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2011 Rd13 イタリアGP観戦記

▽モンツァは超高速サーキットではないのか?

ベッテルは最高速度が最下位にもかかわらず、ポールポジションを獲得し、レースでも独走で優勝した。

以前であればモンツァはトップスピードが高いマシンが有利と相場が決まっていた。

ところがそれが昨年あたりから変わってきている。

これは昨年のバトンを見ればわかりやすい。昨年のバトンはウィングをたててダウンフォースつけて(Fダクトの力も借りたが)優勝争いを演じた。

今年のベッテルもコーナーリング重視のセットアップ、すなわちダウンフォースをつけてコーナーリング・スピードを上げて、立ち上がりのトラクションとブレーキング時の安定性を選んだ。

 

2.4L V8になってからはトップエンドのパワーが落ちたこともあり、このサーキットでもトップスピードで走る距離が短くなっている。その為ダウンフォースをつけてトップスピードに至るまでの時間を短くすると、トップスピード自体は低くてもラップタイムを向上できる。

今年もマクラーレンはダウンフォースをつけてきたが、彼らのマシンはダウンフォースをリアウィングで得る部分が大きく、抵抗も大きい。一方レッドブルはディヒューザーで得る部分が大きく、抵抗は比較的少ない。エンジンパワー自体では劣るルノーエンジンを搭載するレッドブルだったが、見事な開発力とセットアップで苦手なレースを勝利した。

 

この結果を見るとモンツァは、未だに高速サーキットではあるが、極端にダウンフォースを減らす、「超」高速型サーキットとは言えないようである。

 

▽レッドブルの技術陣は満足している

例年、ベルギーとイタリアでは苦々しい思いをしていたレッドブルだが、今年はこの2レースをベッテルが連勝。

この2レースに向けて投入したロウ・ダウンフォース・パッケージが見事に成功。これでレッドブルは苦手のサーキットを克服し、無敵の存在になった。

この苦手のレースを2連勝で終わったことは、レッドブル技術陣の素晴らしい仕事の成果である。

ベルギーまでのレッドブルはマクラーレンとフェラーリにスピードで迫られており、ポイント差は大きいものの、一つ一つのレースを見れば苦戦を強いられてきた。当然マクラーレンとフェラーリはここで勝って勢いをつけてシンガポールに向かいたいところだった。

ところが意外にもレッドブルの2連勝。

レッドブルの技術陣は大満足だろう。

逆にマクラーレンの受けたダメージは計り知れない。この2レースを落としたことで誰がなんと言おうとも、今年のチャンピオンシップは事実上、終了した。

どのチームも開発のリソースを2012年に向けていくだろう。

 

▽ オーバーテイクのポイントはKERSにあった

このレースのオーバーテイクはKERSの使い方にあった。

モンツァはコーナーが少ないので、1周ではKERSをフル充電することができない。

モンツァは年間でエネルギー回生量が最も少ないサーキットである。

なぜならモンツァにはたった6カ所しかブレーキングポイントしかないからだ。

その為、ルール上は使用が可能な400kJを1ラップで充電することができない。

当然ながら1周で全てを放出すると、次のラップではフルに放出することが不可能になる。

 

モンツァはKERSをフルに使用した場合のゲインが0.4秒以上と効果が大きいサーキットなので、これは悩ましい問題である。

 

だ から前をいくマシンと追いかけるマシンはどこでKERSを使うか、知恵の絞り合いだった。例えばバトンがミハエル・シューマッハーを簡単に抜いたことを不 思議には思わなかっただろうか。ハミルトンがあれほど苦労したミハエルをバトンは簡単に抜いて見せた。ミハエル・シューマッハーはあの時点までにKERS を使い切っていて(もしくは充電できてなくて)、バトンはオーバーテイクの場面で、KERSをフルに放出した。バトンは続くアロンソを抜く時にもKERS をうまく使い、アロンソをあっさりと抜き去った。

これはバトンが相手の出方を読んで、KERSの使い時を考えたのか、単なる偶然なのかはわからない。だがバトンが2回ともうまくオーバーテイクをしたことを考えても、単なる偶然とも片付けられない。

 

▽DRSはあまり効果を発揮しなかった。

2.4Lエンジンではレズモから加速するとトップスピードに達するのに時間がかかり、トップスピードに達したと思うとすぐにブレーキングであり、この区間では、あまりオーバーテイクは見られなかった。

ホームストレートではこれより多少トップスピードの時間が長かったが、やはり追い抜くのは難しく、DRSよりもマシンのセットアップやタイヤの性能差、KERSの使い方がオーバーテイクにおいては重要だった。

高速サーキットであるモンツァで、この結果は意外だった。

 

▽ 意外にブロウン・ディヒューザーは効果大だった

地味だったがこのレースで大きな効果をもたらしたデバイスは、ブロウン・ディヒューザーだった。特にブレーキング時の効果は絶大だった。

例年のモンツァでは、最初のシケイン手前で最高速からフルブレーキングをする。

その際リアの安定性が失われるのだが、今年はそのようなマシンは希であった。

毎年何台かは最初のシケインを止まれきれず、そのまま真っ直ぐいくマシンがあるものだが、今年はほとんどなかった。

これは明らかにブロウン・でヒューザーの効果であり、今年のドライバーはブレーキングで苦労することは少なかった。

 

▽ ハミルトンのミスは痛かった

ハ ミルトンはこのレースで犯した一つのミスを悔やんでいることだろう。それはSCが入る直前に犯したミスだ。後ろから来るミハエル・シューマッハーの姿をミ ラーにとらえた彼はそちらに集中してしまい、ベッテルとの車間距離が開いていることに気づかず、ベッテルのスリップストリームに入ることができなかった。 そして彼は直後のストレートで、ミハエル・シューマッハーにあっさりとかわされてしまう。

 

こ の後、ペース的に上回るハミルトンがミハエル・シューマッハーを簡単に抜くかと思いきや、この日のミハエルのマシンはストレートスピードが滅法速く、しか もコーナーではミハエルが頑張り、そして時にはきわどいブロックでハミルトンを前にいかせない。ハミルトンを抑えるのに注意がとられてバトンにはあっさり と前にいかれたが、ハミルトンはその後もミハエル・シューマッハーに抑え続けられた。もしハミルトンがリスタート時にポジションをキープできていたら、ア ロンソをかわし2位になれ、しかもベッテルを追い詰めることができただろう。

それだけに悔やまれるミスであった。

▽ ミハエル・シューマッハーの復帰後ベストレースかもしれない

トップスピード重視のセットアップと強力なメルセデスエンジンに助けられたとはいえ、今回のミハエルはいい走りを見せた。結果としては5位だったが、他力本願で得たポジションではなく、バトルをしてもぎ取った位置だ。

誰がどう考えても今のメルセデスのパフォーマンスでは、この日5位以上は望めなかった。

これまでもカナダでは一時3位を走ったこともあったが、今日のポイントは実力で獲得したといえるので価値が高い。

恐らく彼の復帰後、ベストレースと言えるのではないだろうか。

ただ彼が復活したかどうかは、あと数レースの結果を見てみないとわからない。

トップドライバーとは連続して結果を残せるドライバーのことである。

F1ドライバーであれば、単発で結果を残すことはできる。ただ連続で結果を残すことは難しい。ミハエルのシンガポールでの走りが楽しみだ。

 

▽ パーフェクト・ウィン アゲイン

今 回のベッテルは、PPをとりながらもレースには一抹の不安があった。というのも彼は短いギアレシオを組んでいて、予選ではかなり長時間リミッターがあたっ た状態だった。つまりベッテルはDRSを使用しないことを前提に、ギアレシオを組んでいた。PPをとってそのまま逃げ切るのがベッテルの作戦だった。

 

だから彼がレースで主導権を握るには、スタートで前に出てDRSが使用可能になる3周目までに2位に1秒以上の差をつける必要があった。

と ころがベッテルはスタートで、なんと予選4位のアロンソに首位の座を明け渡す。これでベッテルのレースは難しくなると思われた。アロンソに前をふさがれれ ば、後ろからマクラーレンが追いかけてくる。ところがベッテルはここから素晴らしい走りを見せる。スタート直後の1コーナーのクラッシュで出たSCがアウ トしてから、タイヤの暖まりが悪いアロンソを追い立てて、すぐに追い抜く。そして予定通りDRSが使用可能になる6週目までにアロンソとの差を1秒以上に 広げて、独走態勢を築いた。

 

ベッテルにとっては幸運なことにアロンソも決して高いギアレシオを組んでいなかったし、マクラーレンもまた同じだった(だからハミルトンはミハエルを抜くのに苦労した)。

 

▽ベッテルのチャンピオンはシンガポールか鈴鹿で決まる(多分)

これでベッテルは、シンガポールでチャンピオンを決める可能性が出てきた。

これがイタリアGP終了後のポイント一覧である。

 

1位ベッテル 284pts

2位アロンソ 172pts(▲112pts)

3位バトン 167pts(▲117pts)

3位ウェバー 167pts(▲117pts)

5位ハミルトン 158pts(▲126pts)

※ ( )内はベッテルとのポイント差

 

シンガポールでベッテルがチャンピオンを決めるには、2位以下に125ポイント差をつける必要がある。ハミルトンは現時点で126ポイント差をつけられているので、彼はシンガポールでベッテルよりも上位でポイントをとる必要がある。

ベッテルが優勝した場合、アロンソは4位以下、バトンとウェバーは3位以下でチャンピオン決定である。

ただこれらは同時に起こらなければならない。

 

考えられるシナリオとしては、1位がベッテルの場合、2位ハミルトン、3位4位がウェバー・バトンで、5位がアロンソの場合、チャンピオンとなる。

さてシンガポールでチャンピオンは決まるだろうか。

上記のシナリオは意外と実現性が高いと思うのだが……。

 

▽ アロンソはやはり素晴らしい

アロンソは素晴らしい走りをまたも見せてくれた。

マ シンの性能的に言えば5位が順当だったと思う。ところが彼は予選4位からスーパースタートを決めて、オープニングラップの1コーナーをトップで駆け抜け る。その直後にSCが入るのだが、SCが戻ると瞬く間にベッテルに抜かれてしまう。だがこれは致し方ないだろう。レッドブルとフェラーリには0.6秒ほど の差があり、アロンソとしてもベッテルを抑えておくのは難しかった。

こ の後、アロンソは幸運に恵まれる。SC直後にハミルトンをかわしたミハエル・シューマッハーが後続を押さえ込んでくれたのだ。ミハエル・シューマッハーは タイム的にはトップより1秒ほど遅いのだが、直線が滅法速くハミルトンは延々とこのベテランに押さえ込まれる。さらにはバトンにはかわされてもハミルトン は抑え込まれて、アロンソとの差は広がるばかり。

ハミルトンがミハエルの前に出た時にはアロンソとの差は大きく、直後まで迫るもアロンソは地元イタリア、モンツァで表彰台に上った。

 

▽ 可夢偉は難しい戦いが続く

予選では17位に沈んだ可夢偉だったが、これは想定の範囲内であった。

元々彼らのマシンは高速型サーキットが得意でない。

 

彼らは軽いリアウィングを選択し、トップ・スピードを重視するセットアップにした。

そして可夢偉はミディアムでスタート。直後の1コーナーでフロントウィングを壊すが、すぐにSCが出て、そのタイミングでフロントウィングとタイヤ(ソフト)を交換。タイムロスを最小限に抑えた。

そして、そのままソフトタイヤをつないでフィニッシュする作戦に変更した。

そ のおかげもあり可夢偉は入賞圏内まで進出したのだが、最後はギアボックストラブルでリタイヤとなった。チームメイトのペレスも同じ理由でリタイヤしたこと もあり、ペーター・ザウバーはギアボックスを供給しているフェラーリを非難したが、このトラブルはフェラーリだけが悪いのだろうか。

 

現在の品質管理レベルで言えば、2台が同じトラブルでリタイヤする確率はかなり低い。同じロットのパーツに不良があった場合は可能性があるが、それもよほど品質管理のレベルが低い場合に限られ、フェラーリがそれほど低い品質管理をしているとは考えにくい。

そう考えるとザウバーにもある程度の責任があると考える方が妥当だろう。

モンツァはシケインが3カ所あり、ここでは縁石を乗り上げて通過していく。

縁石の乗り上げるとタイヤは一瞬浮いて、直後に接地する。この際に駆動系には大きなストレスがかかる。可夢偉は何回かシケインを追加する際に縁石を大きく乗り上げているので、これがリタイヤした原因につながっている可能性は否定できない。

リタイヤの原因がどうであれ、最近の可夢偉は作戦ミスやトラブルで入賞を逃す場面が多い。

特にモンツァでは、ブロウン・ディヒューザーがないのが痛かった。彼らのマシンが、このサーキットでブロウン・ディヒューザーを持つフォースインディアと対抗するのは難しい。

 

ザウバーは徐々に資金が少ない面があらゆる場面に影響を及ぼしつつある。これまでザウバーは少ない資金を、知恵で補ってきたのだが、そろそろ限界に近づきつつある。日本GPでは新しいアップデートが投入される予定なので、これに期待しよう。

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