この日のハミルトンはいつにも増して光り輝いていた。いつもハミルトンのドライビングには舌を巻くがこの日はいつも以上に素晴らしかった。
壁に囲まれたストリートサーキットで、スタート直前に雨が降り始めれば、ナーバスになってもおかしくないのに、彼は雨が降り出した途端に勝てると思ったと言う。
土曜日までのハミルトンは苦しんでいた。土曜日の予選では6位。しかも何かトラブルやセッティングのミスがあったわけではない。ハミルトン自身がこれが精一杯の速さだったことを認めている。
だからこのレース、ハミルトンにとってはダメージを最小限度に抑えるためのレースになるはずだった。それが雨が降り状況が激変した。ドライのレースならば抜けないコースレイアウトを考えて最高で3位がいいとこだろう。しかもベッテルの優勝はかなり硬かった。チャンピオンシップポイントでもベッテルに逆転されていた可能性が高い。
それが雨のレースになり自分が優勝し、ライバルのベッテルがリタイヤしたのだから、ハミルトンにとって盆と正月と誕生日が一度にきたような感じである。
だが雨の条件は誰でも同じである。でも勝ったのは圧倒的な走りを見せたハミルトン。彼のドライビングは本当にスーパーだった。追い上げるリカルドが3秒タイムアップしてきたときも、すぐさま全体ベストを連発して引き離すその走りは見事としか言いようがない。しかもハミルトンにはリタイヤは絶対に許されない状況でこの走りである。
第一スティントで二位のリカルドがタイヤ交換する時もステイアウトし、古いインターミディエイトで抜群の走りを見せる。ハミルトンはリカルドかタイヤ交換した時点で、それをカバーするためにタイヤ交換することもできたのだが、彼は自分の感覚を信じてステイアウトした。
彼が三度の世界チャンピオンになっているのが単なるマシンが速いだけでないことを今回も証明してくれた。