スペインでのPUトラブルからのダメージから立ち直るべく地元モナコでの勝利を目指したルクレールでしたが、その夢はチームの作戦ミスにより消え去り、優勝の栄冠は先週スペインでチームオーダーを出され勝利を失ったメキシコ人ドライバー ペレスのものになりました。勝利確実と思われていたフェラーリはなぜ勝利を失ったのか。雨に翻弄されたモナコGPを振り替えしましょう。
過去の5回に渡り地元モナコで完走すらできなかったルクレール。昨年はポールポジションを取りながら、スタートさえできずにレースを終えました。今年は完走はできましたが、それは彼が期待したものではありません。今年もポールポジションを獲得し、抜けないモナコを特等席からスタートできるはずでした。それをスタート直前に降り始めた雨が洗い流してしまいました。
勝者のペレスは混乱したレースで再び勝ちました。これで彼は通算3勝目を上げて、もっとも成功したメキシコ人ドライバーとなりました。
まず基本的にモナコは予選からレースが始まっています。基本的にポールからスタートするドライバーが優勝する(もしくは2位からスタートしたドライバーが優勝する)。それが勝利の方程式です。ルクレールは今年5回目のポールを獲得し、勝利するはずでした。雨さえ降らなければ。
予選より10度気温が低かったものの、朝は日差しもあり降水確率が50%ありましたが、雨の予感はありませんでした。
ところがマシンがレコノサンスラップを終えてグリッドについてスタート時間が迫ってくると、スタンドのお客さんがレインコートや傘を取り出し始めます。湿度が増しムシムシとしてきます。そして太陽は雲に隠れ、最初はシトシトと降っていた雨が大粒の雨に変わってきます。
各チームがピットから最初インターミディエイトタイヤをグリッドに持ち出しますが、すぐにレインタイヤも持ち出します。そして混乱するグリッドを見てFIAがスタート時間のディレイを指示します。
16分遅れて一度はセーフティカーの後でフォーメーションラップを開始しますが、再び雨がひどくなり、アクアプレーニング現象が現れ、コース上に留まるのも難しい状況になり赤旗中断となります。
その後、雨は止み45分後に再スタートとなります。ただグリッド上は濡れている部分と乾き始めている部分があり、公平にするためにセーフティカーによるローリングスタートなり、全車レインタイヤを履く必要がありました。これはルクレールには有利な状況です。
ただこれは妥当な判断だと思います。もしこの状況でスタンディングスタートをしたら、加速できるマシンと滑るマシンで大混乱になり、ターン1でクラッシュが発生し、即赤旗になる可能性は高かったと思います。
ローリングスタートでトップを維持してレースをスタートしたルクレールは14周目にまでに2位のサインツを6.3秒引き離しリードします。この時フェルスタッペンはペレスの後ろの4位でルクレールとの差は10秒ありました。序盤は予選結果と同じルクレール、サインツ、ペレス、フェルスタッペンの順でフェラーリは1-2体制を維持してレースは進みます。
45分間待って再スタートしたので、その間にも路面は乾いてきており、1周目の終わりにはストロール、ラティフィ、ガスリーがインターミディエイトに交換します。シューマッハが4周目、角田とベッテルが6周目にインターミディエイトに交換します。
この時点でレーシングラインはかなり乾いてきました。ガスリーは速いタイムを連発し、抜けないモナコでオーバーテイクを見せていました。チームとドライバーはいつタイヤを替えるかを無線でやりとりします。インターミディエイトに変えるか、いきなりドライに変えるか。悩みどころです。タイヤへの負荷が低いモナコは路面が乾いてきても、ウェットタイヤでかなり走れます。2016年のハミルトンはその一番の事例です。ハミルトンはウェットタイヤを交換せずに走り続けて、直接ドライタイヤに交換して勝利を得ました。なのでサインツは16周目にインターミディエイトに交換するように指示されましたが、彼はそれを拒否します。
ペレスはその16周目にインターミディエイトに交換。先にレッドブルに動かれたフェラーリには決断の時となります。
問題はこの時、タイヤ交換をすると中団勢の中で戻らざるを得ないことでした。もし遅いマシンの後ろで戻ると、同一周回の(遅い)ライバルは道を譲りません。そうするとフレッシュなタイヤを履いていて、1周当たり数秒速くても抜くことはできないので、簡単にタイムを失います。
レッドブルはペレスを先に入れる事には躊躇がありませんでした。ペレスを先に入れてそのペースを見て、フェルスタッペンのタイヤ交換を考えればいいですし、フェラーリが反応してくれれば、またそれもいいからです。
そして実際にそのようになりました。インターミディエイトを履くペレスは見る見るうちにフェラーリとの差を縮めます。当初はルクレールとの差が25秒ありました。そしてルクレールはその2周後の18周目にタイヤ交換をしますが、その時にはペレスとの差は19秒。ピットストップのロスタイムは約24秒なので、ここでタイヤ交換すればペレスが先行するのはわかっていたはずですが、チームはタイヤ交換を指示します。17周目のペレスとルクレールとの差は24秒あったので、もし1周早くルクレールのタイヤ交換をしていれば、ルクレールはペレスの前でコースに戻れていたかもしれません。
もし17周目にタイヤ交換しないなら、サインツと同じようにレインで走り続けさせるべきでした。これがフェラーリが冒した最初の判断ミスです。
そしてそのすぐ後に、2度目の判断ミスをします。19周目にドライにタイヤ交換したリカルドのタイムが良かったので、他のドライバーが続々とドライタイヤに履き替え出します。そして今回はフェラーリが先に動きます。この時点でトップを走るウエットを履くサインツとルクレールを21周目に同時にピットに戻します。インターミディエイトを履くペレスはサインツより5秒も速く、サインツの2秒後方に迫っていたので、先にドライに交換しペレスのアンダーカットを防ごうとします。
しかし後ろを走るルクレールがチームのピットに戻ってきたとき、サインツがまだタイヤ交換しており、待たされてしまいます。サインツのタイヤ交換にかかったタイムは24秒でしたが、ルクレールは更に遅い28秒もかかってしまいます。
このタイムロスにより、次のラップでフェルスタッペンがタイヤ交換してコースに戻ると、ルクレールはフェルスタッペンの後ろの4位に落ちます。
またサインツはコースに戻る時にピット出口でウィリアムズのラティフィとサイドバイサイドになり結局ラティフィに抜かれてしまいます。そしてブルーフラッグが振られているのですが、ラティフィはトンネルまで約半周ほどサインツを抑え込み、約3秒をロスさせてました。そしてこの3秒はペレスをトップにするには十分な時間でした。
そして22周目にペレスがタイヤ交換後に戻ったときには、サインツは2位に落ちていました。ここでサインツがラティフィを責める気持ちはわかります。しかしコースに戻る時の録画を見るとサインツはかなりマージンを持って加速していることがわかります。
一方のペレスはコースに戻る時にイエローラインギリギリまで寄せて、ガードレールギリギリまで攻めて、立ち上がりでもアクセルを踏み、結果としてイエローラインを踏みそうになりました(フェラーリから抗議が出されたが却下された)。それに比べるとサインツのコースへの戻り方は少し穏やかです。もしサインツがギリギリまで攻めていたら、ラティフィの前でコースに戻れていたと思われ、そうすればさすがのラティフィもサインツを抜きはしなかったでしょう。そしてもしそうならトップにはペレスではなく、サインツがたっていたことでしょう。
スリックタイヤに交換後の順位はペレス、サインツ、フェルスタッペン、ルクレールとなり、ここでレースの勝敗は決まりました。
この後、27周目にシューマッハがクラッシュして赤旗中断になり、このあと両チームの判断は分かれました。再スタートの時点でレッドブルの二台はミディアムに交換し、フェラーリはそのままハードを履かせます。この時点で2時間ルールがレースに適用されることは確実で、78周は走りきれないことがわかっていました。
そのためレッドブルはミディアムに交換しても走りきれると考えました。トップのペレスはいかようにもペースをコントロールできますからね。ただ想像以上にグレイニングがひどくて、ペレスは苦しみますが、ハードを履くサインツもまたグレイングに苦しみ、順位は変わらずペレスーサインツーフェルスタッペンールクレールの順でフィニッシュします。
ペレスにとって幸運だったのは、彼とフェルスタッペンの間にサインツが入ったことでしょう。もしフェルスタッペンが2位なら、スペインGP同様チームは迷うことなくチームオーダーを出していたはずです。ところがサインツが2位にいればレッドブルはチームオーダーを出すことができません。もしサインツがインターミディエイトに変えるというチームの指示を拒否していなければ計算上4位になっていたはずであり、その場合フェルスタッペンは2位になっており、チームオーダーが出されていたはずです。
レッドブルの判断も素晴らしかったと思います。ただ彼らの誤算はペレスがトップでフェルスタッペンが3位になったことでしょう。もっともフェルスタッペンはチャンピオンを争うルクレールより前でフィニッシュして、ポイント差を広げることができましたから、セットアップが決まっていなかった状況では悪くない結果です(ペレスがフェルスタッペンの15ポイント差まで近づいていますが)。
この日のペレスは上位4台の中では一番リスクを冒しました。最初にインターミディエイトに変えたとき、彼はノリスの後ろで戻りました。この時、ノリスが走り続ければペレスはタイムを失い順位を失っていたでしょう。ところが幸運なことにノリスは次のラップでタイヤ交換し、ペレスの前が開け、新しいインターミディエイトを履くペレスはそこからフェラーリとの差を急激に縮めて、最終的に勝利を収めることになります。
またそもそも序盤にペレスが3位を走れていたのも、予選で3位だったからで、その予選もQ3の最後のアタックでペレスが壁にぶつかって、それにサインツが接触、赤旗中断となって得たポジションでした。もちろんセットアップの決まっていなかったフェルスタッペンが最後のアタックをしても、逆転できなかったかもしれませんが、昨年のルクレールが自分のクラッシュでポールを決めたように、なんとも中途半端に終わった予選でした。
いくつかの幸運はありましたが、雨のモナコで優勝するのは簡単なことではありません。抜けないモナコは面白くないという意見もあるとは思いますが、たまにはスペインでフェルスタッペンに勝利を譲ったペレスが優勝する素敵な話が合ってもいいのではないでしょうか。
ルクレールは地元モナコとの相性が良くないですね。今年は完走こそできましたが4位。もし雨が降らずにドライ路面だったらルクレールの勝利は間違いなかったでしょう。なんか地元ブラジルで勝てなかったセナを思い出しますね。
それにしても、どうしてこうフェラーリは作戦ミスを連発するのでしょうか。速さが互角の両チームですから、レースの勝敗に作戦が及ぼす影響は大きくなります。昨年同様、フェラーリが作戦ミスを繰り返すなら、チャンピオン獲得は遠のいてしまいます。
フェラーリは有利だと思われていたスペインとモナコで勝利を逃しました。このあとはレッドブル優位のアゼルバイジャンとカナダです。不利なレッドブルがスペインとモナコで連勝したのですから、フェラーリがこれらのレースで勝てないとは言えません。ただ相当頑張らないとレッドブルに傾きかけた流れを止めることができないでしょう。