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2012 Rd20 ブラジルGP観戦記<BR>敗者なきチャンピオン争い


▽激突!ダブル・チャンピオン
F1ドライバーになるのは難しい。F1で勝つのはもっと難しい。そしてF1でチャンピオンになるのはさらに難しい。
そのチャンピオンに二度も輝く二人のドライバー。フェルナンド・アロンソとセバスチャン・ベッテル。
二人の偉大なドライバーが三度目のチャンピオンをかけて激突したブラジルGPは、予想を違わない素晴らしいレースになった。
 
レース直前になり雨がパラパラ降ってきて波乱の予感が漂ってくるが、全車ドライタイヤでのスタート。
まずいきなりベッテルは絶体絶命のピンチに陥る。スタートで失敗したベッテルは7位に順位を落とし、そしてオープニングラップのターン4でセナに後ろをつつかれてスピン。最下位にまで落ちてしまう。この直前、ベッテルの直後を走っていたライコネンはタイヤを激しくロックさせて、ベッテルに向かって突っ込んでいくが、キミは何とかマシンをコントロールして、マシンをコース外に持ち出し接触を避ける。そしてベッテルは左後ろにいたフォースインディアを確認して、問題ないと思ってターン4を左にステアリングを切っていくと、そこにはそのフォースインディアをインから抜いてきたセナがいた。軽く接触したベッテルはスピンして、その直後に再びセナと接触。この時にベッテルの右リアタイヤとセナとの右フロントタイヤが激突。ダメージがないのが奇跡的といえるほど、大きな接触だった。恐らくタイヤのクッション機能により、ダメージが最小限にすんだのだろう。


これがその時の写真。これでよくダメージが最小限度ですんだものだ。奇跡的という意味をおわかりいただけると思う。
 一方、いつものように予選で失速し7位からスタートしたアロンソはジャンプスタートを決めて一気に4位にあがる。アロンソは2周目には順位を3位に上げ、この時点の順位でフィニッシュすれば、アロンソが逆転するという驚きの展開。
 
も はやこれまでかと思われたベッテルだったが、まだ神は彼を見捨てていなかった。集団の中で、スピンしたベッテルだが後続マシンは見事に彼を避けて通り過ぎ ていく。そしてセナと接触した部分に関しては少しダメージがあったものの、マシンのセンサー情報を確認したエンジニアはマシンに大きなダメージはないと判 断し、ベッテルにステイアウトを指示。この判断は素晴らしかった。実際に、その後のレースペースにはほぼ影響がなかった。

この素晴らしい判断と二つの幸運がベッテルを逆転チャンピオンへと導くことになる。その後、雨はやや強くなったり、止んだりを繰り返し、レースを盛り上げていく。
 
ス タート直後に降り始めた雨は徐々に強まり、バトンとヒュルケンベルグを除き全車がインターミディエイトをはく。ところが雨は場所によって降ったり止んだり と状況が目まぐるしく変わり続け、ドライとインターミディエイトは互いに速い状況を二転三転しながら、タイムはほぼ互角。だが次第に雨は上がり、インター ミディエイトはオーバーヒートし始め、たまらず各車は再びドライタイヤに戻す。これによりタイヤ交換しなかったヒュルケンベルグとバトンは3位以下を40 秒引き離し、独走状態になり大きなアドバンテージを得る。
 
その時点で、3位以上が逆転のための絶対条件であるアロンソは4位。だが上位のヒュルケンベルグ、バトン、ハミルトンはアロンソよりペースがいい。このままではアロンソの逆転はない。
ところがここでロズベルグが路面上の破片をひろいタイヤがパンクする。すかさずアロンソが路面の破片が危ないとピットへ無線で語りかける。それをFIAが聞いたのか直後にSCが入り、上位陣の差が一気になくなる。

再 スタート後にトップのヒュルケンベルグがミスをしてハミルトンに抜かれるが、その6周後ヒュルケンベルグが周回遅れに阻まれたハミルトンを抜き返しにター ン1で彼のインに飛び込んだ。だがこの時路面はダンプ状態であり、グリップが低かった。その為、ヒュルケンベルグはたまらずリアを滑らせてしまい、きちん とスペースを空けていたハミルトンに接触。マクラーレン最後のレースだったハミルトンはリタイヤ。ヒュルケンベルグは走行を続けたがペナルティをもらい、 順位を5位に落とす。
 
そうしてアロンソは奇跡的に2位にまで順位を上げる。この時点でベッテルは9位。このままではアロンソの逆転となるが、ベッテルもすぐさま反撃し順位を6位にまで戻し、再び大手をかける。
このままでフィニッシュすればベッテルのチャンピオンだが、もしバトンがリタイヤすれば、アロンソの逆転というきわどい状況。
なんとしてもバトンを追い詰めたいアロンソは渾身のドライビングでタイムを出すが、ペースはマクラーレンが明らかに速い。
 
そして残り2周でディ・レスタがクラッシュしSCが入り、レースは終わった。
そ れにしても際どいレースだった。もしベッテルがオープニングラップでスピンした際のダメージが大きければ、レースは全く違う展開になっていただろう。もし ハミルトンがリタイヤしないで、そのままベッテルの前で走り続ければ、ポイント差はわずかに1ポイントである。何が起こってもおかしくないレース、それが ブラジルGPである。

結果的にベッテルは3ポイント差で三回目のチャンピオンになるのだが、どちらがチャンピオンになってもおかしくないスリリングな戦いだった。
 
▽敗者なきチャンピオン争い
幸運が味方したことは間違いないが、ベッテルのチャンピオンに異論のある人はいないだろう。特にシーズン終盤のマシンの進化は驚異的で、シンガポールGPからインドGPまでの4連勝で、それまでの混戦状態を抜け出す事に成功した。
そして同じくシーズン終盤に速さを増してきたマクラーレンのハミルトンがトラブル続きでリタイヤが多かったことは、幸運であった。
もしシンガポールでハミルトンが勝っていれば(リタイヤしていなければほぼ100%の確率で勝っていた)、失うポイント数はベッテルの方が多い。
 
つまり後半のベッテル独走状態が分かりにくくしているが、今シーズンは史上稀にみる激戦のシーズンだった。
 レッドブルとフェラーリの性能差は0.5秒~1秒近くあった。にも関わらず僅かに3ポイント差の2位である。これを見てもアロンソの能力の高さを示している。

それにしてもアロンソの最後の猛追は迫力があった。バトンとの差は20秒ほどありペースもバトンのほうがいい。普通考えれば逆転は無理な状況だった。
それでも諦めずに全力でプッシュする姿は今シーズン彼が見せ続けてくれた姿そのものだった。
それがあったからこそ彼は勝てるはずのないマシンで勝利をあげることができた。
敗れたアロンソだったが、彼もまたチャンピオンにふさわしいドライバーだった。
 
勝者が一人である以上、敗者が出るのは避けられない。
だが彼を敗者と呼ぶものは誰もいないだろう。
 
▽チャンピオンの資格
ヒュルケンベルグは惜しいチャンスを逃した。もしSCが出ていなければ彼は勝てていたかもしれない。レース序盤、続々とインターミディエイトに交換する中バトンともにドライタイヤで走り続けていたヒュルケンベルグ。
そして彼はバトンを抜いてトップを走る。コンディションが刻一刻と変化する状況で、これは誰にでもできることではない。
だが彼はSC導入でそれまで築いたギャップを失ってしまう。SC後にハミルトンに抜かれても彼は諦めずにまた抜き返しにいった。そこでハミルトンに接触し、ハミルトンをリタイヤに追い込み、自分はペナルティで5位に後退してしまう。

この接触シーンで、ヒュルケンベルグの彼のコントロール能力を見せている。
確かに路面は少し濡れてはいた。だがマシンをコントロールできなったのは彼だ。ハミルトンはきちんとスペースを残している。
今回のレースを見ていてもアロンソなどはきちんとマシンをコントロールしている。

彼が難しいコンディションでも素晴らしい走りができることは証明した。それは2年前の雨の中のポールポジション奪取でも見せてくれている。
ただチャンピオンになれるほどのコントロール能力があるのかについては、今回も証明できなかった。
もしこういうレースで彼が勝てれば、彼もまたチャンピオンになれるドライバーであると証明でき、フェラーリ入りの可能性が大きく開けたのだが。
 
▽可夢偉 ザウバーでのラストレースを終える
可夢偉はザウバーでの最後のレースを9位で終えた。
レース前にはザウバーから来年のドライバーは、グチエレスとの発表があった。
だがこれはもうかなり前から決まっていたことであり、可夢偉にも動揺はなかった。
そして、マクラーレン移籍発表後は入賞がないペレスに代わって、今回も確実に得点を獲得した可夢偉。来年、ザウバーは可夢偉を手放したことを後悔しなければいいのだが。
 
今回、可夢偉は決して恵まれた状態ではなく予選はQ2落ちで15位スタート。
だが荒れる天候を味方につけて一時は表彰台も狙うほどの走りを見せてくれた。
ドライタイヤではマシンの性能がそのまま出るので厳しい状況だったが、インターミディエイトでは速かった。
残 念ながら終盤、7位を争うシューマッハーを抜きにいった時に接触し、ポジションをロスしたが、それでもザウバーでの最後のレースをきっちりと締めくくっ た。この時も可夢偉はコントロールを失ったわけではなく、シューマッハーにインを閉められて接触してのスピンなので、彼に責任はない。

この日の可夢偉の走りは見事で、彼の能力を見事に表していたと思う。これが来年のシート状況を好転させることを願い、シーズン最後の観戦記を終わらせていただく。

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