をしたので、彼のタイヤの状態は良かった。 だがタイヤの状態を差し引いてもハミルトンは信じられないタイムを連発。 ベッテルに対して1周当たり0.5秒から1秒以上、縮めていくハミルトンのドライビングは驚異的であった。 最後のピットストップを終えた時点でルイスの順位は4位。 ここからコース上で3台を抜き去って、鮮やかな優勝。 最後のピットストップ前にバトンも抜いているので、レース終盤で4台抜いての逆転勝利は、見事と言うしかない。 ほぼ同じ時期にタイヤ交換したバトンはベッテルを逆転できずに、ハミルトンは逆転。 バトンも計算上ではベッテルを逆転できる可能性あったができなかった。 それがハミルトンのすごさであり、タイヤだけが逆転の理由ではないのだ。 ハミルトンの力があって、初めて実現した大逆転劇だった。

 マクラーレンは3ストップ作戦を採用したのだが、これは常に全開ドライビングのハミルトンにはあった作戦だった。 彼はタイヤを労りながら走るというのは、得意ではない。 レース終盤、瞬く間にベッテルに追いつくハミルトンに、ピットから「じっくり攻めるように」と無線連絡があった。 ベッテルのタイヤは周回を経る毎に厳しくなり、ピレリ特有の急激なグリップダウンがいつ来てもおかしくない状況で、周回数を重ねれば重ねるほど抜くのは簡単に思われた。 だが、それでアクセルを緩めるハミルトンではない。 ハミルトンはいつでもどこでも全開ドライビングなので、チャンスをじっくり伺うことなく、一挙にベッテルに襲いかかり、普通はKERSを使わないターン6の立ち上がりでKERSを使い、ベッテルの虚を突いて抜き去ってしまった。 ハミルトンの見事な仕掛けだった。 ハミルトンは真のレーシングドライバーであり、レーシングドライバーになるべく生まれてきた人間なのである。 もっともこれが裏目に出ることもある。 マレーシアでは予選で攻めすぎて、ソフトタイヤにフラットスポットを作って使えなくなり、決勝で使うソフトタイヤが足りず、ライバルより早くハードタイヤに交換して失速、順位を落としてしまった。 だがこれもハミルトンが常に全開でアタックするからこそである。 それも含めてルイス・ハミルトンというスーパーなドライバーなのだ。 かつてマンセルがピケをイギリスGPで抜き去ったシーンを彷彿させる、見事な逆転劇。 フェラーリの復調に時間がかかるようだと、しばらくはハミルトン対ベッテルの対決は続くことになりそうだ。 ▽ベッテル 今季初の敗北 ハミルトンには敗北したが、それでもチャンピオンシップをリードするベッテルにとって2位は、最高の結果とは言えないが、上出来だろう。 タイヤの寿命が尽きれば、一挙に表彰台圏外ということも考えられたからだ。 彼は2ストップのためタイヤを労りながら労りながら走っていた。 それでもハミルトンが後ろから迫ってくると、なんとか引き離そうとプッシュするが、この日のハミルトンには勝てなかった。 3ストップのハミルトンには負けたが、それでも2ストップで2位。 他の3ストップのドライバーよりは上位でフィニッシュできたので、今回はハミルトンの力に脱帽するしかない。 ベッテルが3ストップだったらどうなっていたかはわからないが、タイヤの寿命の予想が困難な中、レース途中でピットストップ戦略を変更することは、難しい決断だ。 負けたとはいえ2位なのだから、この選択を責めるのは酷だろう。 それよりもスタートでの失敗はベッテルにとって、手痛い失敗だった。 ベッテルは、スタートでは回転数を12500回転くらいでクラッチミートしたが、回転数を落としてしまい、1速で失速。 二台のマクラーレンに先行を許してしまった。 エンジニアが考えていたより路面がグリップしてしまったのだろう。 たらればだが、もしベッテルがスタートに成功し、トップでレース展開でき、5秒~10秒のギャップを作れていたら、ベッテルの勝利も十分ありえたレースだった。 開幕の3レースはベッテルの2勝1敗だったが、逆になる展開も十分にあり得た。それくらいベッテルとハミルトンは僅差の戦いを繰り広げている。 ランキングのトップの座は当然守ったが、2位ハミルトンとの差は21点差。 1レースで逆転できる得点差である。 この3レースのベッテルの圧倒的な速さを考えると、少ないと思うのは私だけだろうか。 ▽復活ウェバー 18位から3位へ 昨年の最終戦から精彩を欠いていたウェバーが3ストップでなんと3位入賞。 予選18位からであればもう攻めるしかなく、こういう状況の方がウェバーは力が出せる。 昨年も彼はヨーロッパラウンドから盛り返してランキングトップに登った経験があり、これで自信を取り戻せば再び上位争いに絡んでくることだろう。 最初はハードタイヤでペースの上がらなかったウェバーだが10周目、早々とタイヤ交換。 予選でソフトタイヤを使わなかったので、新品ソフトが3セット丸々残っていたのは幸いだった。(もっともソフトを使っていればQ3進出は確実だったが) チームが懸命の作業を続け、KERSの配線と冷却用のウォーターポンプを交換し、KERSが使えるようにしたことも大きかった。 レース後半は、新品のソフトタイヤを活かして、彼はレース全体のベストラップを刻んだのだが、それは2位のハミルトンより1.4秒も速かった。 そしてバトンを最後にかわして、ハミルトンの7.5秒後ろで3位。 彼の予選順位を考えると奇跡的な差である。 ベッテルとの差は僅かに2.3秒。 あと2周あればベッテルをかわし、5周あればウェバーの勝利もあり得たかもしれない。 今年もヨーロッパラウンドからの巻き返しに期待しよう。 ▽理解が難しいピレリタイヤ 金曜日フリー走行のタイムを見るとタイヤのタレは酷くなく、大半のドライバーは2ストップでいけると見ていた。 ところが決勝当日は金曜・土曜日より天気がよく路面温度の上昇があった。 その為か日曜日はタイヤのタレが予想より多く、3ストップするドライバーがかなりいた。 今回は予想以上にタレが大きかったので3ストップが成功したが、タレが大きいか大きくないかは、走ってみないとわからない。 最初のスティントを引っ張って2ストップ作戦をとると、途中で3ストップに換える決断は難しい。 マクラーレンがコンディションの変化を予想して、3ストップに変更しているのであれば、彼らのチーム力はやはりF1界最高である。 このレースでも確かに3ストップのハミルトンが勝ったが、2ストップのベッテルも2位であり、決して2ストップでも失敗だったわけではない。 ただハミルトンが速すぎただけである。 今後はフリー走行のタイムだけでなく、決勝当日のコンディションも読みながら、柔軟にレース戦略を変えるチーム力が問われていく。 まだまだピレリタイヤに関しては学ぶべき事が多そうだ。 ▽DRSは有効過ぎた 今回、F1が開催されるサーキットの中で最も長いストレート持つ上海ということもありDRSは非常に有効であった。 もともと約900mだったDRSゾーンは、あまりにもオーバーテイクが頻発することを恐れて、FIAは100m短縮したほどだった。 それでもオーバーテイクは非常に多く見られた。 ちなみに暇な人、いやいや几帳面な方がおられて計算したところによると、中国GPでのオーバーテイクの数は63回で、2年前の倍以上だそうである。 確かに近年のF1では、オーバーテイクを見ることは稀であり、憶えることが可能な数だったが、63回も追い抜きがあれば、記憶することは困難である。 だが、これは後方から追い上げるウェバーにとっては幸運だった。 昨年までだったら、トップスピードの速くないレッドブルにとって、簡単なレースではなかっただろう。 ただDRSだけで追い抜きが増えると言うも、面白味に欠けると言えば欠ける。 今回はタイヤ寿命が短いために、コーナーでも追い抜きが多々見られてよかったが、直線だけでしかオーバーテイクがないのであれば、ドライバーの真の力が見られず、ちょっと残念である。 ▽連続入賞 可夢偉と勝てないニコ 可夢偉は10位でフィニッシュして連続入賞を決めた。 今回はQ2で落ちてしまったが、最後の最後にディ・レスタをかわしての連続入賞。 決して満足のできるレースではなかったが、それでもきっちりと結果を残すのは素晴らしい。 これがプロのドライバーというものである。 調子が悪くセッティングが決まっていない場合、文句を言うドライバーも多いが、それでマシンが早くなるわけではない。 ニコ・ロズベルグはいいレースを見せていたが、最後は燃費が厳しくペースダウンして5位に沈んだ。 彼の場合、予選での速さは素晴らしく、決勝レースでもいいポジションを走るのだが、あと一歩で最高の結果が残せていない。 ここぞと言うときにバトルを制するとか、誰とも争っていない場合でも、ベストの走りを見せなければ、優勝することは難しい。 ミハエルには勝ち続けてているので、この評価は厳しいかもしれないが、彼がもう一つ上のレベルにステップアップするには、避けては通れない道である。

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