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ルクレールの不運とマックス苦難の勝利 スペインGP観戦記

独走するルクレールのエンジントラブルで漁夫の利を得たフェルスタッペン。しかしフェルスタッペンには勝利を得るまでに乗り越えるべき問題が山積していました。チームメイトの助けも借りながら逆転勝利し、絶望的にも思えたチャンピオン争いでもトップにたったスペインGPを振り返りましょう。

苦戦しながらも3連勝でランキング首位にたったフェルスタッペン

今シーズン初めて大規模なアップデートを持ち込んだフェラーリ。フロアとリアエンドを改良した努力は概ね報われ、フリー走行から好調で、予選でもポールポジションを得ます。ライバルのフェルスタッペンはQ3二回目のアタックで、DRSが開かないトラブルにより、アタックできず2位からのスタートです。そしてこのトラブルが決勝レースでもフェルスタッペンを苦しめることになります。

決勝レースのスタートでは、ライトが消えてフェルスタッペンの方が早く動き出します。しかしながらその後の加速はルクレールも挽回してトップをキープしてターン1に飛び込みます。

実はルクレールのスタートタイヤは新品のソフトで、フェルスタッペンは中古のソフトでした。そのグリップの差がスタート後の加速に表れて、ルクレールはトップを維持してレースを開始します。

その後はいつもの展開で、ルクレールがトップスピードで勝るレッドブルをDRS圏外に追いやるべくプッシュします。1周目の終わりにはすで1秒近い差を付けて、2周目にはDRS圏外に位置します。

問題はこのあとです。実際、ルクレールはフリー走行から絶好調でしたが、ロングランのタイヤのデグラではフェルスタッペンに劣っていました。だからこのあとフェルスタッペンが差を詰めてくる展開を予想していたのですが、予想外の出来事が起こります。

なんとフェルスタッペンが9周目のターン4入口でリアがスナップして、コースアウトしてしまします。この2周前にはサインツも同じようにコースアウトしています。この日のバルセロナは風が強い時と吹かない時が不定期に表れる非常に難しいコンディションでした。そしてターン4の入口は追い風で、強い突風が吹くとリアのグリップを失います。なのである周では普通にブレーキングして、普通にコーナーを曲がれるのに、ある周ではリアがスナップしてしまいます。

悩みながらもチームプレーに徹してフェルスタッペンにトップを譲ったペレス

ただフェルスタッペンはスピンせずにグラベルを走ってすぐにコースに戻れたので、ペレスの後ろで順位を二つ失っただけですんだことでした。ペレスはチームメイトですから実質失った順位はひとつです。ただここからがフェルスタッペンにとっては難しい道のりになりました。

ペレスと順位を入れ替えたのはいいのですが、2位を走るメルセデスのラッセルを抜けません。というのも予選で出たDRSが開かないトラブルがここでもでて、最高速に優位があるフェルスタッペンもさすがにDRSなしで抜くのは難しくなります。決勝レース前にDRSの動作機構を交換したのですが、メカの問題ではなかったようです。

フェルスタッペンはアンダーカットすべく、13周目にタイヤ交換を試みますが、同じタイミングでラッセルもタイヤ交換して、順位は変わらずでした。この時フェルスタッペンをステイアウトする選択肢もあったのですが、このバルセロナはタイヤのデグラが大きく、基本的にアンダーカットは非常に有効なのですが、オーバーカットは意味がない状況で、レッドブルとしては選択肢がない状況でした。

しかもDRSがいつも開かないわけではなく、忘れた頃に時々開くというのも困りものでした。24周目にDRSが開いたときにフェルスタッペンはラッセルをターン1で一度は抜きかけますが、ラッセルも簡単に諦めずに再び抜き返します。

コースアウトしたがペレスの後ろで戻れたフェルスタッペン。ただ2位を走るラッセルは手強かった

DRS抜きでラッセルを抜くのが難しいと判断したレッドブルはフェルスタッペンを3ストップに変更します。28周目にソフトタイヤに交換したフェルスタッペンですが、ラッセルはその1周後にタイヤ交換するとアンダーカットされて順位が変わるので、そのまま走るしかありませんでした。

純粋なパフォーマンスではメルセデスよりも優れたレッドブルとソフトタイヤの組み合わせは瞬く間にラッセルとのと差を縮めます。

そのように2位争いは激しさを増していましたが、そんな中トップを走るルクレールに異変が起こります。フェルスタッペンがいなくなり、タイヤを痛める必要もなくなったルクレールは順調にトップを快走していて、チャンピオンシップのリードを広げるのは確実な状況でした。ところが27周目にエンジンにトラブルが発生し、ピットイン。そのままリタイヤとなってしまいました。まったく前兆がない突然のトラブルでした。リタイヤの原因はMGU-Hとエンジン。ここまで抜群の信頼性を誇っていたフェラーリに訪れたトラブルでした。

スペインGPとモナコGPはフェラーリ向きのサーキットと考えられていました。それだけにここでリタイヤしたのはかなりの痛手です。モナコの後がアゼルバイジャンとカナダというレッドブル有利と見られるサーキットだけにです。

ここまで大きなトラブルもなくきたルクレールに起こった初めてリタイヤです。これで2位争いはトップ争いに変わります。

手痛いリタイヤで優勝とランキング首位を失ったルクレール

31周目にペレスがDRSを利用して、ラッセルを抜きトップにたちます。36周目にはフェルスタッペンはラッセルに追いつきますが、その周にラッセルは2度目のタイヤ交換をします。これでレッドブルの1-2です。

49周目にはペレスとフェルスタッペンが順位を入れ替えて、いつもの順位に戻ります。ペレスは当然不満でしょうが、レッドブルはフェルスタッペンのチームなので、これは受け入れるしかないでしょう。シーズン前半なので、まだチームオーダーを出す必要がないという意見もあるかと思いますが、最終的に1ポイント差でチャンピオンが決まることもあるので、油断をすることはできません。

もしペレスがフェルスタッペンより速くて、差を広げられる状況ならまた話は違ったと思いますが、フェルスタッペンに追いつかれてはペースが速いエースドライバーを先に行かせるのはチームとして妥当な判断だと思います。

こうしてオーストラリアGPでリタイヤしたときに、最大46ポイント差あり、フェルスタッペンがルクレールに追いつくのに45レースかかると不満を言っていた2人の差はたったの3レースでひっくり返ることになりました。

私もフェルスタッペンがルクレールに追いつくのは早くても、シーズン半ばかと思っていましたが、ほんと、勝負事は何が起こるかわからないですね。

驚異の挽回で5位になったハミルトン。反撃開始となるか

▽メルセデスの復活
3位になったラッセルも素晴らしかったのですが、1周目に最下位にまで落ちながらも5位になったハミルトンがまた素晴らしかった。彼のペースは優勝したフェルスタッペンと遜色がありませんでした。1周目にマグヌッセンと接触して、タイヤをパンクさせたハミルトンは優勝することになるフェルスタッペンと約50秒差でした。そしてレースフィニッシュしたときも約50秒差でした。これは最後の方はフェルスタッペンが多少流したと考えてもすごいペースです。

PUの過熱で最後は4位を失いましたが、セーフティカーもなしに最後尾から5位というのは簡単にできることではありません。

今回持ち込んだアップデートでメルセデスは、バウンシングをほぼ解消しました。まだ高速コーナーの一部では多少出るようですが、他のマシンと比較しても同じくらいのレベルには落ち着きました。

メルセデスのバウンシングがひどいのは、サイドポッドが小さくてフロアがむき出しの部分が多く、直線でフロアがたわみダウンフォースが増えることに原因があったようです。レッドブルやフェラーリはサイドポッド内に複雑なステーを設定して振動を抑え込んでいます。

ただこれで全てOKかどうかは、まだわかりません。バクーは長い直線とバンピーな路面があるので、またバウンシングが出るかもしれませんが、それでも大きな前進には違いがありません。

バルセロナサーキットのレイアウト

これまでメルセデスがほとんどアップグレードをしてこなかったことを考えると、ハミルトンとフェルスタッペンが同じペースで走れることがすごいことです。

最後は予想以上に暑い気温によりパワーユニットの温度が上がりすぎて、ハミルトンは完走するために、ペースダウンを強いられて4位の座を失いましたが、ハミルトンの1周目の接触がなければレッドブルのレースはもっと難しいものになっていたかもしれません。

パワーユニットの温度が上がりすぎたのは、メルセデスがサイドポッドを極限まで小さくして冷却機能をギリギリまで削っているからだと思います。これは例年のことなので驚きはしませんが、そこまで攻めるというのがメルセデスらしいですね。

スペインGP 最終結果
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