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2011 Rd11 ハンガリーGP観戦記

 ▽タイヤに翻弄されたハミルトン

このレースの勝負を分けたのは、間違いなく3回目のタイヤ交換だった。
まずハミルトンが40周目オプション(スーパーソフト:SS)に換えて、ベッテルはその1周後、バトンは2周後にプライム(ソフト:S)に交換した。

今回、プライムとオプションのタイム差は1秒前後。
スタートからドライ路面の場合、オプションを3回つないで、最後にプライムというのがレース前の予想だった。
ところがスタート時に路面がダンプ(※)状態であり、全てのマシンがインターミディエイトでスタートしたことによって、タイヤの使い方が難しくなった。

急速に路面が乾く中10周あたりから、ドライタイヤに換えるマシンが出てきて、瞬く間に全車がドライタイヤに交換。
この第一スティントは、スーパーソフトでスタートした場合に比べて数周短かった。
その為、この後SSで2スティントつないだ場合、最後のSでの距離が数周長くなり、最後まで持たない恐れが出てきた。

Sタイヤの予想航続距離は25周。

ハミルトンが3回目のタイヤ交換した時点から、フィニッシュまでは30周。バトンは28周を残していた。
それでもタイヤに優しいバトンは28周を走りきれると予想して、ソフトに交換し、最後まで走りきる作戦。
一方のハミルトンは、1秒以上速いSSを履いて、次のタイヤ交換までに20秒以上を稼いで、トップをキープしようとした。

 ところが本来、タイムで1秒前後劣るはずのSタイヤを履くバトンとベッテルは、タイヤ交換直後から自己ベストを更新し、ハミルトンとそん色のないタイムを刻み続けた。
この時点でハミルトンの勝つ可能性はほぼ消えた。

ハミルトンがその後、雨が降り始めた時にインターミディエイトに交換したのは、このままでは勝てる可能性がなかったからギャンブルをしたからであり、直接の敗因ではない。 

ではこのハミルトンの作戦は、間違っていたのだろうか。
私はそうは思っていない。
というのもハミルトンの特長は、いつでもどこでも全開走行であり、SSを履いて後続とのギャップを築くやり方は、彼のスタイルにぴったりである。彼はこのスタイルで中国GPを勝った。

一方のバトンの作戦もまた、タイヤに優しいバトンのスタイルにぴったりであった。

もしSSとSタイヤの差が予想通り1秒前後あったなら、ハミルトンとバトンは接戦となったことだろう。
まさかレース後半とは言え、SSとSのタイム差がほとんどないと予想することは、難しい。

今シーズン、これまでピレリタイヤにはいい意味で裏切られてきたが、今回もまた予想を大幅に裏切られた。

だから、今回はバトンが正しくて、ハミルトンが間違っていたと言うより、バトンの作戦の方が、今回のコンディションとタイヤに合っていたと見る方がいいだろう。

さて次回のスパもコンディションが頻繁に変化するサーキット。
そこを読み切ったドライバーが勝利するだろう。

ではなぜ今回、レース後半にソフトタイヤはいいタイムを記録できたのだろうか。
スーパーソフトはコンパウンドが柔らかいので、他の種類のタイヤよりコース上にラバーがのりやすかったのではないだろうか。
そう考えればレース終盤、ソフトタイヤのペースがよかったことも理解できる。

▽全く差のなくなったトップ3

予選ではかろうじてアドバンテージを持っていたレッドブルだが、このハンガロリンクではそれすらも失ってしまった。
PPを獲得したベッテルだったが、0.1秒差の2位だったハミルトンは2度ミスをしている。それがなければPPは余裕でハミルトンだった。

それを考えるとレッドブルの予選での優位性は消え去ったと考えてよいだろう。
これは前回でも述べたが、ブロウンディヒューザーの規制が影響したとかいうレベルの話ではなく、純粋なマシンのパフォーマンスが同じレベルになったということである。

これまでのレッドブルの基本戦術は予選で前に出て、タービュランスのないトップでタイヤを労りながら走り、後続がタイヤ交換すれば次のラップに交換するのがベッテルの必勝パターンだった。
それが使えなくなったレッドブルは、このレースでもベッテルは2位にはなったが、ハミルトンやバトンの脅威になることはできなかった。
それでもベッテルは2位で、勝ったのはランキングが5位のバトンだったのはベッテルには幸運だった。

彼は直近のライバルであるウェバー、アロンソ、ハミルトン達とのポイント差を広げることに成功した。
ベッテルのライバル達が勝ち星を分け合っているので、ベッテルはリードを保ったままである。
はたしてレッドブルとベッテルは再び、ライバル達を引き離すマジックを見せてくれるのだろうか。

F1において組織力は重要なファクターではあるが、勝つか負けるかは紙一重である。F1では最後は個人の力が決定的な役割を持つ。
それがF1のおもしろさなのである。


▽作戦変更できなかった可夢偉

今回の可夢偉はダンプ状態からドライへ代わり行く路面状態に作戦面で柔軟に対応できず、11位で終わってしまった。
可夢偉はいつものように、ライバル達とは違う作戦をとり、入賞をめざしていた。

可夢偉はインターミディエイトからタイヤ交換する際に、他とは違いSタイヤに交換した。決してペースのよくなかったSタイヤだったが、他のマシンがタイヤ交換する間に最高6位まで進出。
しかし34周目に2度目のタイヤ交換をした際に、SSを選択。
SSのタレは予想通り厳しかったので、可夢偉は当然もう一度、ピットインがあると予想していた。

チーム側はレース終盤に雨が降った時点で、可夢偉をインターミディエイトに履き替えさせようとしたが、可夢偉は自分の判断でステイアウト。
この判断は正しかったのだが、結局チーム側は可夢偉のタイヤ交換の時期を完全に見誤り、どんどんタイムは悪化。
一時はライバル達に比べて3秒も遅くなってしまった。
こうなっては早くタイヤ交換した方がよいのだが、チームはなぜか引っ張り続ける。

結局、可夢偉は残り8周でどうしようもなくなったところで、最後のタイヤ交換を実施。11位まで順位を落として入賞を逃してしまった。

ある程度上位に上がってタイムが落ちた時点で、タイヤ交換すれば問題なくポイントが獲得できたレースだったが、判断ミスでそれを逃してしまった。

【用語解説】
ダンプ状態:路面に雨が降り、濡れた路面と乾いた路面の中間状態のこと。非常にドライビングは難しく、タイヤのチョイスも困難である。

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